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倒産の第二波は6月末に~次は屋台骨の製造業が危機に直面する

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
倒産の第二波は6月末に~次は屋台骨の製造業が危機に直面する(画像・筆者撮影)

・4月20日の倒産が少なかった恐ろしい理由

 東京商工リサーチが発表した「新型コロナウイルス」関連倒産状況(4月22日)によると4月22日17:00までに「新型コロナ」関連の経営破たんは、全国で累計81件だった。「新型コロナ」関連の経営破たんは、2月は2件、3月は23件だったが、4月22日までで56件と、急増している。

 騒いでいる割には少ないように見えるが、全国銀行協会の発表では3月に不渡りになった手形の数は、1560件と昨年同月比の倍。不渡りになった金額は100億円余りと、ほぼ8倍になっている。このうち2回の不渡りを出して、金融機関との取り引き停止となり、事実上の倒産となった企業は83社あったとしている。

 実は4月20日に倒産した企業が少なかったのには理由がある。4月17日に全国銀行協会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、資金不足に陥った企業に対して、手形や小切手の不渡り処分を当面猶予する特別措置を始めたと正式発表した。通常であれば、資金不足になり、手形や小切手に対して支払いができない場合は、不渡りとなり、2回繰り返すと金融機関は取り引き停止を行う。事実上の倒産である。

 今回、手形や小切手の不渡り処分を当面猶予ということは、事実上の倒産を一時的に回避することにはなる。しかし、支払いを受けて手形や小切手の現金化を予定していた企業側は、資金不足に陥ることになりかねない。金融機関側は、不渡り処分を猶予するだけで、支払いを肩代わりしてくれるわけではないからだ。

 「不渡りを出したが、処分されないだけ。現実には不渡りだ。現金化できない手形を掴まされた方が、さらに資金難に陥る可能性も高い」と首都圏の中小企業経営者は指摘する。緊急事態宣言や休業要請が続くようであれば、不渡り処分を引き延ばしたところで、結局、倒産せざるを得ない。

 地方自治体の中小企業支援を担当する職員は、「売り上げが1か月や2か月無くなるだけで、資金不足に陥るような企業は潰れればよいなどという意見がネットで溢れているが、大企業でサラリーマンを定年までやって、退職金を満額もらって、年金も充分もらっている高齢者たちの意見ではないのか。政治家は、いつまでこんな意見に左右されるのか」と怒る。実際には、家賃や什器や機械のリース料、従業員やアルバイトの人件費など固定費の負担は大きい。「厚生労働省の雇用調整助成金で、従業員の給与はなんとかなっても、経営者や一緒に働く家族などへの補償はない。この状態が、あと一か月、二か月続くようならば、廃業しかない」と東京都内で飲食店を経営する男性はそう言う。

・第二の倒産の波は大きい

 東京商工リサーチの先の発表では、経営破たん先を業種別にみると、宿泊業が14件、飲食業とアパレル関連がそれぞれ9社となっており、インバウンド需要の急減と外出自粛の影響を受けた小売業、食品製造業などが続く。

 つまり、製造業への影響は出ていないのである。しかし、今後の推移に危機感を持つ製造業関係者は多い。

 「製造業が平静なのは、受注残が5月末から6月くらいまで残っているからだ。しかし、その先の見通しが全く立たない。」近畿地方の中小企業経営者は、そう説明する。「リーマンショックや東日本大震災を経験して、ある程度は不況に備えてきたつもりだが、それよりもひどい状況になるのではないか。マスコミの報道も政府の支援も、飲食業などばかりが話題になっていて、対応が準備されているのか、どうなのか」とも言う。

 日本の基幹産業である自動車産業でも不安が拡がっている。新型コロナウイルス感染拡大以前から、国内、海外ともに自動車の需要が低迷していた。さらに、新型コロナウイルスの影響が深刻化している。「工場が止まっているのだから、下請けの我々に仕事が無くなるのは当然のこと。しかし、復興した時に、本当に仕事も戻るのだろうか」と中部地方の中小企業経営者は言う。自動車メーカーは、生産調整を連休以降も継続すると発表している。

