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世界66都市の自然環境を比較する~市民参加型の調査研究イベントが東京で

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
インスタ映えする花も、繁殖力が非常に強く、日本在来種の植物を駆逐するほどのものも(ペイレスイメージズ/アフロ)

・緑がきれい?昆虫や魚がたくさんいる?

  

 ゴールデンウィーク中には、各地で様々な催しが行われる。その地域地域の自然や環境、風景なども多くの人を魅了する大切な資源の一つだ。しかし、単純に緑がきれいだとか、花がきれいだとか、昆虫や魚がたくさんいるからと言って、環境が守られているわけではない。

・人も物も行き来の激しい時代に

 ゴールデンウィーク中には、多くの人たちが海外旅行を楽しむ。普段でもかつては考えられなかったほど、人も物も行き来は国内外で激しくなっている。そうした行き来が激しくなるにつれて、本来は移動できない生き物や植物が世界中に拡散させることにもなっている。

 一見、可愛らしい外観で、インスタ映えする花も、実は繁殖力が非常に強く、日本在来種の植物を駆逐するほどの勢力を持っているものもある。同じように見える昆虫や魚たちも、実はいつの間にか海外からやってきた外来種に入れ替わっていることもあるのだ。

 こうした動きは、日本だけに見られるものではない。世界中の、特に大都市周辺では顕著になりつつある。いったいどういった生き物が大都市に生きているのか、果たして外来種はどれくらい入り込み、在来種はどれくらいいるのか。そんな世界規模の動きに、市民が参加して、実態を明らかにしようと言うおもしろい試みが行われる。

・スマホがあれば、世界的なイベントに参加できる

 4月27日から4月30日の4日間と4月31日から5月3日の4日間、「シティーネーチャーチャレンジ2018(City Nature Challenge 2018)」と言う世界の66都市と連携した自然科学のイベントが開催される。日本でも東京が参加し、スマートフォンやタブレット端末などを持っている人ならば、誰も参加できる。世界の都市と情報を交換しようという市民科学の催しだ。

 このイベントの企画者は、アメリカのカリフォルニア科学アカデミーロサンゼルス自然史博物館だ。日本での主催は、一般社団法人生物多様性アカデミー、東京都市大学、NPO法人せたがや水辺デザインネットワークで、世田谷区などが後援して開催される

・世界中の都市で自然環境が豊かなのはどこか?

 4月28日、30日の両日は、東京都市大学二子多摩川夢キャンパスで、“City Nature Challenge 2018 -Tokyo” 夢キャンパスと題して、午前中にプログラムの説明会が開催され、午後は実際に多摩川の河川敷や公園などに行き、生物の写真を撮影し、そのあとで情報を共有する。

 一般社団法人生物多様性アカデミー主席研究員の亀山豊氏は、「スマホで生き物の画像をデータベースに送ると世界中の自然科学者が瞬時に種類を特定してくれるのが大きな魅力です。その結果から世界中の都市で自然環境が豊かなのはどこか?外来種が多いのはどこか?東京でないことを願っていますが、そうした世界の都市どうしで比べ合いです。それに一般の方が簡単に参加できるのです。」と言う。

大都市は人も物も行き来が激しい(画像・筆者撮影)
大都市は人も物も行き来が激しい(画像・筆者撮影)

・外来種が入り込み、「自然」も大きく変化している

 一般社団法人生物多様性アカデミー主席研究員の亀山豊氏は、「例えば家から駅に行くまでの間の歩道に生えている草花を見ても、外来種ばかりになっています。アカバナユウゲショウに、ハルジオンに、ノゲシなど。これらはすべて外来植物です。ナガミヒナゲシなどは、オレンジ色でかわいい花を咲かせるので、わざわざ庭に植えた方も多いのですが、一つの花で千個以上の小さな種を撒き、さらに未成熟の種でも発芽すると言う強い生命力を持っている植物です。そのため、刈り取り方を間違えると、却って種をばらまいてしまうことになり、根絶するのはかなり難しい外来植物です。」と話す。

 植物だけではなく、昆虫類も知らない間に入り込んでいるものが増えている。この20年ほどで急激に増殖し、日本の在来種が駆逐されている昆虫に、かまきりがいる。各地で在来種を絶滅させつつあるのは、ムネアカハラビロカマキリという中国原産の外来種のかまきりだ。

 神奈川県立生命の星・地球博物館など調査研究によって、このカマキリが国内で増殖した原因は、中国から輸入した竹ぼうきについた卵からだということが、最近になって明らかになった。庭園や学校の校庭などで使われることの多い竹ぼうきに卵が付着したまな輸入され、それが日本国内で孵化することで増殖し、繁殖力の弱い在来種が絶滅に追いやられつつあるのだ。

・生物の多様性や自然の保護と一言で言っても

 今回の催しは、こうした外来種の生き物がどれくらい身近にいるのかを、世界の66都市の市民が同時に調査に参加し、比較して、その課題や問題を考えてみようという催しだ。スマートフォンやタブレット端末を多くの人が持ち、インターネットで世界を結ぶことができるようになったからこそ、できる催しでもある。

 

 貿易が盛んになり、大量の物が速いスピードで行き来するようになったために、外来種のカマキリのようにその中に生き物そのものや卵などが紛れ込み、従来は移動できなかった距離を移動するケースも多い。逆のケースもある。例えば、国内では治水工事が進み、洪水が少なくなったことで、人間の生活は守られるようになった。しかし、その反面、洪水が起こることで種子や卵が拡散され、その生息域が拡大し、生き残ってきた植物や昆虫が生息域を縮小させてしまい、ちょっとした環境変化などで短期間に絶滅する危機に直面している。

 亀山氏は、「都会の自然環境を比べ合うものなので、外来種に限ったものではありませんが、今の懸念は『調べてみたら全部外来種』」んてことが日本では起きてしまいそうなところです。」と話す。

何気なく見ている道端の花も、外来種かも(画像・亀山豊氏提供
何気なく見ている道端の花も、外来種かも(画像・亀山豊氏提供

・身近な環境変化を知ることで

 「外来種に関する学術的な研究活動に市民にも参画してもらう取り組みです。この企画に参加された市民の方とご一緒に研究レポートを執筆、発表して行きます。ご家族でお気軽に参加ください。子どもさんの環境に対するリテラシーを高めたい方にお勧めです。」と亀山氏は言う。

 

 環境の問題や人や物の行き来の激しさなどから来る変化は、身近なところでも起こっている。身近な環境変化を知ることで、毎日何気なく見ている景色が違って見えるのではないだろうか。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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