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中国ですでに6億人が感染?「陽過」「陽康」が最近の流行語に ピークも真近か?

中島恵ジャーナリスト
最近の北京の地下鉄車内の様子(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナのオミクロン株が猛威をふるい、感染が拡大中の中国。2022年末、中国で流出した内部資料によると、同12月1~20日までの推計で、人口の約18%に当たる約2億4800万人が感染したといわれた。

12月下旬には全国で1日あたり約3700万人のペースで感染が拡大しているとの情報もあり、その計算でいくと、1月4日時点で、すでに人口(約14億人)の半数近く、6億人以上が感染している可能性もある。

現地の友人からは「猛烈なスピードで感染しているので、意外にもピークは近いのでは?」といった声も上がっている。

北京では8割が感染したとも

最初に感染が拡大した首都・北京市では、人口の8割が感染し、ピークアウトしたともいわれており、北京在住の友人などによると、1月3日、仕事始めを迎えた北京市内では、地下鉄に乗車する人も多く、早くも活気が戻りつつあるという。

少なくとも北京市では、もはや感染していない人のほうが珍しがられる存在となり、人々は我れ先にと感染し、さっさとこの困難を乗り越えよう、といった明るい雰囲気すら漂っているそうだ。

上海市はまだ感染拡大中といわれるが、それでも、現地の友人によると、街にはかなり多くの人が繰り出し始め、潮目が変わりつつあるという。

むろん、高齢者を中心に死亡者も増えており、火葬場が混雑していたり、病院も満床で、廊下に並べた担架で点滴をする人も増えたりしているなど、現場では混乱やトラブルも起きている。

だが、さまざまな情報を総合すると、中国の人々はむしろ、この厳しい現状を達観し、もはや感染することは避けられないことなのだと受け止めて、たくましく生活しているようにさえ見える。

「感染しましたか?」が挨拶代わりに

そんな中国で、いま、人々の間で頻繁に交わされている挨拶は「陽了ma?」(ヤンラマ?=感染しましたか?)だ。

多くの都市で、少なくとも人口の4割、多ければ8割が感染したといわれる中、「感染しましたか?」は、中国人がよくいう挨拶ことばの「吃飯了ma?=ご飯食べましたか?」や、半年前によくいわれた「做核酸?=PCR検査受けましたか?」と同じくらい、誰でも普通に使う言葉になった。

「陽了」(ヤンラ=感染しました)の「陽」(ヤン)は「羊」(ヤン)と同音であることから、中国人のSNSではよく羊の絵やイラストが使われ、「羊了」(ヤンラ)や、他にも同音の「楊了」(ヤンラ)も見かけたが、最近、私は新たな流行語を発見した。

それは「陽過」(ヤングオ=感染しました)「陽康」(ヤンカン=感染して回復しました)だ。

有名な武侠小説の登場人物と同じ名前

中国語で「過」(グオ)は「~したことがある」という経験を表す。そこで、「陽了」と同じく、「陽過」(ヤングオ)はPCR検査や抗原検査で陽性になったことを指す。

また、「陽康」(ヤンカン)は、「康復」(カンフー=回復する)の意味で、日本人も漢字を見ただけでも想像がつく通り、コロナに感染したあと健康になったことを表す。

「陽了ma?」(感染しましたか?)という質問の答えとして、この2つがたびたび使われているようだ。

また、おもしろいもので「王重陽」(ワンチョンヤン=1回感染して回復したが、再び陽性になった)という不思議な回答も発見した。

いずれも「陽」は同じ音の「楊」にも置き換えられ、ネット上では「楊過」や「楊康」という文字も多く見かけた。

当初、私は単に「陽了」(陽性になった)から派生した新しい表現方法(造語)だと思っていたのだが、「王重陽」という言葉を見てから変だと思い、いろいろ調べてみた。

すると、「楊過」や「楊康」、さらに「王重陽」は中国で有名な武侠(ぶきょう)小説の登場人物の名前だということがわかった。

中国出身で、のちに香港など中華圏でも活躍した小説家、金庸(きんよう)は多数の作品を残しており、その多くがドラマ化、映画化されているが、「楊過」はそのうちのひとつ、「神鵰剣俠」(しんちょうけんきょう)の主人公の名前だった。

また、「楊康」と「王重陽」も同じく「射鵰英雄伝」(しゃちょうえいゆうでん)の登場人物の名前だったのだ。

中国らしい漢字の遊び心

中国の人々は「陽了」(ヤンラ=感染しました)から、新しい言葉「陽過」や「陽康」を生み出したが、それは、親しみのある武侠小説や武侠ドラマの中の有名な登場人物の名前と同じ読みであることに気がついた。

そこで、遊び心を加えて、コロナに2回かかることを「王重陽」と表現し、これらを使う人が現れたのだろう。

ほかにも、感染して約10日で回復することから、1日目から10日目まで、それぞれに武侠小説の登場人物、10人の名前がつけられているらしい。

中国人でも、それらの作品を知らない人にとっては意味不明だし、皆がその意味もわかっているわけではない。「通」同士でないとわからないことかもしれないが、いかにも漢字の国の人々らしい新語作りだと思った。

おもしろい漢字の表現に、私は思わず「そういうことだったのか」と思わされた。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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