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「『楽しい』で終わったことは人生で一回もない」バカリズムの真意

中西正男芸能記者
原作、脚本、主演を務める映画「架空OL日記」が公開されるバカリズム

 芸人、司会者、脚本家、俳優など様々な顔を持つバカリズムさん(44)。主演、脚本を担当し、2017年に放送された連続ドラマ「架空OL日記」が同タイトルで映画化され2月28日、全国公開されます。ドラマ版の脚本が評価され「第36回向田邦子賞」を受賞するなど、マルチに才能があふれ出してもいますが、自分の中では「『楽しいなぁ』で物事が終わったことは、人生で一回もない」と話します。その真意とは。

完全なるボケ

 ドラマの時からそうだったんですけど、この作品で必ず起こる現象があるんです。僕が制服を着て当たり前のようにOLさんを演じるので、撮影の最初の頃はスタッフさんがクスクス笑ってるんです。でも、慣れちゃうと、誰も見向きもしないという(笑)。

 共演のOL役の女優さんたちもこちらを同性として扱うというか、別のお仕事でご一緒する時より、女優さんとの距離は確実に近くなります。同じ制服を着ているというのは、それだけ意識に変化を与えるのかなとも感じています。

 逆に撮影が終わって制服から私服に着替えた瞬間、皆さん、急によそよそしくなるというのもあります。「うわ、男だ」となるみたいで(笑)。

 もともと原作となったのは(2006年から3年間)僕が暇つぶしに書いていたOLさんになりすましたブログなんです。その頃は今ほどお仕事もなかったですし。

 知り合いにだけ実は自分が書いてることを伝えて、その人たちだけが笑ってもらえたらいいなと思って始めたんです。完全なるボケとして。

 ただ、やり始めると凝り出して。自分の中でもシチュエーションとかディテールが定まってきまして。また、それで楽しくなっていったんです。

 身内向けの遊びだったのが徐々に広がっていって、途中からバカリズムが書いていると名前を出したら、またそこで広がって。そうしたら書籍化の話をいただき、次はドラマにしませんかという話までいただきまして。

 でも、映像にするにあたって、これを普通に女優さんにやってもらうと、ただのOLのドラマになって、面白くもなんともない。じゃ、映像化するとしたら主人公のOLは僕が演じるしかないなと。

 僕がOLさんになりすまして書いていたブログをドラマにするんだったら、当たり前みたいに男の僕がOLさんの役を演じているという、そんな異常性があった方がいいのかなと。

 そのドラマがいろいろと賞をいただき、また今度は映画にもなる。最初は趣味で始めたものが、まさか、まさかのうちにこんな形になりました。

「珍しい脳です」

 ブログ、そして、ドラマ版を見てくださった方々から「よく女性の気持ちが分かりますね」とか「そこに気づくなんて」みたいなことを言ってもらったりもするんです。

 これは僕の頭の中の話になりますけど“よく気づく”とか“気づくポイントが違う”とかそういう感じではないんですよね。すごく正確に言うと、多くの人が一歩二歩入って終わるところに更に踏み込んで徹底的に納得するまで考える。そんな感じだと思います。

 ずっとそんな感覚はあったんですけど、それが自分の中ですんなり腑に落ちたのは2年ほど前でした。

 肩こりとか首の痛み、偏頭痛がひどくて、一回きちんと診てもらおうと。病院に行ってMRIを撮ってもらったんですけど、そこで担当の先生から言われたんです。「これはすごいですよ。非常に珍しい脳です」と。

 「左脳がすごく発達してるんです。これは“超”論理的思考の証。誰よりも考えすぎて全パターン考えないと気が済まないし、自分で結論を出すまで納得しない。そんな感じじゃないですか?」

 そう言われた瞬間、自分の中にストンと入りました。脳だったんだと。むしろ、僕は感覚的なタイプだと思っていたので、右脳が大きいのかなと思ったら、あ、そっちだったんだと。

 ただね、それを僕に伝える時の先生の顔がずっと半笑いで(笑)。よっぽど珍しくて昂っていたのかもしれませんけど「自慢できますよ。画像を焼きましょうか?」と言われました(笑)。

