Yahoo!ニュース

村上弘明が語る恩人への思い

中西正男芸能記者
恩人への思いを語る村上弘明(写真は事務所提供)

 現代劇、時代劇問わず存在感を見せる俳優・村上弘明さん(61)。2009年から主演を務めるTBS系ドラマ「警視庁南平班〜七人の刑事〜」(月曜、午後8時)も29日から第11作がスタートします。還暦を過ぎてもなお歩みの速さを緩めることはありませんが、その礎を築いた恩人への言葉を噛みしめるように話しました。

「必殺」がきっかけ

 人生の恩人と言える方ってたくさんいらっしゃいますし、いろいろな意味の恩人もいらっしゃる。なので、なかなか難しいんですけど、今の私につながる流れを作ってくださった。そういう意味でいうと、映画「十三人の刺客」やABCテレビの人気シリーズ「必殺仕事人」などを手掛けた工藤栄一監督です。

 工藤さんとの出会いのきっかけは「必殺」シリーズでした。私は1985年に放送された「必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜」で初めて「必殺」に出演したんですけど、最初は“花屋の政”という花を使って相手を倒す仕事人役でした。そこから半年ほどやらせてもらったんですけど、花で倒すのはリアリティーに欠けるんじゃないかという声もあって鍛冶屋に商売替えしまして(笑)。そこの作品「必殺仕事人V・激闘編」で工藤さんとお会いしたんです。

カツラはつけなくていい

 “東の黒澤明、西の工藤栄一”と言われたくらいの方ですけど、何と言いましょうか、とてもこちらのことを目にかけてくださいまして。「必殺」でご一緒した時に「オレの言う通りにやったら、ものすごくカッコよく撮ってやるから」「オレにお前の身長と顔を貸してくれたら、1カ月、いや2週間で大スターになってやるよ」と言われまして。要は、工藤さんなりのエールと鼓舞と言いますか、今から思うと「何をくすぶっているんだ!いいものを持ってるんだから、もっとドーンといけよ」という思いを込めて言ってくださっていたんだなと感じています。

 そこからまたご縁がありまして、89年にテレビ東京の新春12時間超ワイドドラマ「大忠臣蔵」でご一緒することになりました。

 「必殺」は時代劇といっても、かなり現代的な設定で、言葉も今の時代に近いし、カツラもつけずに地毛だった。その12時間ドラマで初めて本格的に侍役をやったんです。刀を差して、侍の恰好をして。かなり不安があったんですけど、そこでも工藤さんから言葉をいただきまして。

 「カツラはつけなくていい。地毛でいい」「セリフも侍らしい言葉で書いてあるけど、今の言葉でいい。見るのは今の人なんだから」「殺陣のシーンはお前の好きにやればいい。子どもの頃にチャンバラやったことあるだろ?あれでいい」とこっちの不安を取り除くようなことを次々と言ってくださったんです。「せっかく現代っぽい姿かたちを持ってるんだから、時代劇とはいえ、それを生かしてやればいいんだ」と。工藤さんの言葉で、すごく楽になりました。救われたというか。

独特のエール

 ただね、一方で型破りというか、想定外のこともされる方でして(笑)。収録中のある日、私のセリフは「承知しました」「かしこまりました」「わかりました」みたいな相槌を打つような言葉が三言、四言くらいの感じだったんです。なので、ま、正直「今日は楽勝だ」と思っていた。じゃ、現場に着いたら「ここのシーン、ちょっと変わるから。台本なんて気にすんな。台本通りにやると思ったら大間違いだ」といきなりおっしゃいまして。そして、その場でセリフをレポート用紙に3枚ほどびっしりと書かれて「これでやるから」と。

 見ると、ほとんど私のセリフなんです。思わず「…え、これ、私がしゃべるんですか?」と尋ねてしまいました。「今から照明の調整もあるし、10分くらいあるから。ま、とにかく覚えられるところまで覚えろ」と。結局、必死にやって、なんとか最後までできはしたんです。

