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ネット上で習近平国家主席を礼賛するのは本音?保身?それとも不満は削除されたのか?

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

10月22日に閉幕した第20回中国共産党大会。習近平国家主席の異例尽くめの3期目が決定したが、中国のインターネットを見るかぎり、習氏を褒めたたえるコメントのオンパレードで、否定的なコメントは一つも見当たらない。本当に中国の人々は習氏を心から支持しているのだろうか?

ネット上は「祖国万歳」一色だが……

「祖国万歳!」「祖国万歳!」 共産党大会が開会した16日、習氏の演説が始まると、中国国営メディアのコメント欄には祝福のコメントが次々と書き込まれ、支持一色となった。期間中はずっとこのような状態が続き、習氏の3期目続投が正式に決定すると、その声はますます強くなった。

筆者の中国在住の知人の中にも、微信(ウィーチャット)に「中国共産党万歳!」「ともに未来に向かって団結しよう!」などと書き込む人がいたし、在日中国人の中にも党大会のニュースを興奮ぎみにシェアする人がいた。

しかし、人民日報や新華社、中国中央テレビなどの公式アプリの記事を読んだり、映像を視聴したりしている人々の数が膨大な割に、コメント数はそこまで多くないように感じる。

しかも、多くのコメントは上記のような“決まり文句”ばかりで、個人的な感想や意見などはほとんどなかった。まるで習氏礼賛のために動員された“さくら”ではないか?と勘繰ってしまうほどだ。

保身派もかなりの人数がいる

筆者は昨年夏~秋ごろ、中国のゼロコロナ政策について中国国内に住む人々に遠隔で集中的に取材を行ったことがあるが、その際、遠回しに政府についての意見も聞いたことがあった。

その当時は、中国が比較的コロナを抑え込めていた時期だったり、共産党100周年で盛り上がったりしていたことも関係したのか、一部の党員(20代の若い年齢層)は政府の政策を絶賛し、「中国がここまで発展したのは政府のおかげです」と強調しており、その話し方から本音であるように感じた。

だが、党と関係のない一般人で筆者と親しい関係にある中国人に、そうした「絶賛する人々」から聞いた話を振ってみると「確かに心からそう思って、このところ、真っ赤(中国共産党の色)に染まっちゃっている人も一定数いることはいます。それは嘘ではないのですが、とはいっても、一枚岩でもないですよ。外側は赤いけど、中の色はちょっと違う、いわゆる保身派といってもいい人々もかなりの数いるんですよ」と教えてくれた。

保身派とは、党を心の底から支持しているわけではないが、かといって強く否定するわけではなく、表面的に党を肯定することによって、自分の仕事や生活を円滑に進めたい、ただ穏便に暮らしたい、と思っている人々のことだそうだ。

そういう人々の中にも「祖国万歳!」とわざわざSNSに書く人がいるが、心の内はそうではないので、共産党を熱狂的に支持する人々と同類とはいえないという。むろん、保身派の中には、ひたすら沈黙を貫く人もいる。

否定的なコメントは検閲される

その一方で、政府のやり方を批判したり、強く嫌悪したりしている人々もいる。厳しくなる一方のゼロコロナ政策でその数は増えていることが予想されるが、本音が表面に現れてくることはほとんどない。

今回の党大会中、政府のネット検閲が強化されていることにより、否定的なコメントは、少なくとも政府系メディアには書き込むことができない仕組みとなっていた。コメント欄が閉じられている場合もあるし、投稿を試みても、それがネット上に反映されないことが多い。

あるいは、書き込むことができたとしても、数分以内に削除される可能性が高いので、それでもあえて書き込もうとする人は少ない。

今年3~5月に上海で2ヵ月に渡るロックダウンが行われた際、政府への批判的な投稿がことごとく検閲で削除されたことが記憶に新しいが、そのときのように強い不満や意見をSNSに書き込むのとは異なり、今回の「習氏3期目」は既定路線。そのため、そのこと自体に一市民が不満の声を上げても「仕方がない」「声を上げるだけ損」という、あきらめの境地がある。

だが、否定的意見が表面的に見えないからといって、存在しないわけではないことは容易に想像がつく。

党大会開催前に北京で習氏を批判する内容の横断幕が掲げられ、騒然となった。上海でも若者が白い横断幕を持って歩くところがツイッターに投稿されて物議をかもした。

中国国内ではツイッターは基本的に利用できないため、「海外の人に、何とかして不満の声を届けたかったのでは?」と囁かれている。国内では不満の声が表面化していないが、そうした声がないわけではないと示唆する象徴的な出来事だったといえるだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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