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「クリぼっち」?「地味クリ」?それとも「大人のクリスマス」?~変わる歳末の風景

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
代々木公園のイルミネーションイベント(撮影・筆者)

・年々地味になるクリスマス

 「だんだん地味になっている感じがする。」20歳代の女性は、渋谷の街を歩きながら友人に話しかけていた。

 12月24日、25日のクリスマスの街の雰囲気は確かに落ち着いているように見える。新宿や渋谷、池袋など若者が集まる街やビルの中を歩いても、かつてのようなクリスマスの装飾は見られない。

 24日のクリスマスイブの夜、渋谷や新宿、品川などで街行く人たちを眺めていても、普段通りで華やかな雰囲気はほとんどない。カップルでブランド物の紙袋を大切そうに持っている微笑ましい姿もないことはないが、非常に稀だ。平成が始まったころには、バブル景気最盛期で、街には彼女へのプレゼントである高級アクセサリーが入ったティファニーの水色の紙袋を持った男性が、そこここに見られたなどというのも、今や昔話だ。

・「一人で過ごしても寂しいとは思わない」程度の普通の日へ

 株式会社レオパレス21が実施した全国のひとり暮らしをしている平成生まれの18~29歳までの男女計600名を対象にした「ひとり暮らしとクリスマスに関する意識・実態調査」(2018年12月20日)によると、平成最後のクリスマスをひとりで過ごす予定だと回答した人は56.2%と過半数以上。そのうち72.1%の方がクリスマスをひとりで過ごすことを「寂しいと思わない」と回答している。

 また、クリスマスに使用する予算も、第1位が36.8%の「1,000円未満」、第2位が「10,000円未満」の18.3%、第3位が「3,000円未満」の17.0%と続き、クリスマスだからと特別にお金をかける様子はない。

 そして、クリスマスと言えば、恋人と一緒に高級レストランでというのも、過去のものになっているようで、「クリスマスに告白される場合の理想のシチュエーション」は、「自宅」が回答が28.3%で第一位。「レストラン」は25.5%と第二位。クリスマスの過ごし方も、一人の若者も恋人がいる若者も、TV鑑賞やゲームなど自宅で過ごすという回答が多く、「特別感」は失われていることが伺われる。要するに、クリスマスは「一人で過ごしても寂しいとは思わない」程度の普通の日になっているようだ。

・クリスマスケーキもおひとり様向け?

 「クリスマスケーキも5,6年前から少なくなりましたね。最近は、2,3人用の小さなものが売れ筋ですね。昔ながらのホールの大きなクリスマスケーキは、お子さまのいるご家庭用で数は少なくなりました。」ケーキ店の前で呼び込みをしていた女性店員はそう話してくれた。

 数年前までどこのコンビニでもやっていたクリスマスケーキの箱を積み上げて店頭で販売する景色も珍しくなっている。それに代わって、昨年辺りからコンビニ各社が力を入れているのが、おひとり様用クリスマスケーキ。価格的には300円程度から600円程度で、クリスマスらしい装飾がかわいらしい。

・「親たちの世代が、クリスマスって騒いでいるのが不思議」

 50名ほどの大学生に聞いてみたが、「彼もしくは彼女と一緒に過ごす」と答えたのは、わずか5名ほど。その中で「二人でクリスマスディナーを楽しみに行きます」と答えたのは一名だけ。残りは、「イルミネーションを見に行くくらいで、特に特別な食事は予定していないです」や「クリスマスには、ケーキでも買って家で食事します」といった回答だ。

 「親たちの世代が、クリスマスって騒いでいるのが不思議です。よくわからないです」と言った回答や、「今はハロウィンの方が人気ではないですか」と言った回答もあった。いずれにしても大多数の学生からの回答は、「クリスマスといっても、特に何もない。いつも通り、アルバイトです」というものだった。中には、「ハロウィンなら参加するという楽しみがあるが、キリスト教徒でもないし、いったい何をする日なのか判らない」と言う学生もいた。

クリスマスの渋谷 (撮影・筆者)
クリスマスの渋谷 (撮影・筆者)

・クリスマスは中高年向けのイベント?

