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焦るな危険~大学生は「長期インターンシップ」と言う名の無給バイトに騙されるな

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

・「厳しい就職状況に有利な長期インターンシップを」の真偽

 最近、一般化した感のあるインターンシップだが、株式会社ディスコ キャリタスリサーチが2月16日に発表した「新卒採用に関する企業調査(2021 年 2 月調査)」によれば2020年度にインターンシップなどのプログラムを実施した企業は、全体の6割と前年度に比較して大幅に減少しています。

 その実施期間は、前年度 6 割の企業が実施していた「1 日」プログラムが約 4 割にまで減少し、短期化が進んでいる。また、オンラインのみでの実施も約7割となっている。

 そんな中で「長期インターンシップを経験しておくと就活で有利」という話が大学生に出回っている。東京都内の大学に通う大学生は、「バイト先の先輩から、長期インターンシップは就活の際の売り文句になるし、インターンシップ先から就職先を紹介してもらえることもあって良いと聞いた」と言います。関西地方の大学に通う大学生も、「コロナでオンライン授業になり、時間もあるので長期インターンシップをしないかと同級生から言われた。お金にもなって一石二鳥だと強く勧められた。」と言います。

 こうした「厳しい就職状況に有利な長期インターンシップを」という先輩や同級生の誘いは本当なのでしょうか。

・「本当に長期インターンシップなのか」

 この話を中堅企業で採用を担当している方にしてみると、次のような回答が返ってきました。

 「そもそも本当にインターンシップなのでしょうか。何かを販売してバイト代が入っているのであれば、それはインターンシップとは評価されません。友人相手に物を販売するような行為をインターンシップと主張すれば、はっきりいってマイナス評価になりかねません。それから、長期か短期なんて評価にはならないです。そのインターンシップになぜ参加したのか、なにを得て帰ってきたのかが問題で、期間の長短は関係ないです。」

 政府が発表している資料(※)によれば、「インターンシップは、学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行う場であり、大学等の教育の一環として位置づけられるもの」であるとなっています。

・長期インターンシップで「友情営業」?

 首都圏の大学職員に話を聞くと、「この一年、急に相談が増えているのが、インターンシップの説明会に行ったら、友人に物を販売しろと言われたというものです」と言います。「長期インターンシップで、営業や販売などの実態を教えるという触れ込みのようですが、実態は友人や知人に販売したら、いくら。さらに、その説明会に10人連れて来たらいくら。それができなければ、友人に頼んでSNSなどで宣伝してもらえというもの。それこそが重要な友情営業だなどと教えており、とても大学としてインターンシップと認められるものではないです」と言います。

 やはり首都圏の大学生の子供を持つ保護者の男性は、「先輩から何度も誘われ、就職にも役立つからと説明会に連れていかれた。二回目に連れいかれた際に、長期インターンシップに参加すれば、販売額に応じてバイト代も入ると聞き、怖くなって、親に相談したと言うのです」と話します。

 「そもそもそんなものはインターンシップではないし、私も会社で営業マンをしていますから、販売をするということの意味や責任を説明し、そんなことをしていると友人からの信頼を失って、就活に有利不利の話以前のことだと言いました。」

 この男性が子供から話を聞いて、非常に奇異に感じたのは、A社の製品しか販売しないのに、「最も良いものを選んで友人に購入させるのだから、友人にとっても得だし、それで利益を得られる自分も得だ」という説明だったと言います。

 「その商品に詳しい知識があり、A社のものはこう、B社のものはこう、C社のは、と説明してくれて、どれにしようかと一緒に考え、金儲けもしないのが友人だろうと話しました。最初から特定の商品を売るのが目的で、それで利益を得るのならば友情もへったくれもないだろうと笑ってやりました」と男性は言います。

・新型コロナ禍で学生同士、学生と教員などの交流が減ったため

 関西地方の大学4年生に聞くと、「そうですか。僕たちは、ゼミとかサークルでそういう話をするので、あの先輩が勧めているバイトはやばいとか、ブラックなインターンシップがSNSで話題になっているとか、結構、情報が入っていました。でも、今年は一年間、そういう機会がなかったから、1年生とか2年生だと騙されやすいのかなあ」と言います。