「楽しい」で終わったことはない

 やり始めたら、そのことをずーっと考えちゃう。実際、それは子どもの頃からありました。いい方に転べば仕事にも生かせますし、悪い方にいくとすごくネガティブにもなります。

 例えば、旅行って、普通は楽しいものじゃないですか。前日あたりにワクワクがピークになってきて、行きしなはルンルン。これから楽しいことがたくさんあるぞ!という感じで。

 現地に着いて実際に楽しい思いをして、帰るあたりになって「あ、もうこれで終わりか…」と寂しくなっていく。だいたい、そんな感じですよね。

 ところが僕は非常に早い段階から「どうせ寂しくなる」ということを想像しちゃって、行きしなから既に憂鬱なんです。初日から終わることを考えて、先取りで憂鬱になるというか。

 なので、旅行で言うと一日は余裕がないとダメなんですよ。旅行の翌日から仕事だと、最後の日に本当に気分が最悪になるんで、一日余裕をもって、帰ってきてもまだ休みが一日あるからという状態を作っておく。

 さらに、家に帰ってから「夜にあれをしよう」とか、翌日にもう一つ楽しみを作っておくとか、そうやって憂鬱にならないための“保険”を複数作っておくんです。

 なので「楽しいなぁ」で物事が終わること、ただただ「楽しい」というのは、人生で一回もないです。

 もちろん、楽しい瞬間もあるんですよ。そこを切り取れば楽しいんですけど、どこか心の中で「でも、これ、終わるもんな」と思いながら楽しんではいますね。

画像

 これに関しては誰に言ったとしてもあまり理解してもらえないし、もし理解してもらってアドバイスをいただいたとしても、多分、僕が考えてることの方が正しいんで(笑)。

 というのは、僕の方がこの性格の歴が長いんで、その散らし方も知っている。「もっとポジティブに考えた方がいいよ」と言われても、そもそも脳みその問題ですし、もうこれでずっと来ちゃってるし、自分と脳の形が違う人の話を聞いたところで性格は変えられない。

 そして、何より、もう慣れてますからね(笑)。それで困ってるわけでもないし。なるべく困らないためのことはもう既にやってますしね。

今は100のうち40

 でもね、もっと面白い人間になりたい。そこだけはずっと納得しないままやってます。僕自身の精度を上げたいというか。

 完全体になりたいんです。どこの現場に行っても、全てを真芯でとらえて爆笑をとる。脚本を書けば全部面白いと言われて、コメント一つ一つも全部100点。何やっても面白い。そうしたら仕事をやっていて、ずっと楽しいと思うんです。さぞかし気持ちいいだろうなと。

 ここまでやってきて、まだ全くなってないですから。完全体を100としたら、今40くらい。半分にもいってません。しかも、これから歳も取っていきますから。衰えていく中で、さらに上を目指す。これは、相当やらないと。

 …え、結婚して変わったことですか?そんなに感じることはないんですけど、結婚して「守りに入ったな」とか「丸くなった」とか言われたらどうしようという思いはありますね。

 そこを気にしすぎて、必要以上に下ネタを言ったり、過激にいこうとしたり。そんな自分がいるので、今、バランスをとっている最中です(笑)。そりゃ、完全体のはずないです。

(撮影・中西正男)

■バカリズム

1975年11月28日生まれ。福岡県出身。本名・升野英知。マセキ芸能社所属。95年にお笑いコンビ「バカリズム」を結成。2005年にコンビ解散後はピン芸人として、コンビ名をそのまま継承し活動する。ピン芸人ナンバーワン決定戦「R-1ぐらんぷり」で4回決勝に進出。また、大喜利日本一を決める「IPPONグランプリ」では最多優勝回数を誇る。昨年12月には元「でんぱ組.inc」の夢眠ねむと結婚した。銀行勤務のOLを装って綴ったブログを実写化した連続ドラマを映画化した「架空OL日記」が2月28日から公開される。出演は、バカリズム、夏帆、臼田あさ美、佐藤玲、山田真歩、シム・ウンギョン、石橋菜津美、志田未来、坂井真紀ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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