 その時は「なんて、恐ろしい人だ…」と思いましたけど(笑)、でも、そんな感じでいろいろなところでシーンを増やしてくれたんです。それだけ出番も増えるし、役も膨らむ。セリフは増やせばいいというものではないんですけど、こちらが生きる形で膨らませてくださった。いろいろなパターンで、こちらを乗せるというか、やる気を引き出すのが本当にうまい方だったと心底思います。

 最後も、殺される役だったんですけど、非常に“良い死に方”を与えてくださった。それがテレビ東京の方の目にとまって、その年の秋から放送されたドラマ「月影兵庫あばれ旅」で主演をさせてもらうことになったんです。それが時代劇初主演でした。

画像

工藤さんの遺言

 また98年にはテレビ朝日開局40周年記念ドラマ「新選組血風録」で工藤さんとご一緒するんです。主演の近藤勇が渡哲也さん、私は土方歳三役でした。

 その時に工藤さんに言われたのは「芝居はいろいろやってきてるし『月影』の頃よりも成長してきた。あと、これからはスタッフに気を遣え。そうすれば、お前はこれから大、大、大俳優になるから」と。

 あとは「英語を勉強しろ。これからは海外で勝負する時代が来る。お前は身長もあるし、顔もそれなりだし」ということ。そして、私が岩手・陸前高田の出身でなまりで苦労していたこともご存じだったので「今度、東北のなまりが抜けない、それで苦労する侍の物語を考えているんだよ。人にだまされたりもするんだけど、最後まで人を信じて生きる侍。やってみないか」ということ。この2つも言われました。そして、その1年後に亡くなられました。今から思えば、この作品で工藤さんから言われたことは、全て遺言みたいなものでしたね。

 その言葉をもらって、とにかくスタッフルームに行くようになりました。撮影が終わってから。終わると、映画屋さんというのはスタッフルームに集まって、差し入れの酒がたくさんありますので、それを飲みながら、いろいろな話をするんですよ。そこに参加するようになりましたね。そこに行くと、自分が役者のアタマでいくら考えても気付かないことを教えてもらえるんです。

 そして、関係性が深まると「それだけのものを持っているんだから、立ってるだけでいいんだよ。あとはオレたちがカッコよく撮るから」と言ってもらえる。そんなことを言ってもらうと、やっぱりうれしいし、救われる。みんなとやっているということを肌で感じられるようになりました。

 もし、工藤栄一さんがひょいと現れたら「なにやってんの?もっと、もっと頑張んなきゃだめだよ、それだけのものを持ってて!」と今でも言われるでしょうね。私ももういい歳になりましたけど、間違いなく怒られると思います(笑)。

■村上弘明(むらかみ・ひろあき)

1956年12月22日生まれ。岩手県陸前高田市出身。オスカープロモーション所属。法政大学在学中の79年に「仮面ライダー(スカイライダー)」のオーディションで主人公・筑波洋役に選ばれ、デビューを果たす。85年にテレビ朝日系「必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜」に花屋(後に鍛冶屋)の政役で出演。時代劇、現代劇問わず存在感を見せ、09年から続くTBS系の人気シリーズ「警視庁南平班〜七人の刑事〜」に主演。第11作が10月29日からスタート(月曜、午後8時)する。警視庁で鬼と恐れられる南部平蔵(村上弘明)を班長とする“南平班”の7人の刑事の活躍を描く物語。共演は鈴木一真、伊藤かずえ、高田純次ら。

■工藤栄一(くどう・えいいち)

1929年生まれ。北海道出身。映画監督。代表作は映画「十三人の刺客」「大殺陣」など。また、テレビ朝日系「必殺仕置人」などのテレビドラマでも才能を発揮した。2000年逝去。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

中西正男のここだけの話~直接見たこと聞いたことだけ伝えます~

税込330円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

中西正男の最近の記事