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久本雅美を輩出した「劇団ワハハ本舗」主宰・喰始氏が語る「一番イヤなこと」

中西正男芸能記者
「劇団ワハハ本舗」主宰の喰始氏

 久本雅美さん、柴田理恵さんらを輩出した「劇団ワハハ本舗」主宰の喰始(たべ・はじめ)さん(71)。劇団創設から約35年が経ちますが、6月にも「ベストオブ全体公演~ショー・マスト・ゴー・オン~」(東京・シアターサンモール)を開催するなど、ますます歩みは力強さを増しています。笑いを追い求める中で生まれた裸パフォーマンスをめぐり、警察が劇場に踏み込むなどの事態もありましたが、ゆるがぬ信念をまっすぐな言葉で語りました。

“ラスト”から一転

 2年前、ワハハ本舗の全体公演としてはもうラストにしますということを打ち出して公演をしたんです。ただ、そうは言いつつも、また、何かをやりたいなとは思っていました。

 また何かをやろうと思った時には“この指とまれ”みたいな感じで、やりたい人を募ってやれればくらいに思っていたら、こちらが指を立てる前に、久本や柴田が「ラストと言わず、また何かやるよね?」と言ってきたので(笑)、じゃ、それならば、またやろうかとなっていったんです。来年は東京オリンピックで海外からのお客さんも多くなるし、外国の人に公演を見てもらいたいという思いもありましたしね。

 ただ、来年やる公演は全て新作なので、その前に、来年に向けての決起集会というか、これまでのベスト盤というか、そういうものをやろうと。そして、ワハハ本舗をこれまで見たことがない人にとっては知ってもらう場にもなるようなプレイベント的なことになったらなと思ってやるのが6月の公演なんです。

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SNSの本質

 立ち上げからもう35年以上やってきて、いや、まぁ、よく続いたなと思いますよ(笑)。今回の公演ではこれまでの演目の中から見てほしいもの、やりたいものを選んで上演します。なので、今までの振り返りみたいな要素も強いんですけど、やっている演目自体は昔から変わらないけど、時代が変わったなと。それを感じることも多いです。

 演目によっては裸芸みたいなこともやりますから。今の時代だったら、それこそ、変な話、SNSとかにもしも何かの流れでアップされたりしたら、別に法に触れることはもちろんやっていませんけど、妙な形で話題になっちゃうこともあるかもしれない。全体公演をやらなかったこの2年の間にも、SNSはどんどん発達していますしね。

 今は、エンターテイメントだけじゃないですけど、社会全体に“SNSで発信して広められること”に委縮している部分がある。僕が思うにですけど、SNSにあげる人間も、何かを糾弾しようとか世の中を変えようという人はそんなにいなくて「オレがアップしたことで、これだけ世の中が騒ぎになった」というゆがんだ満足感を得るためにやっている場合が多いと思う。僕はそれが一番イヤですね。しかも、無記名で。その物事に賛成や反対の思いがあってやるならまだしも。

自主規制だけはしない

 ただね、僕はそういったものは一切気にしません。僕が一番嫌いなのは自主規制。不特定多数の人が見るテレビでも何でもないんだから、自主規制だけはやめたいと思っています。

 出る杭は打たれると言いますけど、今は出なくても打たれることもある。ただ、そこまで恐れていたら、それこそ何もできないし、何も始まらない。それではモノ作りの意味がないですから。

 これはネット云々ではなく、2008年には裸芸的なことをしている話が変に広まっていって、警察が劇場に踏み込んできたこともありました。別に、法律的にダメなことをやっているわけじゃないし、同じように舞台で裸に近い格好になっていても、一方で芸術性の高い舞台だとスルーされたりする部分もある。

 これはよく言われることですけど、じゃ、こっちは踏み込まれて、そっちは大丈夫というのはどこに線引きがあるんだと。そうなると、よりいろいろな思いは強くなるし、考えさせられますよね。

 ただね、警察の中にもいろいろな人がいるんですよ。同情するというか「こんなこと、目くじら立てるようなことじゃないんですけど…」という人もいれば、居丈高に最初からこちらが悪いと決めつけて上から来る人もいる。

 そういったことに接すると、一つ心底思うのは、権力というか、力を持っている人間がろくでもないヤツだと大変な時代になるなということです。そのイスに誰が座るのか。それで変に線引きされるというのもイヤなもんですけど、そういう部分は事実としてあるし、世の中の恐ろしさの一つだと本当に思います。

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年寄りにはつかない

 ま、僕も自分の年齢のことを考えると、いろいろ思うんですよ。歳をとってくると、自分の脳の中にある財産を残しておくことへの思いも強くなってくる。「こういう風に考えると作りやすいよとか」「こうやった方がこの世界で生き残りやすいよ」という蓄積を伝えておきたくもなるんだけど、そこまで慕ってくるヤツがいないんですよね。

 というのも、今の時代は、ある意味、恵まれている。映像でも、いろいろな表現でも、やろうと思ったら、誰でもネットなりなんなりで簡単に発信できちゃう。

 これが以前のようにシステムがなかったりして個人ではできなかったら、何かしら先輩についたり、教えを乞うてそれができる環境に身を置くしかなかった。でも、今はそれが誰でもできる世の中になった。となると、僕らみたいな年寄りには寄ってこないですよね(笑)。

 そして、これは全般的に、わざわざ足を運んでまで何かを得るということもしなくなっている。ネットで調べて分からなければそこで終わり。わざわざ図書館に行って、何かを調べるということはやらないですから。

 ただ、その流れの中でも、ワハハの舞台は一度見に来れば「こんなに面白いものがあったなんて…」と思わせる自信ああります。映像で見るのとも違うよと。そこは、今の時代だからこそ、より一層、自負を持ってやっていきたいとも思っています。

DVD集め

 逆に、僕なんかは、実際に足を運んで探したり、見つけにかかったりというのがクセになっているんでしょうね。今、僕がハマっているのが、全国のレンタルビデオ屋さん、レンタルDVD屋さんに行くこと。

 店舗によってあったりなかったりもするんですけど、世間的にはあまりヒットしなかったというか、いわゆるB級、C級みたいな映画を5枚1000円とかで売ってるんです。それを探して買い集めるのが今の僕の趣味です。

 仕事で地方に行ったりすると、日本中のレンタルDVDショップを歩き回っています。そこで20枚とか30枚とか買って帰るんです。ただ、これね、とてもじゃないけど、全部は見られません…。とにかく持っているという、これもゆがんだ満足感みたいなものですけど(笑)。

 5~6年前からこの趣味を始めて、今で4000~5000枚は集まりましたね。DVD集めを始めてから、仕事的に変化したことですか?ま、仕事的にはそんなに影響はないというか(笑)、心境の変化みたいなことはないですね…。ただ、一つ明らかに変わったこともあります。それは家が見事にゴミ屋敷になりました(笑)。

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(撮影・中西正男)

■喰始(たべ・はじめ)

1947年12月25日生まれ。香川県出身。本名・川田耕作。日本大学芸術学部在学中に永六輔が主宰する作家グループに所属し、日本テレビ系「巨泉×前武ゲバゲバ90分」で放送作家デビュー。84年に佐藤正宏、柴田理恵、久本雅美らを率い「劇団ワハハ本舗」を立ち上げる。ワハハ本舗2020年プレイベント「ベストオブ全体公演~ショー・マスト・ゴー・オン~」(6月11日~16日、東京・シアターサンモール)ではこれまでのワハハ本舗全体公演の中から選りすぐりの演目を上演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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