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「絶対にかっぱらってくる」注目のバイプレイヤー・広島光を駆り立てる雑草魂

中西正男芸能記者
名バイプレイヤーとしての期待が高まっている広島光

 佐藤二朗さん、ムロツヨシさんら劇団で腕を磨いた実力派俳優が映画・ドラマを席巻していますが、今、急速に注目が高まっているのが広島光さん(43)です。劇団「新宿梁山泊」で研鑽を積み、昨年から映像にも本格進出。俳優・池内博之が主演する日中合作ドラマ「逃亡料理人ワタナベ」(3月23日からひかりTVで独占先行配信)にも出演します。バイプレイヤーとしての期待が高まっていますが「僕は花でもなく、木でもなく、雑草。一つ一つのお仕事から、毎回、何かをかっぱらっていきたい」と真っすぐな目で語りました。

舞台に囲まれた環境

 もともと両親が演劇の世界に入ってまして。劇団前進座で母親が製作部、父親が文芸部にいたんです。なので、小さな頃からずっとお芝居の世界を見てきて、知らず知らずのうちに目指す感覚はありましたね。

 そのうち、映画で松田優作さんだとか、萩原健一さん、渡辺謙さんを見て憧れるようになって、実際に高校を出て俳優の道を選ぶんですけど、若い頃はもっとすぐに売れると思っていました(笑)。まさか、こんなに激しい道を行き、そして、苦労するとは思ってませんでした。

 役者をやっていくうちに、どんどん泥臭い役者に憧れるようになって、30歳の時にアンダーグラウンドな色合いを持った新宿梁山泊に入りました。その頃、ちょうど上の方がトントンと辞めちゃった時期でもあった。なので、比較的早くから中心的な役を振られるようになりまして、劇団のお仕事が年に7~8本はある状況でした。となると、必然的に外の舞台やお仕事に触れることもなく、劇団のことだけに邁進する日々が7~8年続きました。

外の世界へ

 そうこうしているうちに、若い人たちが育ってきてくれまして、なんというのか、そうなると、今度はこっちが別のところにも行かないと詰まってくるというか(笑)。なので、少しずつ外でのお仕事が増えていったという感じですね。

 去年6月から新宿梁山泊が芸能事務所・ケイパークさんと業務提携することになり、より一層、映像作品にもご縁をいただくようになった。その中で、これはいい意味で、自信がなくなったんです。

 というのは、本当に新人になったような気分で、とにかく新鮮。舞台とメディア的な映像の世界、同じお芝居とはいえ、全然違うものだなというのを痛感しています。

 舞台は自分の気が済むまでけいこができるんです。自分が考える正解に向かって、どこまでもストイックになれる。ま、それは自己満足の世界だと言われたらそれまでなんですけど、どこまでも作っていける。ただ、映像は違う。監督とか周りの方が望むものを、一発でできるのか。自分の満足とはベクトルが違うんです。

 そこにはまだ慣れない。ただ、だからこそ、どんどん意欲が出てきます。なんでしょうね、今のメディアのお仕事もものすごく好きなのに、なかなかできない。思いはあるのに、それがなかなか形にできないもどかしさ。そんな“片思い”が続いているような感じですね。えらく、おしゃれに言ってしまうと(笑)。

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ケンカしてこい

 あと、アングラと言われる舞台でやってきた中で、もし、今役立っていることがあるとすると“雑草の闘争心”ですかね。どこの現場に行っても、自分がやりたいことをすんなり心地よくできる場なんてない。監督さんとか、周りの役者さんとかとのやりとりや考え方の違いなどを踏まえた上で、自分がどこまでどんなものを出すのか。

 もちろん無理に噛みつくことはないですけど、いわば現場での“精神的な格闘技”みたいなものもある中で、先輩方からは「もう今日で『使わない』と思われても仕方がないというくらいの根性でやってこい。ケンカしてこい」と言われ続けてきました。その腹の据わり方みたいなところは、いろいろな形で役立っている気はします。そういった局面で、一歩押され負けないというか。

