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関西スーパー騒動で流通業界関係者が思い出すあのこと

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
スーパーはすでにオーバーストア状態(撮影 筆者)

・関西スーパーを巡る騒動

 関西スーパーマーケットを巡っては、今年8月末に発表したエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングとの経営統合に対して、第3位株主であるオーケーが、関西スーパー株を株式公開買い付け(TOB)を行うと表明し、騒動が巻き起こった。

 関西スーパーは、大阪市で1959年に創業し、現在は兵庫県伊丹市に本社を置き、大阪北部から神戸市などを中心に65店舗を持つ。一方、阪急百貨店と阪神百貨店が合併して設立された持ち株会社が、小売企業をまとめて運営会社として設立したのがH2Oリテイリングだ。阪急阪神百貨店を始め、スーパー運営企業としては阪急オアシス、イズミヤ、カナートなどを持つ。

・関西スーパー騒動前に起きたこと

 実は、関西スーパーを巡る騒ぎの前に、小売業関係者を驚かせたことがある。それは、7月28日に発表された食品スーパー万代と包括業務提携だった。万代は、かつては「万代百貨店」として大阪では知られた地場スーパーであり、156 店舗、2021年2月期の売上高は約3794億円あり、H2O傘下の食品スーパーの売上高を上回っている。万代は、2015年にセブン&アイ・ホールディングスと業務提携を締結しており、関西の地場スーパーとして独立独歩かと思われていただけに、H2Oリテイリングとの包括業務提携を意外に思った流通業関係も多かったようだ。

関西スーパーを巡る騒動が明らかにする問題点(撮影・筆者)
関西スーパーを巡る騒動が明らかにする問題点(撮影・筆者)

・最大級のスーパー連合の誕生

 H2Oリテイリングの阪急オアシス、イズミヤ、カナート、さらに包括業務提携をした万代、そして関西スーパーを経営統合すれば、京阪神地域では最大級の関西スーパー連合が誕生することになる。

 対して、イオングループも、かつてのダイエー、J.フロントリテイリング系だった大丸ピーコック(2008年に松坂屋ストアなどを合併しピーコックストア)、さらに地場スーパーだった光洋を次々と傘下に収めてきた。しかし、旧ダイエーの店舗などは老朽化が進んでおり、店舗の廃止や新たな業態を目指した都市型ショッピングセンター「そよら」の進出を関西地域でも進めている。

イオングループは旧ダイエーの店舗など老朽化対策を急いでいる(撮影・筆者)
イオングループは旧ダイエーの店舗など老朽化対策を急いでいる(撮影・筆者)

・巨額の投資が必要となると同時に規模の拡大が急務

 巨大グループ同士の競争が激化することは避けられないが、これまでも関西地方には域外からのスーパー運営企業も進出をしており、さらにここにドラッグストア、ホームセンターなども入り乱れた小売業界での競争は、すでに激しいものになっている。(参考・「北摂のスーパー大乱戦~ドラッグストアにホームセンターも続々参戦」2021/4/20)

 あるスーパーの従業員は、「すでにオーバーストア状態だったところに、ここ数年でさらに新規出店が続いて、消耗戦状態。コロナ禍による特需で、昨年は売上げは堅調だったが、これからかなり厳しくなる」と話す。

 厳しい競争が始まる中で、重要になるのは販売コストの削減や労働力不足への対策である。イオングループなど大手流通企業では、配送やバックヤードの商品管理などを自動化する取り組みを始めている。さらに、レジのセルフ化やキャッシュレス化、ポイント制やネット通販との連携による顧客の囲い込みなど、巨額の投資が必要になると同時に規模の拡大が急務となっているのだ。

・流通業界関係者が思い出すあのこと

 ある60歳代の小売業の経営者は、「既視感があるなあと思ったら、2000年代の初めの頃のあれですよ」と言う。「あれ」とは、家電量販店の統合、解散、倒産が相次いだことだ。「テレビをつけても、関西ローカルの家電量販店のCMやっていたでしょ。最近、YOUTUBEなんか見て、懐かしいなあって思いましたけど、ローカル企業で残っているのは上新電機だけでしょう。なんか、同じようになっていく気がしますね。」

 ニノミヤ、中川無線、ミドリ電化、和光電気、マツヤデンキ、八千代ムセンなど、15年ほど前までは、様々な地場家電量販店を見ることができた。しかし、これら全てが経営統合や解散、倒産などで姿を消した。この経営者が指摘するように、関西の地場企業として残っているのは、上新電機だけだ。上新電機は、「唯一の関西資本」を宣伝文句としているほどだ。

・消費者としては選択肢が多い方が良いが・・

 「どこへ行ってもイオンか阪急になってきたなあって、最近、思ってたんですよね。関スパ(関西スーパー)まで、阪急になるんやったら、東京のスーパーが来る方がおもしろいのになあ。」60歳代の会社員の女性は、そう笑った。いろいろ聞いてみると、消費者としては、この女性と同じ意見の人が案外多い。

 消費者としては、看板は違うだけで、商品を見ると同じ物ばかりであれば、選択肢が少なくなっているように感じるだろう。同じグループ内で、店舗ブランドによって高級品志向からディスカウント志向まで網羅しようという戦略だが、PB商品などは統一されることが多く、消費者側に「飽きられる」危険性もはらんでいる。

 地場の中小スーパーでは、こうした需要を取り込もうとする動きもある。大阪府北部から神戸市にかけての阪神地域は高所得者層も多く、いかりスーパーマーケットのように高級品や独自商品を中心とした地場スーパーもある。

 一方で、大手スーパーグループよりも、低価格を売りにする中小スーパーもある。しかし、労働力不足の急激な進展とIT化や機械化によるコスト削減の必要性が高まった場合に、小規模では充分な投資を行うことが困難になるだろう。そのため、低価格志向の中小スーパーでは、今後、経営統合や業務提携が一層進む可能性が高くなっている。

・小売業戦国時代を制するのは

 関東系のオーケーが、ここまで関西スーパー獲得に固執しているのも、規模の拡大が避けられない課題だからだろう。

 IT化、AIの導入などは、個別化、少量多品種化、多様化を可能とするとされる。しかし、一方で小売業の現場では、高額なシステムや機材の導入はもちろん、ビッグデータと言われる通り、キャッシュレスやポイント制に関しては顧客をどれだけ多く囲い込むことができるが重要になっている。労働力不足は深刻化しつつあり、これまで人力で熟練が必要とされたバックヤードの商品管理に関しても、店舗レイアウトなどを均一化することで、自動化が進められている。

 関西地域では、新たなスーパーやショッピングモール、ドラッグストア、ホームセンターの改装や開店が続いている。その華やかな雰囲気の陰では、かつての家電量販店の消滅と統合の歴史を思い出させるような激烈な競争が始まっている。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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