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運転手不足の救世主?連節バスが各地で登場

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
海外では連節バスの導入事例は多い(ペイレスイメージズ/アフロ)

・注目を集める連節バス

 小田急線の町田駅前の路線バスが数多く走り回る中に、ひときわ車長の長いバスが走ってくると、子供だけではなく大人も思わず立ち止まって見てしまう。

 まるで電車のように二両の車両がつながっているバスは、連節バス(連接バス)である。全長約18メートル。電車の車両とほぼ同じ長さ。定員も129名と電車とほぼ同じになっている。

 神奈川中央交通では、Twin Liner(ツインライナー)と愛称を付けた連節バスを2005年に「湘南台駅西口~慶応大学」間に導入したのを最初に、2008年に「厚木バスセンター~厚木アクスト」間、2012年に「町田バスセンター~山崎団地センター」間でも導入している。さらに今年5月からは、「辻堂駅北口 ~ 湘南ライフタウン・慶応大学」間でも運行が始まった。

 いずれの路線も乗客が増加し、混雑が激しくなっていたが、増便で対応するよりも、1便で通常型のバスの約2倍の乗客を運べる連節バスが導入されている。

町田駅前に停車する連節バス(画像・筆者撮影)
町田駅前に停車する連節バス(画像・筆者撮影)

・増加する連節バス

 

 現在、全国で連節バスが一般の路線バスとして運行されているのは、神奈川中央交通以外に、京成バス、岐阜乗合自動車、近江鉄道、南海バス、神姫バス、西日本鉄道、新潟交通、奈良交通などだ。

 連節バスは、かつて、1985年に開催されたつくば万博(国際科学技術博覧会)の際の送迎用に使用され、話題を呼んだ。その後、空港のランプ送迎用バスとして使用されるなどしたが、車両の大きさが日本の道路事情に合わないことや価格の高さなどがあり、あまり広がることはなかった。

 ところが、ここ数年、再び日本各地で目にすることが多くなった。メーカー側も注目し、2016年にメルセデス・ベンツが日本国内向けの新型モデルを販売開始し、2017年9月には、イタリアの自動車メーカー・イベコが連節バス販売で両備ホールディングスとの提携で日本市場への進出を発表し、さらにいすゞ自動車と日野自動車が共同開発でハイブリッド連節バスの販売を2019年に日本国内向け発売を行うことを発表している。

 

・再評価の陰に深刻な運転手不足

 ここ数年で連接バスが再評価されている理由は、一つには運転手不足がある。

 バス運転手の不足は、ここ最近に始まったことではない。平成25年に公益社団法人日本バス協会が出した報告書「『運転手不足問題』に対する今後の対応方策について」には、すでに厳しい状況が示されている。2008年度に実施されたバス運行会社へのアンケートでは、すでに三大都市圏では72.3%、政令指定都市圏では66.7%、地方部においては66.1%で「運転者、整備部門の要員確保」が困難になっており、将来も困難になると回答していた。

 運転手の不足は、現在、さらに深刻化しており、例えば西日本鉄道は2月、福岡市内のバス路線で最大約50分程度の最終バスの時間を早めるダイヤ改正を発表した。人手不足が深刻化しており、運転手の労働環境を改善するためには、3月のダイヤ改正で午前0時を越す11本の運行を取り止めるほか、バスルートの見直しを行うことで減便も実施した。

福岡市内で導入されたBRT(画像・筆者撮影)
福岡市内で導入されたBRT(画像・筆者撮影)

・BRTへの利用とその先

 BRT(バス高速輸送システム)は、次世代の公共交通機関の一つとして注目されている。路面電車型のLRT(軽量軌道交通)としばしば比較される専用道路を利用したバス高速輸送システムであり、すでに国内でも16か所で導入されており、海外でも導入が進んでいる。

 

 BRTそのものは、本来、連節バスである必要はない。東日本大震災後にJR東日本が気仙沼線の「柳津駅~気仙沼駅」間でBRTを導入したが、使用しているバスは通常型バスを使用している。ただ、国土交通省は「 連節バス、 PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーン等を組み合わせることで 速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム」(国土交通省自動車局総務課企画室、「BRTの導入促進等に関する検討会」資料)と定義している。

 連節バスを導入したBRTは、岐阜乗合自動車「清流ライナー」、新潟交通「萬代橋ライン」、西日本鉄道「福岡BRT」などですでに運行されている。また、神戸市が「神戸空港~三ノ宮駅~新神戸駅」間、大阪市では今里筋線での導入が検討されている。東京都でも、東京オリンピックの会場輸送での導入が予定されている。

・運転手不足は連節バスで緩和されるか  

 「経営の悪化、賃金の低下、求人難、そのための過剰労働。そして、さらなる求人難という負のスパイラルに陥ってきた。ここ数年の労働者不足問題以前から、運転手確保が困難になっていた。」ある地方の私鉄関係者は、そう話す。さらに次のような指摘もする。「分社化して、本体から切り離し、人件費を抑制しようという動きも一時的には効果があったが、就職難だった5年ほど前くらいまでは、それのせいでなんとか回ってきたが、いよいよ限界だ。」

 連節バスは、通常型バスに比較して、大量の乗客を輸送できるため、必要とされる運転手数を削減できることは確かである。しかし、その恩恵を被ることができるのは、全国でも限られた路線でしかない。その点では、運転者不足が連節バスで緩和されるのは限界があると言える。給与水準や雇用環境の改善が急務である。

台北市内中心部で導入されているBRT(画像・筆者撮影)
台北市内中心部で導入されているBRT(画像・筆者撮影)

・公共交通機関としてバス輸送を維持するためには

 

 乗合バスの2016年度の年間利用者数は約 43 億人であり、1970年代には約100 億人を超えており、半数以下となっている。ところが、乗合バスの車両数は60,429台と、この20年間、ほぼ変わっていない。さらに、近年、主に人件費抑制を目的とした乗合バス事業者の分社化が著しく、2016年の事業者数は2,267と、10年前の2倍、20年前の5倍になっている。これらの数値から見ても、バス事業を取り巻く環境が非常に厳しくなっていることが理解できるだろう。

 

 国土交通省が2017年11月に発表した「乗合バス事業者の収支状況」によれば、2016年度の全国の乗合バス事業者246事業者のうち、157事業者、約63.8%が赤字であり、合計の損益は261億円の赤字となっている。こうした中で、人件費は上昇しており、経営を圧迫すると同時に、給与水準の低さと労働環境の厳しさから運転手の確保はより一層困難になりつつある。

 BRTは専用道を使用することが前提のため、現在、開発が進んでいる自動運転技術の活用が期待される。それだけではなくインターネット、地図情報システムや位置情報システムなどを活用して、バスの利用客への利便性向上と運行システムの改善が進んでいる。こうした取り組みによって利用客数の確保、定時運行、安全性確保、そして省人化などを進めることが公共交通機関としてのバス輸送を維持する重要になるだろう。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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