 役者さんにもいろいろなタイプがある。人の目をひくような花を咲かせている方もいらっしゃいますし、大木のような存在感を持っている方もいる。それで言うと、僕は雑草なんです。華も壮大さもないけれど、強さがある。健気さがある。そういうものだなと。

絶対にかっぱらう

 あと、これまで僕のやってきた芝居って、テンションで押し切るような芝居だった。ただ、今、僕が映像の方にも来させてもらって、頻繁に見て勉強しているのが佐藤二朗さんとムロツヨシさんなんですけど、お二人なんかは、そこの方法論が全然違うんですよね。人が期待していることをあえてフッと外して、もっといい答えを投げ込むというか。

 観念的な世界になってしまいますけど、こういうことって、僕のアタマにはこれまでなかった。ただ、今、僕も新しい世界でお仕事をさせてもらうようになって、そういう感じで“ちょっと出て、ものすごく印象に残って、スマートに去っていく”ということもできるようにならないといけないなと思っています。

 なので、今は全ての現場に「影響されよう」と思って向かっています。もっと踏み込んだ言い方をすると「絶対に、何かをかっぱらってこよう」と。

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 今回の「逃亡料理人ワタナベ」では岸谷五朗さん演じる刑事の部下という役柄だったので、ずっと岸谷さんと絡ませてもらっていたんですけど、役者としての色気がすさまじかった。

 撮影は兵庫・淡路島でのロケで、丸4日だったんですけど、岸谷さんの方から自分をぐいぐい引っ張ってくれるというか。岸谷さんとは今回が初対面だったんですけど、頭のてっぺんからつま先まで俳優さん。見とれちゃうんです。

 こんなこと言ったら怒られますけど、いわゆるイケメンではないし、顔なんて僕の二倍くらいある(笑)。でも、色気がすごいんです。なぜそれだけの色気が出るのか。目が離せないのか。これは僕には分からない。でも、魅了されました。

 この魅力の源は本当に分からないけど、とにかく自分がダラダラしていては絶対にこれは出ない。それだけは感じたので、くだらないことかもしれないけど、岸谷さんとのロケが終わってから、筋トレを始めました。岸谷さんを見て、自分の肉体に何かしら負荷をかけないとダメだと直感的に感じまして。

相互作用

 今はまだ答えを模索しているところですけど、舞台で叩き上げてきたものを使って外のお仕事の機会をもらい、外で新しいものをかっぱらう。そして、また舞台でワンランク上のものを築いて、外に呼んでもらって、自分が築いてきたものをフル活用して、さらに、そこでかっぱらう。そういった相互作用を自分の中でやり続けることをライフワークにしたいなと今は思っています。

 ま、これは偶然以外の何物でもないですけど、ムロさんとは生年月日が1日違いなんです(笑)。ムロさんの方が1日兄貴で。全く面識はないんですけど、勝手に何とも言えぬ縁も感じますし、これからもたくさん勉強させてもらって、頑張りたいと思います。どこまでも、こちらの一方的な思いで何とも恐縮ですけど(笑)。

(撮影・中西正男)

■広島光(ひろしま・こう)

1976年1月22日生まれ。東京都出身。94年、演劇集団「円」の養成所に入所。その後、俳優・演出家の壌晴彦に師事する。98年、壌主催の「座」に参加。2005年からは劇団「新宿梁山泊」のメンバーとして活動する。昨年から「新宿梁山泊」と芸能事務所「ケイパーク」が業務提携したことをきっかけに映像作品への出演機会が急増。今年1月に放送されたテレビ朝日系「古舘トーキングヒストリー〜幕末最大の謎 坂本龍馬暗殺、完全実況〜」にも出演。俳優・池内博之が主演する日中合作ドラマ「逃亡料理人ワタナベ」(3月23日からひかりTVで独占先行配信)にも登場する。同作は、妻殺しの容疑者にされた天才料理人・ワタナベ(池内)を中心にしたグルメ、サスペンス、コメディーの要素を併せ持つ新感覚ドラマ。他の出演者は岸谷五朗、いとうあさこ、三浦貴大、中村蒼、筧利夫ら。脚本は一雫ライオンが手掛ける。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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