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渋谷天笑が見すえる10年後の松竹新喜劇

中西正男芸能記者
松竹新喜劇きっての若手二枚目俳優・渋谷天笑

 昨年9月、松竹新喜劇代表の渋谷天外さんの前名を継いだ二代目・渋谷天笑さん(34)。襲名から1年が経ち、大阪松竹座9月公演「劇団創立70周年記念公演 松竹新喜劇」(3日~12日)では同劇団の看板演目「人生双六」で主要な役柄・浜本啓一を演じることになりました。故藤山寛美さんの孫・藤山扇治郎さんとともに、次代の担い手として期待されていますが「“泣き笑い”の松竹新喜劇の台本はまさに財産。それを見てくださる若いお客さんをいかに増やすか。それが僕らの仕事やと思っています」と真っすぐな目で語りました。

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襲名から1年

 渋谷天笑になってちょうど1年が経とうとしています。名前が変わっても「頑張ろう!」という気持ち、売れたい気持ちは何も変わってはいないですし、前の名前の胡蝶英治の時と同じように進んでいるつもりなんですけど、周りから怒られることが増えました。やっぱり天外さんが前に名乗っていた名前ですし“名前のハードル”が上がるというか。

 昨年9月、襲名披露公演の朝、天外さんにごあいさつをしたんです。たまたま、天外さんの楽屋の前でお会いして、そこで「おはようございます」と言った。本来のルールというか礼儀で言うと、のれんの内側、楽屋の中に伺って、あいさつをしないといけない。たまたま会った時のあいさつだけで終わらせるのではなく、ちゃんと先輩の楽屋に伺ってあいさつをする。それが礼儀。ただ、これまではそこまで言われることはなかったんですけど、その日はボロクソに怒られました。「なんやお前、天笑になって、エラなったんか!廊下であいさつして終わりか!」と。僕がちょっとでも抜けているというか、アカンところがあったら、これまで以上に「なんや、アイツ」と思われる。それを最初の最初で教えてくださったんやなと。さらに気を引き締めなさいよと。。

台本は財産

 子どもの頃はサッカー選手になりたかったんです。だけど、中学になって「自分よりうまい人がこんなにいる。これは無理や…」と(笑)。ただ、いわゆるサラリーマンになるのには抵抗があった。何かしら、専門の腕を持った職人になりたいとは思っていたんです。そんな時、ふとテレビドラマを見ていて「こんなたくさんの人を『頑張ろう』という気持ちにさせる仕事はすごい」と思いまして、役者を志しました。ただ、入ってみたら、ま、いろいろ大変ですけどね(笑)。普通に仕事をしていたら、毎月、確実に一定の収入が入ってくる。でも、役者は何もしなかったら0円。一般的には、決してお勧めしない職業です(笑)。

 ただ、自分の言ったことでお客さんが笑ってくださる。これは普段の生活ではまず感じられない快感です。しかも、ここは本当に先人に感謝するしかないんですけど、松竹新喜劇の場合は、やり継がれてきた、練り上げられた台本があるので、台本の力で僕らでも笑いが取れる。もちろん、もっと大きな笑いを取れるように、そして、しっかりした芝居ができるように、努力をしないといけない。ただ、いろいろなエンターテインメントがある今ですけど、この完成された台本というのは、まさに財産やと感じています。松竹新喜劇の基本である“泣き笑い”の芝居。とことん笑って、泣いて、重さは残らず明るい気持ちで劇場を出ていただける。これはオンリーワンやなと。

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名前を売る意味

 でも、そもそも松竹新喜劇をご存知ではない若い方も本当に多い。となると、当然観に来ることもないし、どんどん尻つぼみになってしまう。そうならないように、例えば、先日(日本テレビ系)「踊る!さんま御殿!!」に藤山扇治郎が出たんですけど、そうやって、僕らもメディアに出て松竹新喜劇を皆さんの意識の中に入れてもらう積み重ねをしていかないといけない。

 もちろん、テレビに出るのも簡単ではないんですけど、僕も東京でラジオ番組をやらせてもらったりもしていて、そういうことを続けていくことがこの先の松竹新喜劇を作ることになるんだろうなと。まずは渋谷天笑という名前を知ってもらう。それが僕の仕事やと思っています。今はやっぱり、どうしても藤山扇治郎が有名なので、そこに勝とうと思ったら、メディアもそうだし、あらゆる方法で名前を知ってもらうしかない。僕を知ってくださっている人が増えるということは、松竹新喜劇を知っている人の数が増えるということ。そうなるように頑張らないとなと。

 あと、歌舞伎でも「ONE PIECE」や「NARUTO-ナルト-」など超人気漫画をモチーフにした作品をやっているように、今までこちらを意識していなかった人たちに訴えかけるような新作も作っていかないといけないと思っています。

10年後の世界

 そして、松竹新喜劇の台本というのは、それこそ寛美先生がされていたような40歳から60歳くらいのおっちゃんの役が多いんです。今から10年経ったら、僕は44歳、藤山扇治郎は41歳になっている。となると、ちょうどいい感じにいろいろな役ができる年ごろになってくる。もちろん、僕の実力がそこまでいっていたらの話ですけど。その時にたくさんのお客さんに見てもらえる環境を作っていくのは今やらないといけないことですし、とにかく、やらなアカンことは山ほどあるなと。

 そんな中ですけど、プライベートな時間で最近、始めたのが個人フットサルです。今でもサッカーが好きで、運動と言えばサッカー。ただ、フットサルにしても、やるには味方チームと相手チームを合わせて10人は必要。それだけの人数を集めるのは大変なので、個人で登録して前日までに予約しておいて、当日集まった人同士がチームを組んでフットサルを楽しむというサークルというかシステムがあるんです。

 この前は初めての参加だったので、あまりにもサッカーに夢中になりすぎて一言もしゃべりませんでしたけど(笑)、慣れてくると、自然と仲良くなる人も出てくるやろうなと。ま、ゆくゆくは、そこでも友人を増やして、そこからひいては、松竹新喜劇の新たなお客さんを開拓していけたらとも思っています。あんまりいやらしくない程度にね(笑)。

(撮影・中西正男)

■渋谷天笑(しぶや・てんしょう)

1984年1月4日生まれ。大分県出身。2010年に松竹新喜劇に入団し、胡蝶英治を名乗る。劇団きっての若手二枚目俳優として活躍。17年9月7日初日の新橋演舞場「松竹新喜劇 新秋公演」で、新喜劇代表の三代目渋谷天外の前名である渋谷天笑の名跡を2代目として襲名した。舞台のみならず、映像での活動も積極的に行い、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」などにも出演。大阪・松竹座9月公演「劇団創立70周年記念 松竹新喜劇」(3日~12日)では同劇団の看板演目「人生双六」でメインキャストの一人・浜本啓一を演じる。身長172センチ。特技はサッカー、ダンス、ビリヤード。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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