一人になった「が~まるちょば」HIRO-PONが“ウソの壁”から学んだこと

4月から一人で「が~まるちょば」として活動しているHIRO-PON

 言葉を使わないサイレントコメディーのデュオ「が~まるちょば」からケッチ!さんが3月末で脱退し、残ったHIRO-PONさんが一人で「が~まるちょば」を担うことになりました。1999年、それまで別々に活動していた二人がデュオを結成しましたが、20年目に新たな一歩を踏み出す形になりました。普段、ステージでは言葉を発しないHIRO-PONさんが脱退の真相、今後への思いをリアルに、そして、力強く語りました。

二つだけ質問

 ソロで5~6年やった後、1999年から二人で「が~まるちょば」としてやりだしまして。そこから20年弱ですね。ケッチ!が「やりたいことが他にできた」ということで辞める話になりまして。その話を聞いたのが去年の秋でした。

 僕たちは「1+1=2以上になるんだったら」ということで、これまでやってきました。なので、ケッチ!が辞めると言うのであれば、僕が止める筋合いはない。別に、ケンカしたわけでもないんです。

 ただ、辞めると聞いた時に、二つだけ質問をしました。

 「それは相談なのか、最終決断なのか」

 「二人で『が~まるちょば』をよくすることは考えなかったのか」

 一つ目に関しては「最終的な決断です」と。二つ目に関しては「自分が辞めることがベストだと思った」という答えだったので「だったら、分かった」と答えました。

 もともと、それぞれやっていたものですから、そこを引き留めるものでもないですし。そして、辞めると言っている人間を引き留めて、これから先、良いものができるとも思えない。ケッチ!が辞めると言うならば、それを受け入れる。これは、極めて自然なことでした。

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性格は真逆

 性格もキャラクターも全然違いますからね。僕はパントマイムに、深く、深く入り込んでいこうとする人間ですけど、彼はまた全然違う方向でもありましたから。そもそも、この仕事をやるのも週休5日の生活をイメージしてのことでしたしね(笑)。

 僕は石橋を叩いて、叩いて、割ってしまうタイプ。彼は割れた石橋をピョンピョン飛んでいくタイプ。今回の申し出も、彼のキャラクターのままというか、即興的なインスピレーションで動く人間ではあったので、その流れなんだろうなと。

 ただ、それこそ20年近くやってきて、一回もケンカをしたこともないです。もちろん、互いに秘めた不満はあったんだと思います。ただ、それを表に出してうまくいくことなんかない。オトナな関係と言いますか。ケンカして良くなる部分もあるのかもしれませんけど、自分の主張を強く出して、何か良い形になるわけでもないですし。

解散ではなく脱退

 もちろん、人のことなんで、彼が内に秘めていた思いは僕にも分からないところがあるかもしれない。辞める真意というのも突き詰めて尋ねてはいないですけど、今回彼が“脱退”という形をとったのも、これはケッチ!君の優しさだと思います。

 “解散”ではなく、自分は「が~まるちょば」という船を下りるんだと。ということは、船自体は残るわけですから。これは、僕にとってはすごく大きなことですからね。

 リアルと言うか、僕らの仕事は興味を持ってもらって、劇場なり、イベントに足を運んでもらうことが全てですから。純粋に知名度が重要です。20年近くかけて「が~まるちょば」という言いにくい名前を覚えてもらい、世界からお声をかけてもらえるようにもなった。この名前を捨てるのは、あまりにも捨てるのはもったいない。ずるいかもしれないですけど、それが事実なんです。そこが残るか残らないかは、とても重要な部分ですから。

ウソだから限界がない

 パントマイムって、壁とか、階段とか“ないものをあるように見せる芸”と思われてるかもしれません。もちろん、それもパントマイムの一部ではあるんです。ただ、僕が考えるパントマイムの醍醐味は“言葉を使わずに思いを伝える”ところだと思っています。

 言葉を使わないからこそ、ダイレクトに思いが伝わる。そこで生まれる感情の揺らぎこそがパントマイムならではの感動になると。

 そして、パッと聞いたら分かりにくい表現かもしれませんけど、パントマイムはどこまでいっても、ウソです。だから、100点がないんです。なので、どこまでも追い求められるんです。

