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月亭八方、50年やって分かった自分の「役目」

中西正男芸能記者
50周年を迎えた月亭八方

 芸能生活50周年を迎えた落語家の月亭八方さん(70)。タレントから転身した月亭方正さん、関西一の売れっ子といわれる長男・月亭八光さんら弟子も順調に育ってきていますが、ここまでの道のりは平坦なものではありませんでした。いつも飄々と話す八方さんですが、50年経ったからこそ感じる今の思い。そして、弟子たちに託す“バトン”についても真正面から語りました。

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50年の重み

 50年と言いますけどね、ホンマに50年も経ったんやろうかと思うんです(笑)。ま、感覚的に言うたら、20年フラフラして、10年うろたえて、10年借金で困って、10年なんやかんややって、気づいたら今。せやから、しっかりと50年の時を積み重ねてきたという感じはないんですけどね(笑)。

 ただね、これまでの30年、40年の節目とは違うと言いますか、50年はいろいろ考えますね。「あ、そんな節目か。ま、何かやろか」じゃなく、正直な話、これで周年的なことも最後やないかなという思いもありますし…。

借金からの学び

 これまで、いろいろありましたけど、振り返って、まず思い出されるのは借金です。芸人いうたら“飲む、打つ、買う”。ホンマにね、誰がそんな言葉を考えたんやとも思いますけど(笑)、それをやってへんかったら、何と言いますか、何かが失われるというか。芸人としての何かが減っていく感じがするから、毎日それをやるわけですよ。そうなると、当然、お金なんて無くなっていく。そうなると、借りないと仕方ない。また、当時は世の中的にもポンポン貸してくれましたしね。結果、アホみたいに金を借りました。

 返さなアカンねんけど、もうどうしようもない。もうこれはアカンなと。何回も、本気で思いました。たとえば、仕事で東京のホテルに泊まっても「あ、ここのホテル、政治家の●●さんが自ら命を絶ったところやな」とか、そっち方向の考えばっかり出てくるんです。ま、相当追い詰められはしてましたわね。

 ただ、ここからはおべっかでも何でもないんですけど、そこで助けてくれたんが吉本興業です。借金のことを吉本に正直に言うて、会社に入ってもらって弁護士さんも紹介してもらって、会社にひとまず借金を立て替えてもらって、金を返すために山ほど仕事をやっていきました。当時、笑福亭仁鶴さん、「横山やすし・西川きよし」、桂三枝さん(現・桂文枝)さんらが新番組を始めるとなったら、そこに僕もどんな役ででも全部入れてもらって、働きに働きました。

 そら、もう、その時はものすごくしんどかったけど、そのしんどさは仕事の前向きなしんどさですからね。そうやって頑張ったら借金が返せていくシステムを作ってくれた会社にまず感謝ですし、借金を必死に返し始めて、気づいたら月収が3倍になってました。そして、何があっても「ま、借金してた時に比べたら、大したことないわ。命までとられることやないし」と心底思えるようにもなりました。“飲む、打つ、買う”なんて、端から見たら意味のない見栄やし、そんな金の使い方なんてせんで良かったんでしょうけどね。ただ、無駄やけど、無駄やなかった。そんなことを今は思います。

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弟子へのバトン

 だから、弟子や後輩にも「失敗はあるもんやし、苦労もあるもんや」とは言ってます。逆に言うたら、どこかで本気で困らんと、そこから進み続けることはできひん。

 方正なんかは噺家になる時に、住むところも東京から大阪に変わってるし、いろいろな見られ方もする中、全く違うことを一からやるということで、いろいろな思いをしてきた。今は噺家として頑張ってますけど、あの方向転換というか、シフトチェンジの時にした思いが、今後の彼にとっても大きな力になると思っています。

 ま、特殊なのは八光ですわ(笑)。八光は弟子であり、息子ですからね。親としたら、順風満帆に行ってもらいたい。ただ、ずっと順調なんてありえない。その時に土俵際で粘る力。これをつけるためには僕の借金みたいに、本気で尻に火がつく経験が要るんです。

 …ただね、こればっかりはわざわざスキャンダルを起こさせるわけにもいきませんしね。僕と違って、彼には家族愛がありますし(笑)。せやけど、本気で困ることも味わわないとアカン。だから、今回の50周年落語会の流れで、いきなりトリを取らせたろかなとも思ってます(笑)。ま、そんなプレッシャーは広い視野で見たら、そこまで大きなものではないのかもしれませんけど、あの手この手で尻に火をつけ続ける。それが、今、僕がやらなアカン役目なんやろうなと思っています。

(撮影・中西正男)

■月亭八方(つきてい・はっぽう)

1948年2月23日生まれ。大阪市出身。本名・寺脇清三。68年、桂小米朝(のちの故月亭可朝さん)に弟子入り。MBSテレビ「ヤングおー!おー!」で桂きん枝、桂文珍、故林家小染さんらとともに、若手落語家のグループ「ザ・パンダ」を結成。アイドル的な人気を得る。芸人の私生活で起きた事件を面白おかしく紹介する「楽屋ニュース」でも一時代を築く。熱烈な阪神タイガースファンとしても知られる。ABCテレビ「今ちゃんの『実は…』」、関西テレビ「ごきげんライフスタイル よ〜いドン!」などに出演中。50周年を記念して「月亭八方落語誘笑会」を6都市で開催。名古屋(8月18日、名古屋能楽堂)東京(9月1日、三越劇場)、徳島(9月15日、鳴門市文化会館)、兵庫(10月6日、さよう情報文化センター)、大阪(10月26日、なんばグランド花月)とまわり、最後は12月(日時未定)にタイ・バンコク公演を行う。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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