 都心部でも、有楽町や日本橋などの百貨店や比較的高級な商品をそろえる店舗は、華やかなイルミネーションで飾られ、多くの人たちで賑わっている。

 60歳代の会社経営の女性は、「子供の手が離れてから、親しいお友達を自宅に招いたり、招かれたりして、同じような年代のご夫婦とかお友達でホームパーティーをするようになった。高級なワインとか料理を持ち寄ったりしても、外で食べるよりはずっとお安いし」と言う。そうしたホームパーティーでのクリスマスプレゼントだろうか、売れ筋は、1,000円から2,000円程度のクリスマス用商品。紅茶やお菓子など、少し高級なものが少量ずつ包まれている商品をまとめて買う中高年の消費者が多い。

 学生たちの回答の中にも、「クリスマスって、おじさん、おばさんが騒いでいるっていうイメージがあります。今の若い人はあんまり盛り上がんないじゃないですか」というものや、「バブルの頃のクリスマスってイメージが強くて。両親たちから聞いて、昔はすごかったんだなあって。だから、クリスマスってなんだか昔のイメージです。」というようなものもあった。

・クリスマス商戦は死語に

 「30年ほど前は、クリスマス商戦なんて言っていたし、商店街でもクリスマスから歳末売り出しへ続き、売り上げも大きく、大騒ぎだった。しかし、もう10年くらい前から、歳末売り出しも効果が無くなってきた。」首都圏の商店主は、そう話す。「だいたい、普段からネットとか量販店で一年中セールやっているようなもので、昔のように歳末大売り出しなんて個人商店が頑張っても、消費者の関心を集めることなんか難しい。」

 消費者側も、今年は11月から続いたセールで、歳末を待たずに買い物を済ませてしまった人も多いようだ。11月23日の金曜日を中心にした「ブラックフライデー」は、ネット通販各社だけではなく、スーパーや家電量販店も、今年は大々的に取り組んだ。さらに、12月に入ると、Amazon.co.jpが「サイバーマンデー」、楽天市場が「大感謝祭」と次々にセールを行うなど、消費者から見れば「いつもセールをやっている」という状況が生み出された。

 もともとブラックマンデーは、クリスマス消費へ繋げていくセールという位置づけだった。しかし、いつの間にかクリスマス商戦の前倒しになっている。さらに今年は、当初暖冬という予測が流れ、暖かかったこともあり、冬物バーゲンを前倒ししたところも多かった。今後も、この傾向が続きそうで、「クリスマス商戦」という言葉は死語になるだろう。

・三極化するクリスマス

 レストラン即時予約サイト『一休.comレストラン』を運営する株式会社一休が発表した「2018年クリスマスディナー予約に関する動向予測」(2018年11月29日)によれば、2017年のクリスマスディナーの平均予算は20,000円を超えており、2018年も同程度かそれ以上と予測されている。高額な「大人のクリスマス」が人気を呼んでいるようだ。こうした全体的には少数にしても、バブル景気時代と変わらない豪華なクリスマスを楽しむ人たちがいることも事実だ。

 「クリぼっち(クリスマスに独りぼっち)でも寂しくない」クリスマス離れする若い世代。

 家族や友人で楽しむ家庭での「地味クリ(地味なクリスマス)」。 

 そして、バブル世代の富裕層による「大人のクリスマス」。     

 これらの三極化が進んだことで、2018年の歳末の街の風景は大きく変化した。これら三極のどの層を掴むかが、クリスマスに限らず、今後、商業やサービス業、観光業などでは重要な視点になるだろう。今年のクリスマスの余韻があるうちに、こうした変化にどう対処していくのかを考えてみるのも大切なことではないだろうか。 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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