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日本一小さくてかわいい中小企業連携〜町工場のお兄ちゃんたちが作ったミニチュア・ガーデン・セット

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
八王子の町工場特製ミニチュア・ガーデン・セット

 地域経済振興の中で重要な役割を果たすのは、中小企業である。しかし、長年、下請け、系列関係の中で活躍してきた中小企業は、自社の技術やノウハウをPRする手法を身に着けていないことが多い。

 そこで、一社だけではなかなかPR効果がないということで、企業間の連携で共同制作をして知名度向上を図る動きも多い。しかし、多額の資金や支援する機関などが必要であり、一朝一夕とはいかない。そんな中で、大きいことにいきなり取り組まず、自分たちのできる範囲で、「日本一小さくてかわいい中小企業連携」での共同制作物が八王子でお披露目されることになった。

・ちょと風変わりなガチャガチャマシン

  9月16日から10月15日の間、東京都八王子市で第34回全国都市緑化はちおうじフェアが開催される。メイン会場の富士森公園を中心に、市内各地のサテライト会場で様々なイベントが行われる。

 そんな中で、メイン会場に少し風変わりなガチャガチャマシンが登場する。

 カプセルの中に入っているのは、3種類で「指に乗る植木鉢とお花のワッペンのセット」、「板金で出来たカード立て」、「フサフサ植毛のコースター」だ。三種類揃えると、ミニュチュアのガーデンが出来上がる。

ミニュチュア・ガーデンセット
ミニュチュア・ガーデンセット

・若手経営者などの勉強会がきっかけ

 このガチャガチャ、「元祖はちおうじ町工場ガチャ」と名付けられている。このガチャを企画、製造したのは、八王子市内の製造業企業の経営者たちだ。

 八王子の若手経営者などの勉強会であるはちおうじ未来塾を通じて、知り会った株式会社ユーエス専務取締役 内田公祐さんを初めとする5社6名の経営者が参加している。

 

5社の若手経営者たちが協力した
5社の若手経営者たちが協力した

・ものづくりの街「八王子」

 東京郊外のベッドタウンとして、あるいは大学の街として知られる八王子市だが、実は製造業事業所数は約1500。製造品出荷額も約3500億円と「ものづくりの街」の顔も持つ。

 八王子は、かつては養蚕業や絹織物の生産が盛んで「桑都」と呼ばれた。桑は、絹糸を生む蚕の餌になる木の名前である。特に明治以降、甲州や武州で生産された絹糸が八王子に運び込まれ、絹織物が製造され、横浜に運ばれ、欧米に盛んに輸出された。八王子から町田を経て、横浜に至る道は、「絹の道」、日本のシルクロードと呼ばれるほどである。

 繊維産業に用いられる織機製造から、その後は機械製造業やそれに関係する機械金属産業など幅広い産業が集積してきた。

 しかし、東京都で見ると、大田区や墨田区のような「ものづくりの町」と言ったイメージは薄い。

 「なにか自分たちでも、八王子のものづくりをPRできる何かを作りたい」と、内田さんたちは視察を行ったり、様々な人たちに相談した。そのうちの一人が、八王子商工会議所に勤務する木村文香さんだ。

 「他の地域に負けないほどの製造業者がたくさんあるのです。それがあまり知られていないのがくやしくて、情報発信をしていきたいと思っているんです。そのためには、八王子の町工場のお兄ちゃんたちに頑張ってもらわなければ」木村さんは、そう言う。

・小さくてかわいいもので始めよう

 資金がある訳ではなく、大きな物をいきなり作るのは無理がある。それならば、小さくてかわいいものにしようと、企画が進んだ。ちょうど緑化はちおうじフェアが開催される。

 緑化はちおうじフェアは、「花とみどりあふれる文化的なライフスタイルの体験」がコンセプトだ。都市型の緑化フェアとして、製造業としても何らかの参画したいという思いが一致し、今回の「元祖はちおうじ町工場ガチャ」が誕生した。

 カプセルに収められる3種類の「指に乗る植木鉢とお花のワッペンのセット」、「板金で出来たカード立て」、「フサフサ植毛のコースター」は、それぞれ2社ずつの企業が連携して作っている。

 「指に乗る植木鉢とお花のワッペンのセット」は、繊維産業の一つである刺繍業であるユーエスと金属の精密加工業である小池製作所。「板金で出来たカード立て」は、板金業の岩沢プレス工業と塗装業の巧塗装。「フサフサ植毛のコースター」は、ユーエスと工業用植毛の伸栄プラスチックが連携している。緑化はちおうじフェアでは、メイン会場の公式物販ブースにガチャガチャマシンは設置される。

ちょっと風変わりなガチャガチャマシン
ちょっと風変わりなガチャガチャマシン

・地域の中小企業にとって、自らの存在をPRすることが必要

 地域の中小企業には、高い技術を誇り、世界トップシェアを誇る製品の重大な部分に使われていたり、見えない部分で活躍している企業が多い。しかし、従来のように大企業の下請け企業でいれば安泰な時代は終わりつつある。

 自社の技術やノウハウを活かした新しい製品作りへの挑戦や、新たな市場を創造する努力が必要になっている。そのためには、自分たちの存在を知らしめる必要がある。

 「何かを自分たちで作りたい。PRしたい。」そうした想いを持つ中小企業経営者たちも多い。しかし、いきなり大きな物に手を出して、結局、行政の補助金目当ての打ち上げ花火で終ったり、会社の利益を過大に投じ、「社長の趣味」と従業員に反発されたり、などとうまく行かない事例も少なくない。

 はちおうじ未来塾は、八王子市と八王子商工会議所が運営する支援組織「サイバーシルクロード八王子」が主催する後継者のための塾だ。創設から11年目に入り、卒業生は述べ100人を超す。公的な塾ではあるが、その運営には塾の卒業生の中小企業経営者たちが自主的に深くかかわっている。

 まずは少人数で、自分たちのできる範囲で、何か作ってみようという今回の取り組みは、はちおうじ未来塾で、学んだことが基礎になっている。

・町工場製のガチャをお土産に

 緑化はちおうじフェアでは、会場での展示や催し物、さらにブルーインパルスの展示飛行など、会期中約40万人の来場者が見込まれている。中小企業にとっても、八王子のものづくりをPRするには、絶好の機会だ。

 多額の補助金を使い、派手なものづくりで宣伝するのも一つの手だが、こんな小さな中小企業の連携も「かわいく」て良いのではないだろうか。会場で、ぜひ、この小さな情報発信を試みるガチャガチャマシンを探してみて欲しい。八王子の中小企業が一つ一つ手作りし、「町工場のお兄ちゃんたち」が夜なべをしてカプセルに収めた製品だ。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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