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『緊急事態宣言直前セール』の虚しさ~2021年4月24日の現場から

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
明日から休業のために全品半額を打ち出した食品店も(撮影・筆者)

・なぜこんなに遅いのか 

「あまりにも遅い。数日前から、検討中検討中って、生活がかかっている人間がいることを理解していないのではないか。連休中の仕入れもしてしまいましたよ。」

 首都圏で飲食店を経営する男性は、そう話す。

 「感染者がどうしようもないくらい増加し、みんなで協力しなくてはいけないということも判っているが、それにしてもやり方がひどすぎないか。時短だとかできる限り、協力して、防止策も気を付けてやってきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けるかなあ」

  同様の意見は、多くの経営者や飲食店、流通小売業関係者から聞かれた。別の飲食店経営者は、「テレビのワイドショーでいろいろ取り上げるのなら、もう少し詳しく、どう規制されるのか、なぜ前日まで判らないようなことを押し付けるのか、報道して欲しい」と言う。

 混乱は24日の午後になっても続いており、大手企業の店舗でも案内ができていなかったり、一部百貨店では情報を得るために多くの人がアクセスしたためか接続が難しくなっているところもある。

・緊急事態宣言直前セール

 24日午後3時。大阪北部のアウトレットモール。いつもの週末のように多くの人出だが、人々の動きが少し異なっている。

 一部のテナントでは、「緊急事態宣言直前セール」や「半額セール」など急ごしらえの掲示がされ、人々が長い列を作っていた。

 「どうなるかぎりぎりまで連絡もなく、今日になって明日から当面の間、休業だと。これまで苦しかった分、連休の間に頑張ろうと、バイトの手配なども済ませていたのですが」と、食品販売店の従業員はがっかりした口調で話す。一部店舗は、連休中に新規開店の予定だったのが、延期の案内が貼られ、シャッターが閉まったままだ。

 「急なことだったので、なんにも対応できてないです。連休中は春夏物とか、レジャー用の物、それに母の日がありますし、いろいろ売れると期待していたのですが。二週間も閉めれば、季節も変わるし、去年の悪夢の再来です。」アパレルショップの従業員は言う。

 同じ午後5時。大阪のある中堅企業の経営するショッピングセンターで、「明日以降はどうなるのか」と従業員に尋ねてみた。

 「食料品販売のところは、営業すると思うのですが、他はどうなるのか、まだ本社から連絡がないです」と困惑した表情で、女性従業員は答えた。「私たちも明日来てみないと、判らないという状況なんです。」

 関西の食品メーカーの社員は、「警戒はしていたものの、連休中の人出や翌週の母の日の買い物などを期待して、各社とも準備をしていた。二週間以上休業となれば、食材など廃棄せざるを得ないものも多い。一日だけだが、せめて23日中にセールで売ってしまおうというのは、本当に虚しい」と説明する。さらに、「前回以上に飲食店に影響が出そう。それはそのまま卸し、食品メーカー、農家、漁師にまで広範囲に及ぶだろう」とも言う。

コロナ禍でショッピングモールからの退店も相次いだ。連休中に新規テナントのオープンが予定されたが、緊急事態宣言で延期になったところもある。(撮影・筆者)
コロナ禍でショッピングモールからの退店も相次いだ。連休中に新規テナントのオープンが予定されたが、緊急事態宣言で延期になったところもある。(撮影・筆者)

・要請する。補償はしない。守らなければ、罰則だ。罰金だ。

 関西地方のある中小企業経営者は、「役所に問い合わせの電話をしても、はっきりしたことが判らない。一般の人たちは、テレビに出てくる政治家さんかっこいい、頑張れ~で良いかもしれないが、現場で働いている人間にとっては、ちゃんとした情報が欲しいのに、無茶苦茶だ」と言う。「要請する。補償はしない。守らなければ、罰則だ。罰金だ。中小企業は半分でいいとか、大企業中心でやればいいと、そんな風に言われてきたのが、これかと思っている」と怒る。

 大手小売業に勤務する男性は、「政治家や官僚のみなさんが、一般の人の生活とかけ離れているのではないか。感染が急拡大したから仕方ないではないかと言うが、それはそうだ。しかし、この一年間、官僚はなにをしていたのか。三回目にもなったのだから、普通なら、すぐにこういう風に規制しますと情報を出せるように準備しておくものじゃないのか」と言う。

京都の中心街でも、すでに影響は大きく、これまでになかったペースで空き店舗が増えている(撮影・筆者)
京都の中心街でも、すでに影響は大きく、これまでになかったペースで空き店舗が増えている(撮影・筆者)

・「少し考えれば判ることがなぜ」

 22日、23日と中小企業経営者や小売業の従業員の方たちと話をしたが、ほとんどが「これだけ感染者が増えれば仕方ない」と考えている。しかし、それにしても「少し考えれば判ることがなぜ」という疑問も同時に抱えている。さらに、実効性のない対策や科学的根拠が示されない対策などに対する疑義、そして「17日間」という中途半端な期間設定が深める「オリンピック開催最優先」への批判など。それらが政治家や官僚に対する不信感につながっている。

 緊急事態宣言を発出するかどうかという検討は、1週間以上前にできたはずだろうし、出した場合にどういった措置が必要かも検討する時間は充分にあったはずだ。中央官庁の責任の重い。

・対立を煽る手法は止めるべき

 政府の緊急融資や雇用調整助成金などで、これまで倒産件数は増えなかったが、多くの中小企業で借入金が急増している。各種調査などからも、この第三次の緊急事態宣言で、資金難に直面し、さらなる廃業や倒産が増加する危険性が高まってることが理解できる。今回の緊急事態宣言発出までに時間がかかったことや、連休期間にぶつかったことで、経営難が深刻化する企業が増加することは予想できる。「協力金」名目で対応するべき段階は過ぎている。

 一部の政治家や関係者は、依然として自分たちの不手際や失敗を認めず、おもしろおかしく原因や責任を第三者に押し付け、地域間、業種間、職種間などでの対立と分断を煽るという手法を採り続けている。しかし、そのような手法は、対立と分断を深めるだけで、コロナ禍からの復興に大きな障害を生み出す。

 今回の第三次の緊急事態宣言発出をみても、多くの経営者や従業員は、不満を口にしながらも、これでコロナ禍を乗り越えて、次の段階に進みたいと考えている。第一次の緊急事態宣言発出時とは異なり、前日に買い占めなど大きな混乱は起こっていないようだ。多くの人たちは、冷静に事態を見ている。

 明日から当面、第三次の緊急事態宣言が続く。第一次、第二次よりも衝撃は小さいが、その悪影響は深刻化する様相だ。協調、連帯を打ち出し、地道に実務をこなす政治家と官僚の登場が求められている。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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