 「今後、4年から5年かけて起こるだろうと予想していた自動車産業の構造変化が、一気に進む可能性がある。」ある大手自動車部品メーカーの社員はそう言う。「経営困難に陥った中小製造業を中国企業などが買収に動くことも、ありえないとは言えない。第二の家電産業にだけはなりたくない」と危機感を強める。

 日本自動車工業会など自動車工業4団体が、4月10日の合同会見で自動車産業の中小企業の経営破たんを防ぐためのファンドを設立すると発表したのも、こうした危機感の現れだ。会見で、日本自動車工業会会長の豊田章男氏は「人類がコロナの脅威に打ち克つ日は必ずきます。ですが、このままでは、それより前に、日本経済が疲弊し、崩壊しかねません」とまで述べている。

 近畿地方の中小企業支援団体の職員は、「5月末から資金不足に陥る製造業企業が多くなってくる。すでに相談に訪れている経営者も少なくない。製造業企業がしっかりしていれば、外出自粛などが解除されれば、飲食店などの客も戻るが、製造業企業の経営が悪化して、解雇などが増えれば、復興への時間が長期化する」と懸念する。

 帝国データバンクの発表(2020年4月8日)によれば、すでに2019年の製造業の倒産件数は976件と前年度比8.1%増と10年ぶりに増加していた。すでに経営状態が弱っているところに、今回の新型コロナウイルスの影響が出てきている。倒産の波の第一波が、一見、小さく見えているからと言って、楽観視できる状態にはない。このままの状態が続けば、第二波が製造業に加えて、一時的な延命措置をした飲食業やサービス業を巻き込みながら、異常な大きさで襲ってくる可能性がある。

出所:https://www.asmarq.co.jp/news/corona0403/
出所:https://www.asmarq.co.jp/news/corona0403/

・「命か経済か、二者択一」という不毛な議論ではなく

 すでに若い世代では、休業要請や外出自粛の長期化に対する批判も出始めている。「新型コロナウイルスも怖いが、仕事を失って、どうやって食べていけるのかという恐怖感の方が強くなっている」と30歳代の会社員はそう訴える。

 アスマークが4月22日に発表した「コロナウイルスに関する調査レポート」によれば、経済か自粛かという視点では、全世代で自粛を続けることの方が重要だと捉えている人が、依然として多い。しかし、性別と年齢層による傾向の違いが出ている。男性は若い世代ほど経済活動を止めないことを望む傾向がある。女性では、40歳代で経済活動を望む傾向がみられる。新型コロナウイルスへの対策が不満というよりも、収入など生活に直結している問題として捉えているのだろう。

 しかし、「命か経済か、二者択一」という不毛な議論は意味がない。「工場の換気装置の増設や、感染防止策への設備投資への補助や税制優遇など、今すぐにやるべきことがあるのではないか」と関東地方の中小企業経営者は言う。「一人感染者が出ただけで、長期間、事業所を閉鎖しなくてはいけない。風評被害もすさまじい。別の方法を取ることはできないのか、そういう情報などが欠けている」とも言う。

 「命か経済か」という二者択一の話は、確かにセンセーショナルかもしれないが、現実的ではない。新型コロナウイルスの伝染は長期間に渡ると予想する専門家も多い。当然、経済をいかに止めずに進むかも、検討するべきだ。

 経営者としては、従業員が安心して、安全に働ける職場を作るためにどうすれば良いのかを悩んでいる。従業員たちも、働かねば生活が行き詰まると悩んでいる。どのような設備投資を行い、対策を行えば、操業を継続できるのかを示すことが重要だ。それに対して、国や専門家が迅速に対応するべきだ。方向性を示せば、経営者たちは動き始める。

 中国は、急速に製造業の立て直しに力を入れている。飲食業やサービス業に続いて、製造業で大量の廃業や倒産が続出すれば、日本経済の屋台骨に亀裂が入る。トランプ大統領のお先棒を担いで、単純な中国批判で溜飲を下げているのではなく、経済的にイニシアチブを取ろうと復興を急ぐ中国に、どう対抗するのかを考えるべきだ。倒産の第二波は視野に入ってきている。残されている時間は短い。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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