50歳で役者デビュー、異色の俳優・イルファが語る「この歳から役者をやった理由」

50歳から俳優活動を始めたイルファ

 50歳を迎えた昨年から俳優活動を始め、今年1月に行われた福岡・博多座公演「島津亜矢特別公演」からオファーが来るまでに注目度が高まっているのがイルファさん(50)です。年商200億円のアミューズメント企業社長という顔も持っていますが、満ち足りた生活の中でなぜチャレンジに打って出たのか。社長、歌手、俳優と本気で“三刀流”を目指す意味も語りました。

キャリア1年で博多座

 1月、福岡・博多座で島津亜矢さんの公演からオファーをいただいて、それはそれは感慨深いものがありました。周りは目黒祐樹さん、池上季実子さん、田中健さんら実績のある方ばかり。その中で、しっかりと筋に絡む役をいただき、役者の仕事を始めてわずか1年でこれをさせていただけるのは、ただただ有り難いことだなと感謝しています。

 僕が役者という仕事に関して語るのはおこがましい限りですけど、仮に役者を20歳から始めていたら今の自分はないとも思いますし、今回の博多座にも出られていたかどうか分かりません。

 50歳から始めたことによって、今まで生きてきた経験、人との出会い、そういった蓄積があったのは間違いない。そういったものが役者の仕事に生きているなんて偉そうなことは言えませんけど、何とかして生かさないといけない。その思いはあります。それじゃないと、50歳から俳優をやりだした意味がない。さらにシビアにいうと、そこをどうにかして生かさないと僕という存在への需要が生まれない。だからこそ、何とかそこを強みに変えられるように、考えてやってきました。

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43歳で歌手デビュー

 これまでのことを話させてもらいますと、もともと音楽には関心がありまして、音楽系の大学を卒業後、さらに音楽の勉強をするためにアメリカに行ったんです。日本に帰ってきたのが24歳。そのまま音楽の道に行こうとしたのですが、その時点では縁がなく、いろいろな仕事をして、29歳で親の会社に入って、40歳で父親のあとを継いで社長になりました。

 ただ、一方でずっと音楽への思いもあり、36歳の時に親の会社とは別に個人的に芸能事務所を立ち上げたんです。そこで4人のアーティストが所属してくれまして、プロデュース業という立場で、芸能界に関わりを持つようになりました。

 でも、その時点ではあくまでもスタッフの側というか、自分が出るという意識はそこまでなかった。それを盛り立ててくれたのが今でも深い付き合いをしている俳優の山口馬木也という存在です。音楽事務所を立ち上げる少し前に俳優の六平直政さんを通じて彼に会ったんですけど、ずっと「兄さんは、こっち側(芸能界)の人間だ」と言ってもらいまして。それがずっと引っかかっていたんです。43歳の時に「iLHWA meets.杉山清貴」名義で「さよならのオーシャン」をリリースし歌手デビューしました。

 さらに、2014年にご縁が重なって、映画「ベイブルース~25歳と364日~」を製作したんです。そこから芝居への意識がさらに高まって、50歳になる去年から実際にそこのフィールドに立ったというのがこれまでの流れなんです。

50歳の俳優デビュー

 50歳で役者に挑戦する。ま、普通に考えたら、なかなかない選択肢だとも思うんですけど、そこに踏み出した一番の思いは「体一つで勝負したい」ということでした。

 本当に正直な話、僕は二代目の社長なので、どこに行っても、誰と会っても、やっぱり僕の後ろに会社というものが見えた上での接し方をされる。社長としての衣を着た僕を皆さんが見てくる。そんな中、50歳になって、肩書も何にも関係なく、自分の肉体一つで何ができるのか。そこに挑んでみたいと思ったんです。

 単なる“社長の道楽”や“金持ちの思い出作り”ではなく、真剣に勝負してどこまでいけるのか。そうでないと、やる意味が全くないですし、シビアに現実と向き合ってきました。その中で、昨年から本当に有り難いことにひっきりなしにオファーをいただいて、博多座で大きなお芝居もやらせていただけるようになった。

経験を武器に

 実際の話でいうと、去年の4月に出た舞台「殺しのリハーサル」では、劇場支配人という役をさせていただきまして。そこでは、まず誰よりも早くけいこ場に行って、毎日けいこ場の掃除をするところから始めていました。

