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白石和彌監督が語る“うまい役者”とは

中西正男芸能記者
最新作「ひとよ」への思い、そして、これまでの監督人生について語る白石和彌氏

 「凶悪」「孤狼の血」などの作品で知られる映画監督の白石和彌さん(44)。ここ数年は、バイオレンスあふれる激しい作品が目立っていましたが、最新作「ひとよ」(11月8日公開)では家族の絆を描いています。次々と話題作を生む白石監督が語る“うまい役者”とは。

もう限界

 「ひとよ」の公開まであと少しとなりましたが、俳優の皆さんもそうですし、試写などで見て喜んでくださっている方もたくさんいらっしゃいますし、いい旅立ちができればなと。頑張って作った映画なので、作品の親としてその旅立ちを見届けている感じです。

 撮影中のことでまず思い出されるのは茨城での風景ですね。どの作品でもイメージにピッタリの場所を探すというのがすごく重要なんですけど、今回は特に苦労しました。

 物語の舞台となるのはタクシー会社なんですけど、こちらが思い描くタクシー会社がなかなか見つからなかった。探してから5カ月経っても見つからない。「惜しい!」と思えるものもない。セットを一から作るお金はなかったので、見つからなかったら本当にどうしようもなかったんです。本当に「もう、いよいよ限界」というところで、見つかったんです。

 本当にピッタリそのままで、この建物のために本を書いたんじゃないかと思うくらい、築年数から雰囲気まで完全に一致したんです。

 ただ、今も現役で営業されているタクシー会社さんだったので、そこで撮影をさせてもらうということは、その間は会社としての機能が停止することになる。それは普通ありえないことだったんですけど、これはもうね、見つけちゃったんで(笑)。本当に粘り強く説得をしてもらって、有り難い話、使わせていただきました。

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うまい役者

 あと、場所同様、今回特に意識したこととなると、とにかく“うまい人”を集めた。それはありましたね。そんなにキャストの数が多くはなかったので、一人一人芝居のうまい役者さんに出てもらわないといけない。これはね、子役に至るまで、納得のキャスティングでした。

 うまい人の定義というのは難しくて、それって、多分に感覚的なことでもある。あえて、言葉にするなら“自然に見えながら、ちゃんと演出家なり、監督である僕の想像を超えてくれる”ということですかね。あとは“僕がお願いしたことを100回繰り返せる”。そういう人もうまいということなんだと思います。

 それで言うと、今回は皆さん、ほぼ毎回僕が考えることをヒョイと超えてくれたというか。その度、その度に感動がありました。

 あと、今回、これまでとは“味”が違う映画とも言われるんですけど、それは周りの人が言っているだけであって、デビュー作から「凶悪」とか「孤狼の血」みたいな暴力的な映画ばかりを撮ってきたわけでもない。

 自分の中では、そんなに大きく変わることでもなくて、映画の内容なりに多少撮り方が変わるところもありますけど、基本的には何か大きな違いがあるわけではない。毎回毎回新たな作品にチャレンジしているだけなので、今回も本当に特別感はないんです。

ターニングポイント

 映画監督の仕事をやって10年になるんですけど、自分の中で意識が変わったのは(18年公開の)「止められるか、俺たちを」ですね。自分の師匠(若松孝二)の若い頃を描きながら、その周りの人たちも描く。どこか自叙伝というか、セルフドキュメンタリーみたいな感じで、自分にとっての青春を焼き付けられた感じでした。

 それ以来、妙な言い方にもなりますけど、人の評価をあまり気にしなくなった。一つは、ちゃんと誠意を持って感想を言ってくださる方もいますし、そうじゃないパターンもある。良い悪いじゃなくて、それが現実ですから。なので、そこに一喜一憂しなくなったというか。

 あと、大きかったのは、この作品で自分が本当にやろうと思うことをやりきったということ。自分が心底やりきったからこそ、あとは「もうどう思われてもいい」という思いになれたというか。その覚悟が定まったというか。

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 それと、作る以上は誰かの人生に鉄槌を打ち込みたいと思って作ってもいます。

 時々「監督の映画を見て、サラリーマンを辞めて俳優をすることにしました」という人に出会ったりもするんですけど、自分がやったことが人の人生に影響を与える。そんな言葉を聞くと、それは純粋にうれしくもあります。この仕事ならではのことですし。

 これからも自分が作りたい映画を、堅実に、一つ一つ足元を見ながら、おごらず、群れず、撮っていきたいと思っています。

 休みの日ですか?ま、なんだかんだで、本を読んだり、映画を観に行ったりで過ごしてますね。あとは風呂に入って、酒を飲むくらい(笑)。何にしても、あまり健康的でパーッとした感じではないですね…。

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(撮影・中西正男)

■白石和彌(しらいし・かずや)

1974年12月17日生まれ。北海道出身。若松孝二監督に師事し、様々な作品に参加。2009年の「ロストパラダイス・イン・トーキョー」が長編デビュー作となる。13年には映画「凶悪」で数々の映画賞を受賞。17年には「彼女がその名を知らない鳥たち」でブルーリボン賞監督賞。18年にも「孤狼の血」「止められるか、俺たちを」「サニー/32」で同賞を受賞した。最新作「ひとよ」(11月8日公開)は、15年前の事件がきっかけで別々の人生を歩んでいた家族が再開し、絆を取り戻そうとする物語。出演は佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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