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「君は不幸な人間」渡辺大を救った津川雅彦さんの言葉

中西正男芸能記者
思いをストレートに語った渡辺大

 主演映画「ウスケボーイズ」(10月20日公開、柿崎ゆうじ監督)で「マドリード国際映画祭」外国語部門最優秀主演男優賞、「アムステルダム国際フィルムメーカー映画祭2018」最優秀主演男優賞を受賞した渡辺大さん(34)。役者として大きな階段を登った形にもなりましたが、常に根底にあるのは、悩みの淵から救ってくれた故津川雅彦さんの言葉だと言います。

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やってきた印

 17歳から今の仕事を始めて、17年経ちました。人生の半分、ま、フラフラとですけど(笑)、何とか俳優をやってこられた。その印みたいなものが、今回いただいた賞なのかなとは感じています。本当にありがたいことですけど。

 また、今作が日本のワインを世界に知ってもらうというストーリー。この作品や、幸運なことに僕自身まで海外の人に知ってもらえたという流れと、作品の中身がリンクすることもあり、そこのうれしさみたいなところもプラスされた気がしました。

ほろ酔いの中で

 7月、マドリードで賞をもらった時は、現地にいましたのでリアルに受賞の瞬間に立ち会えました。夕方6時頃から始まって、11時前後まで続く長い映画祭だったんですけど、食事付きで、しかも今作はワインのお話。実際、お酒もいただきながら時間を過ごしていたんですけど、なんせ長時間ですから、結構いい感じに仕上がってまして(笑)。

 また、主演男優賞とか作品賞は後半に発表されるので、かなり仕上がっていたと言いますか…。楽しくポーッとなっていたら、その中で突然「ウスケボーイズ!」という声が聞こえてきて「え、受賞したの?」みたいな感じでして。

引くに引けなかった

 本当にありがたいことだし「やってきて良かったなぁ」とも思いましたけど、ここまで歩んできた道のり、ストレートな言葉で言うならば「引くに引けなかった」というのが正直なところだと思います。

 親父(渡辺謙)もいるわけですし、僕は子供の頃からこういう世界を見てきた。人より早く、たくさん見てきた中で、本当にやりたいと思った。だからこそ、頑張りたいと強く思いますし、世間に認められるまでやりたい。

 大学行っても、教職も取らず、就職もせずだったので、そこからの選択肢がない。どこかで、絶対にこの仕事を頑張っていくしかないと自分を追い込んでいく思いがあったのかもしれません。もうここまできたら、進むしかないと。

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無駄がない仕事

 あとは、この仕事ならではの面白みでしょうね。自分の喜び、悲しみ、怒り…。それを作品に、仕事に反映できる。この感覚を得られる仕事はなかなかないと思います。

 例えば、自分の自転車が盗まれたとします。もちろん、それ自体は不幸な出来事なんですけど、その時の感情をストックしておいて、いつかそんな役やシチュエーションが来た時に、作品に入れ込むことができる。そして、その表現で誰かが喜んでくれるかもしれない。生きている全てが無駄にならない。この感覚も、この仕事ならではなんだろうなと。

津川雅彦さんの言葉

 心底、そう考えられるようになったのは、先日、亡くなった津川雅彦さんの影響が大きかったです。というのは、今から10年ほど前に(テレビ朝日系)「徹子の部屋」に出た時に、メッセージをくださったんです。「君は不幸な人間だ。いろいろなやっかみもある。苦労もするだろう。ただ、不幸が君を強くする」と。それ以降も、あらゆる局面でお話をいただいたりもしたんですけど、最初のその言葉が自分に強く刺さりまして。

 そこで、スッと道が拓けたと言いますか、それまでずっと悩んでいたんです。腕があるわけじゃないので、最初からいいスタートを切って役者人生を始められたわけではない。自分自身に腹立たしいこと、満足がいかないことが山ほどあって「ウワーッ!」となることも多々あった。いろいろと意に沿わない展開になることもあった。ただ、その時の感情は必ず役に立つんだと。

 漠然とは感じていたのかもしれませんけど、やっぱり経験の浅いアタマではそこまで達観はできない。そこに、しっかりとした道筋をつけてくださったというか、確証をもらったというか。実際、うちの親父も病気とかを乗り越えて今がある。積極的に不幸になればいいわけじゃないけれども、不幸が訪れたとしてもそれを糧にできる仕事なんだと。

壁が見えた

 それと、今回スペインに行って、ナマの空気に触れて思ったのが「海外でやるという“壁”の高さが具体的に分かった」ということでした。

 これも、漠然と「海外で活動するには“壁”があるんだろうな…」と思っていたことに、具体性が宿ったと言いますか。その壁が何メートルくらいあって、どれくらいの厚さで、どんな材質なのか。そして、そこを上るためにはどれくらい筋力が必要で、どれくらい持久力が求められるのか。さらに、その力をつけるためにはどんなトレーニングをしないといけないのか。それらが具体的に見えた感じがあります。

 もちろん、そのトレーニングが本当に大変なんですけど、まずはリアルに知ることから始まるとすると、まさに第一歩だったと思っています。

 そう考えると、本当にやらないといけないことだらけなんですけどね。なので、休みの日でも、今はとにかくやったことのないことをやろうとしています。行ったことのない場所に行ってみる。食べたことのない料理を食べてみる。仕事でも、できれば、一線で走っている役者さんと片っ端から共演したい。そうやって、何かしら未知のものを取り込む。ま、欲張りなんですけど(笑)、それくらいやらないとダメなんだろうなと思っています。

(撮影・中西正男)

■渡辺大(わたなべ・だい)

1984年8月1日生まれ。東京都出身。ケイパーク所属。2002年、テレビ東京系ドラマ「壬生義士伝 ~新撰組で一番強かった男~」で父・渡辺謙が演じた吉村貫一郎の青年期役で役者デビュー。03年には「ぷりてぃウーマン」で映画初出演を果たす。映画「男たちの大和/YAMATO」(05年)、「クローズ ZERO」(07年)など話題作への出演が続き、「ラストゲーム 最後の早慶戦」(08年)では主演を務める。その後も「彼岸島」(10年)「サブイボマスク」(16年)、「散り椿」(18年)などに出演。テレビ朝日系「就活家族~きっと、うまくいく~」(17年)などテレビドラマにも数多く出演する。主演映画「ウスケボーイズ」(10月20日公開)で「マドリード国際映画祭」外国語部門最優秀主演男優賞、「アムステルダム国際フィルムメーカー映画祭2018」最優秀主演男優賞を受賞した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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