 こんなこと、本来は声高に言うことではないんですけど(笑)、それには2つの意味があって、まずはド新人だから誰よりも早く行くのは当たり前。これは俳優、社会人関係なく、自分が生きてきた中で、当然だと思ってやってきたことをそこでもやったということでした。

 そして、もう一つは、劇場の支配人役だったので、物語上は劇場という設定になるけいこ場を誰よりも知っておいた方が役に入りやすいだろうと考えたんです。劇場のことを一番知っているのが支配人。ならば、僕もその空間のことを誰よりも知っている存在になっておこうと。ま、素人の安易な考えですけど、どうやったらその役の気持ちに近づくことができるのか。それを自分なりに考えたら、毎日掃除をしていました。

 あと、次の舞台「ブラックコメディ 見えない人たち」では会社社長の役をさせてもらうんですけど、これは自分の経験がストレートに生きる役となりました。社員に対する接し方、会社を経営する上での考えるべきこと。こういったことは、日々僕が社長として考えていることがそのまま下敷きになりますので、ここは直接的に自分の経験を参考にしています。

 ビジネスの場で大きなお金を動かす。社員の人生を背負って経営判断をする。そんな場を日常的に経験していると、不躾な意味ではなく、どんな大物俳優の方と会っても変にたじろぐことはない。長く生きてからこの世界に入ったので、どんな役をするにしても、全く知らないシチュエーションというのはほぼない。

 もちろん、いろいろな経験をしてきただけではダメで、それをお芝居の場でどう表現するのか。ここには圧倒的なプロの技が必要なわけで、まさにそこを必死になって勉強しているところです。

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 夢は大きく、歌手でNHK紅白歌合戦。役者としては朝ドラと大河ドラマ。社長業も、役者も、歌手も、全部本気の本業なので、志は高くやっていきたいです。これは人によって違うのかもしれないですけど、僕にとっては、一つではなくいくつかの仕事を本気でやるというのがちょうど向いているようで。

 ものすごく子供じみた表現になってしまいますけど、オレンジジュースばっかり飲んでいたらその味に慣れてしまうけど、コーラを飲んでから、またオレンジを飲むと、新鮮に美味しく感じられるし、新しい美味しさを感じることもある。そうやっていく方が、僕にとっては良い効果をもたらすようでして。

 以前、非常に重みのある警部の役をやった時に、舞台上にそうそうたる役者さんたちがいらっしゃって、その方々を前に、少し居丈高に「ご苦労様」というシーンがあったんです。どうしても、すごいメンバーを前に「ご苦労様」とすんなり言うことができない。そこで、自分が経営しているフグ屋さんに皆さんをお呼びして、ごちそうさせてもらって、やっと心のつかえがとれたというか、少し前向きに「ご苦労様」が言えるようになったこともありました。

 ま、これは役作りとしては反則に近いものだったのかもしれませんけど(笑)、そういったものも込みで、より役に近づけたらなと。これも50歳から始めた自分ならではの役作りだと思い、使えるものは全て使って、死ぬまで本気でやっていこうと考えています。

(撮影・中西正男)

■イルファ

1968年4月16日生まれ。兵庫県神戸市出身。本名・平山日和。アメリカへ音楽留学後、社会人を経て、自ら「イルファレコード」を創設。2011年、自らも「iLHWA meets.杉山清貴」名義で「さよならのオーシャン」をリリースしデビューする。また、昨年1月には舞台「OH! MY GOD! 2018」で俳優デビュー。舞台「殺しのリハーサル」「ブルースな日々~夢に向かって~」「ダンスレボリューション~ホントのワタシ~ 2018」 「スポットライト(BACK STAGE STORY)~2018」などにも立て続けに出演する。また、今年1月に福岡・博多座で行われた「島津亜矢特別公演」で商業演劇にも進出。舞台「ブラックコメディ~見えない人たち~」 (3月13日 ~21日、東京・築地本願寺ブティストホール)では第1部「自業自得」で主役を演じている。ABCラジオ「高山トモヒロのオトナの部室」にレギュラー出演中。歌手としてはイルファ、俳優としては本名で活動している。独身。