 さらに消費者問題に詳しい大学教員に聞くと、それだけではない問題があると指摘します。民法改正によって成年が18歳に引き下げられ、2022年4月1日以降は18歳未満の方が未成年者となります。

 「そうすると今まで親権者の承諾が必要だった大学生にローンを組ませることができるということで、悪質業者はウォーミングアップしている状況なんです」と言います。

 「長期インターンシップに参加しないと就職に不利になるなどと焦らせて、実際には無給で営業行為や業務をさせる。インターンシップだから給与は出せない。売れたら手数料を払うなどといって、いわば無給でバイトをさせる行為なのですが、今まで働いたことのない大学生は、そのおかしさを理解できない」と指摘し、大学などでの消費者教育や労働問題教育が重要だと指摘します。

・焦らなくても企業の採用意欲は底堅い

 「新卒採用に関する企業調査(2021 年 2 月調査)」によれば、2022年3月卒業予定者(現大学3年生)の採用見込みについて「増減なし」が 6割、「増加」15.6%、「減少」12.9%と、今春卒業予定者(現大学4年生)のものとほぼ変化はありません。

 さらに、自社の採用活動の見通し(難易度)については、「厳しくなる」が、前年同期の77.5%から大幅に減少した49.6%、「どちらともいえない」が4割超(42.5%)となり、新型コロナウイルス禍からの脱却と復興への期待が企業側にも出ています。

 ただし、エントリーシート受付開始は3月上旬に集中しており、面接開始は3月中旬が最多。内定出し開始は3月下旬から4月下旬と、各社ともに採用活動の開始予定時が早まる傾向にある点は注意が必要です。

 業種、業界によって採用を手控えるところもあるものの、全体的には企業の採用意欲は底堅く、学生のみなさんは焦らず、きっちりと就職活動に取り組めば良い状況だと言えます。

出所:株式会社ディスコ「2022 年卒・新卒採用に関する企業調査-採用方針調査(2021年2月)」2021年2月16日
出所:株式会社ディスコ「2022 年卒・新卒採用に関する企業調査-採用方針調査(2021年2月)」2021年2月16日

・ブラック・インターンシップに参加しない、させない

 営業や販売を目的とした研修会や活動は、インターンシップとしては認められることはありません。また、そのような行為を長期インターンシップだと主張しても、企業側からは一種のアルバイトだと評価されることが大半でしょう。

 さらに、「インターンシップだ」と主張して、友人や知人に商品やサービスに関する契約を結ばせ、自分は手数料を得るという行為をすれば、結果的に友人関係などを失うことになりかねません。実際、今回、話を聞いた大学生の中には、「ラインやメールでしつこく研修会に参加しようと言ってきた友人がいて、最後は来てくれないと人数を集められないと泣き落としで、変だと感じて全部削除しました」という人や、「絶対得するから、勧めるものを買うべきだと言い出して、グループから外された奴がいます」という人もいました。

 コロナ禍で景気が低迷し、新卒採用も数年前とは状況が大きく変化しています。大学生のみなさんも、就職活動に不安を持っている人も多いでしょう。もちろん、インターンシップも重要です。自身の将来を考えるために、いろいろなインターンシップに参加することは役立つでしょう。しかし、中にはそうしたみなさんの焦りや不安を利用しようとする業者も存在するのです。

 インターンシップを選ぶ時には、「やさしい良い先輩からだから」とか、「絶対良いと自信満々で勧めてくれるから」ではなく、その内容などをよく聞き、怪しいと思ったら、説明会や研修会に参加してはいけません。

 インターンシップに参加する場合は、保護者や大学のキャリアセンター・就職指導部などに相談した上で、慎重に決めていきましょう。インターンシップに行ったつもりが、単なる押し売りの片棒を担いで、友人関係も壊れ、就活にも支障を来たすようなことのないように、大学生のみなさんはもちろん、保護者など周囲の大人も注意すべきでしょう。

資料

「2020 年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請について」内閣官房内閣審議官・文部科学省高等教育局長・厚生労働省人材開発統括官・経済産業省経済産業政策局長、平成 31 年3月 26 日。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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