 というのは、そこに本当は壁はないし、階段はないんです。その意味ではウソ。そして、ウソだからこそ、リアルではないからこそ、限界がないというか。本当にそこにあって、そうなっているんだということをお客さんに強く感じてもらう。ここの技術にゴールはないんです。いくらでも追求できる。

 昨日の自分より、今日の自分の方がさらにできるようになる。その目標と気概があるからこそ、ずっとやっていける仕事なんだろうなと僕は考えています。

“壁”から学んだこと

 また、パントマイムから教わることもたくさんあります。目の前に壁があるというパフォーマンス、もちろん、実際に壁はないんです。ただ、それでも壁があると本気でイメージすると閉塞感であったり、圧迫感を感じるものなんです。

 これをもっと深く考えると、自分がイメージしたことによって自分が変わるということですから。何かがあったわけではないのに、漠然と不安を感じる。そして、どんどんしんどくなる。そんなことってよくあると思うんですけど、これも“本当はない壁”の構図と似ているわけです。

 ウソで作った壁で圧迫感を覚えるならば、その逆もできるんです。ネガティブな方向ではなく、ポジティブな方向にイメージを膨らませる。自分が作り出したイメージが自分を変える。この仕組みを教えてもらったのは、とてもラッキーだったと思います。

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パントマイムの真価

 そして、今回は15歳未満のお客さんは恐縮ながら入ることができない“R指定”のイベントにさせてもらいました。これまではお子さんに向けてのパフォーマンスというのも多分にやってきたんですけど、僕がソロでやってきた演目にはシリアスなものやサスペンスなどもある。

 子ども向けのもの。そして、笑い。これまで出してきた色とは違うものを今回はお見せしますよという思いを込めて“R指定”にさせてもらいました。いろいろな考え方はありますが、今回はこの色で行こうと。なので、別に、すごくエロいことをやるわけではないんですよ(笑)。

 他の舞台芸術に負けず劣らずと言うか、さらに最先端とのことがパントマイムにはあると思っています。そこには役者の技量が要るわけですが、そこがあれば、国境問わず、言葉以上のものが伝わる。これを広く伝えていければなと思っています。

ベストのために

 僕、一番好きな食べ物がチョコレートなんですけど、それは5年ほど前から断っています。自分がやりたいことをやるために、ベストを追求するために、体もベストにしておかないといけませんし。そして、1人になった今年の4月1日から変えたこともありまして。細かいところですけど、これまではお米ともち麦を合わせたものを炊いていたんですけど、1日からはもち麦だけを炊いています(笑)。

 あと、2人でやっている時は基本的にはコメディーだったので、主に求められるのは経験だったりメンタル的なものだったりしたんですけど、1人でやるとなると、フィジカルの部分も重要になってくる。

 なので、トレーニングで走る距離を倍にしました。これまで公園の外周1周だったところを2周してます。ま、これはシンプルにしんどいですけど(笑)、そうやって、なんとか死ぬまでパントマイムをやっていきたいと思っています。

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(撮影・中西正男)

■が~まるちょば

それぞれ別々に活動をしていた東京都出身のけっち!と埼玉県出身のHIRO-PONが1999年に「が~まるちょばを結成。よしもとクリエイティブエージェンシー所属。言葉や文化を超えたパフォーマンスで国際的に活動し、30カ国以上のフェスティバルなどから招待を受けてきた。2004年に世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」でダブルアクトアワードを受賞。今年3月末でケッチ!が脱退し、ヨーロッパに移住した。一人になって初の単独ライブ「が~まるちょば公演 MIME CRAZY」(東京・テアトルBONBON、6月7日~9日)を開催。同公演は15歳未満は入場できない「R指定」公演となっている。また、HIRO-PONがMCを務めるライブエンタテイメント「NO BORDER」(7月7日から9月16日まで、大阪・大阪・COOL JAPAN PARK OSAK SSホール)も行われる。趣味はバイク、革ジャン、音楽。

立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。2003年、故桂米朝さんにスポーツ紙として異例のインタビューを行う。「上方漫才大賞」など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、株式会社KOZOクリエイターズに所属する。現在、ABCテレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞する。また、CNN、BBC、ニューヨークタイムズなどが使用する記事分析ツール「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。

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