Yahoo!ニュース

ヤッターワンが舞鶴港に登場! ~ 京都のものづくりの技術とノウハウをクルーズ船客にPR

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
京都・舞鶴港で公開されるヤッターワン(画像提供・京都機械金属中小企業青年連絡会)

・4年かけて完成した「ヤッターワン」

 アニメ作品『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』に登場したロボット「ヤッターワン」の巨大模型が、7月14日に舞鶴港第2ふ頭に到着し、15日からクルーズ船待合室で海外からのお客様をお出迎えする。

 このヤッターワンは、京都の中小金属加工関連企業約80社の団体である「京都機械金属中小企業青年連絡会」(機青連)が約4年を費やして制作したものだ。

・身長3.0m、体重1.5tという巨大なものながら、なぜ約4年もの工期がかかったのだろうか。

 

 機青連は、京都府内の機械金属工業関連を中心にした中小企業の若手経営者の団体で、すでに37年の歴史を持っている。会員企業は、板金、フライス、旋盤、溶接、塗装、メッキなどと言った金属、樹脂に関わる加工、機械製造に携わっており、今までもそれぞれの加工技術やノウハウを持ち寄って作品を作ることで、知識やノウハウの共有や連携意識を高める試みがなされてきた。

 過去には金属で五重塔や祇園祭の鉾、ソーラー充電器付き電気自転車などを作成してきた。機青連の独特なところは、これら作品は販売や製品化を目指したものではなく、あくまで会員企業同士が、それぞれの加工技術や方法を持ち寄って、技術やノウハウを学び合おうというものである点だ。

 そんな活動の一つとして、取り組んだ作品がヤッターワンだったのだ。ヤッターワンを作ることに決めたのは良いが、難関の連続だった。「一時は、機青連のサグラダファミリアとと呼ばれ、このままずっと完成しないのではと心配されるほどだった」と幹事の一人は笑う。

舞鶴港に運ばれるヤッターワーン(画像提供・京都機械金属中小企業青年連絡会)
舞鶴港に運ばれるヤッターワーン(画像提供・京都機械金属中小企業青年連絡会)

・図面も1から

 タツノコプロの許可も得て、2013年4月にプロジェクトが始まるが、いきなり問題に直面する。アニメのキャラクターであり、図面が存在しなかったために、フィギュアをスキャンして3DのCADデータを作成しようとしたが、複雑な形状過ぎて対応できないことが判明。精密板金を専門とする会員企業が、一から3Dデータを作成し、各パーツごとに図面化していくこととなった。

 「こうした形状の場合、繊維強化プラスチック(FRP)を用いたり、3Dプリンターによる樹脂成型が向いているのです。しかし、機械金属関係の企業の集団ですから、あくまでメインは金属で作ろうということにこだわったのです。」(幹事)

 滑らかな局面をいかに金属で表すかという課題を解決するために、伝統工芸の金属の打ち出し職人のところに教えを請いに行ったり、ポリテクセンター京都など行政の技術支援を受けたりと、悪戦苦闘が続いた。夜遅くまで製造現場となった工場に各社の社長、後継候補が集まり、それぞれの技術を生かしたり、時には自社では経験することのない作業を体験したりと、試行錯誤が続いていった。

製作は本業が終わってから。(画像提供・京都機械金属中小企業青年連絡会)
製作は本業が終わってから。(画像提供・京都機械金属中小企業青年連絡会)

・問題は大きく重いこと

 完成したヤッターワンのお披露目の場となったのは、2017年3月の「京都ビジネス交流フェア2017」だった。会場でひときわ目を引く巨大なヤッタワーンは人気も高く、記念写真を撮る人が絶えなかった。その後、9月に開催された関西最大のマンガとアニメの祭典「京まふ・京都国際マンガ・アニメフェア2017」にも展示され、人気を呼んだ。

 「しかし、とにかく巨大な上に、金属での製造にこだわったために重量が重く、移動や展示にも制限がかかってしまうのです。」(幹事)金属製であるために、その重量感が魅力的なのであるが、一方で移動や展示する場所が限られてしまった。

 評判も良く、人気も高いため、常設展示を求める声も多く、京都府や産業支援組織である京都産業21などの協力を得て、常設展示できる場所を探しが行われてきた。

展示会でも人気が高かった(画像撮影・筆者)
展示会でも人気が高かった(画像撮影・筆者)

・舞鶴港でクルーズ船をお迎え!

 7月13日、ヤッターワンが久しぶりに姿を現した。すれ違う車や後続する車から、驚く人たちやスマホで撮影する人もいる。

 京都市内から出発した大型輸送車は、京都を北上し、舞鶴市に到着した。

 ヤッターワンが展示されるのは、舞鶴港第2ふ頭。京都府港湾局が管理するクルーズ船の乗下船待合室だ。ヤッターワンは予定通り7月14日に舞鶴港第2ふ頭に到着し、7月15日から9月末日まで設置される予定だ。日本海をクルーズし、舞鶴港に入港するクルーズ船は年々増加しており、展示予定期間中だけでも延べ10回を超える大型クルーズ船の寄港が予定されている。

 一般の人もクルーズ船が舞鶴港第2ふ頭を利用する際には、ヤッターワンを見ることができる。ただ、クルーズ船の中には、第2ふ頭ではなく別のふ頭を利用する場合もあるので、事前に京都府港湾局に問い合わせが必要だ。

 機青連の中本幸志代表幹事は、14日の設置作業を終え、「京都の海の玄関口である舞鶴港にヤッターワンが設置され、海外からの多くの方に見ていただくことで、京都のものづくりを世界に発信できればと思っています。 その威風堂々たる勇姿で京都の海の玄関を訪れる人達をお出迎えすることとなると思うと楽しみです。」と話す。

 京都というと観光や伝統産業のイメージが強いが、実際には機械や金属加工など精密機械産業やハイテク産業も非常に強い地域だ。ヤッターワンの展示には、海外からの観光客のみならず、国内の人々にも広くそのことを知ってもらえればという願いも込められている。

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

中村智彦の最近の記事