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40周年を前に、新田純一が掲げる恩返し

中西正男芸能記者
来年から40周年イヤーに突入する新田純一

 来年、芸能生活40周年を迎える俳優の新田純一さん(56)。中森明菜さん、小泉今日子さん、早見優さんらと“花の82年組”として華々しくアイドルデビューし、その後は俳優として時代劇、現代劇問わず活動の場を広げてきました。今や舞台に、映像に、各方面から声がかかる存在となりましたが、その原点は約35年前の京都にあるといいます。

アイドル時代は宝物

 “花の82年組”。今考えても、みんな大きな存在になりましたよね。堀ちえみ、中森明菜、早見優、小泉今日子、松本伊代、三田寛子、「シブがき隊」…。みんな、それぞれの場所で頑張っている。刺激をたくさんもらっています。

 若い頃に頑張るのは当たり前で、そこから年月を経ても頑張り続ける。浮き沈みの激しい世界でやっていくのは本当に大変だし、結婚したり、子どもができたり、離婚したり(笑)。みんな、人生を膨らませながら頑張ってますもんね。

 昔は歌番組もたくさんあったし、アイドルが猛烈に忙しい時代だった。何をやっていたのかというと、何をやっていたのかも思い出せないくらいの忙しさだったんですけど(笑)、その時代のアイドルを経験できたというのは宝物だと思っています。

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NG23回

 その中でも、ひと際強く思い起こされるのは時代劇との出合いです。

 僕が21歳、22歳の頃に、里見浩太朗さんが主演される日本テレビの年末時代劇スペシャル「忠臣蔵」に出していただいたんです。

 現場は東映京都撮影所。時代劇なんてやったことがなかった自分が、いきなりそこに入ることになった。京都の東映の皆さんはスタッフさんも、大部屋の皆さんも、みんなプロ中のプロですからね。ビシッとできて当たり前。そりゃ、もう、叩きのめされました。

 里見さんが大石内蔵助で、息子の大石主税が坂上忍。僕は主税の友人・矢頭右衛門七役だったんです。

 自分の父親である矢頭長助が病気で四十七士に入ることができない。討ち入りに参加できない。なんとか、自分を仲間にしてほしいと切腹覚悟で白装束で四十七士の前へ出て「勘定方・矢頭長助の倅、矢頭右衛門七にござりまする。お願いの儀あって参上仕りました」と訴えかける。今から考えても緊張するようなシーンですけど、僕、そこでNGを23回出したんです。

 目の前には日本を代表する名優の方々がズラリ。また、この年末時代劇は当時日本テレビが全力を傾けて作って、紅白歌合戦にぶつけるというものでした。なので、みんなの気合もすごい。

 そんな中で舞い上がってしまったところもあると思いますけど、厳密に言うと、23回NGを出したというのも、後から聞いて分かっただけで、NGを出している途中からは記憶がないんです…。

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 監督からも「もう東京に帰らせる」と言われたりもしましたし、これは大変なことになったなと。ここで何とか踏ん張らないと、何もかも終わってしまう。これ以上は絶対に失敗はできない。そんな思いが頭に渦巻いていました。

 そんな中で、また別の場面で“母親のことを思いながら山道を必死に走るシーン”というのがあったんです。頭の中は「次何かあったら、東京に帰される。そして、何もかもおしまいだ」という思いでいっぱいでしたから、とにかく必死に走りました。芝居というか、ドキュメントというか、もう本当に素の僕からの悲壮感が相当出ていたのだと思います。

 これがまた、何がどう作用するか分からなくて、その悲壮感と、母を思って必死に走るさまがピタリと合ったんでしょうね。全力疾走を終えて息を整えていたら、監督が「お前の走りで、涙が出てきた」と誉めてくださったんです。そして、翌年の同じ枠の作品「白虎隊」にも連続して出してもらうことにもなりました。

 何がどう転ぶか、まさかの流れというのはあるものなんだなと(笑)。ただ、必死になって何かに取り組む。そのことが思いもしない良き流れを引き込むものだとその時に痛感しました。

時代劇の継承

 そこからは時代劇の魅力も少しずつ分かってきて、里見さんから「長七郎江戸日記」にも呼んでいただけるようになっていきました。

 そして、これは自分が歳をとってきて、純粋に真似たいなとも思うんですけど、僕が23回NGを出した時、主役の里見さんは一言も怒らなかったんです。「大丈夫!大丈夫!」と笑ってらっしゃいました。その人間としての奥行きというか、広さ。そこは少しでも近づけるようにしていきたいと思います。

 今、時代劇が非常に少なくなってしまっています。まさか「水戸黄門」が終わる時代が来るとは思ってませんでしたから。ただ、だからといって、時代劇がなくなることはないだろうし、また流れが訪れることもあると思います。なので、その日が来た時にきちんとできるように、自分を磨いておく。そして、自分が教わってきたものは若い人たちに伝えておく。これはやらねばならないことだと思っています。

 何と言っても、時代劇は独特ですから。当たり前ですけど、日常生活ではやらないし、経験しない所作や決まりごとがたくさんある。だからこそ、知っている人間が教えない限り、若い人たちはできませんからね。

 カッコつけるわけじゃないんですけど(笑)、やっぱり、歳をとってきたからなのか、自分がもらったものは次に送っていかないといけない。それは強く思うんですよね。

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(撮影・中西正男)

■新田純一(にった・じゅんいち)

1963年5月8日生まれ。東京都出身。フジテレビのオーディション番組「君こそスターだ!」で審査員特別賞を獲得したことをきっかけに芸能界入り。81年にNHK「レッツゴーヤング」で「サンデーズ」のメンバーとしてデビューを果たす。21歳から俳優として本格的に活動を始め、様々なドラマや舞台に出演する。BS11「八代亜紀いい歌いい話」(木曜、20時)に出演中。来年にはデビュー40周年に突入する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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