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ロックダウンは続く?上海で「高考」の日程が1ヵ月延期となったことによる「波紋」

中島恵ジャーナリスト
大学入試に臨む学生と見送る保護者(写真:ロイター/アフロ)

ロックダウンの影響で入試が延期に

5月7日、上海市政府は、新型コロナウイルスの感染拡大により全市がロックダウン(都市封鎖)されていることから、「高考」(ガオカオ=全国統一大学入学試験)を例年より1ヵ月延期して、7月7~9日に実施すると発表した。

同時に「中考」(ジョンカオ=高校入学試験)の日程も同じく1ヵ月延期することを発表した。新型コロナの影響で2020年の「高考」も通常の6月から7月へと1ヵ月延期されたが、今回は上海市のみ延期となる見込み。今年、上海市の「高考」の受験者は約5万人、「中考」の受験者は約11万人と推定されている。

このニュースに関連するSNSを見ると、「これは致し方のない判断だろう」「ゼロコロナ対策のためだから、やむを得ない」といった声が大きいが、「つまり、ロックダウンが少なくとも5月末までは続くという意味なのだろうか?」といった声もあり、波紋が広がっている。

高校もすべてオンライン授業

高校1年になる子どもを持つ上海市の知人はいう。

「周囲では、親子ともにホッとしているという声もあると同時に、不安も広がっています。メディアを見ると、上海の受験生だけ1ヵ月多く準備ができるのだから得だとか、不公平ではないか、という意見がありますが、ロックダウンという通常とは異なる生活環境の下で受験勉強が手につかない子どもも大勢いるので、今回の措置はよかったと個人的には思っています。

今、上海の子どもたちは皆オンラインで高校の授業を受けていますが、親も家で仕事をしているので、勉強に集中させるのが大変なんです。

早くロックダウンが解除され、無事に受験が終えられたらと願うばかりですが、7月の上海は猛暑となることや、ロックダウンで運動不足となっている子どもたちの体力も心配。精神的な動揺もあると思います。いずれにしても、今年、上海の受験生にとっては“特別な年”になることは間違いないです」

全国一斉の試験で一発勝負

「高考」は日本でもこれまで多く報道されてきた通り、「現代版の科挙(隋から清まで約1300年間行われた官吏登用試験)」と紹介されることもあるほど有名な中国の大学入試だ。例年6月上旬に実施されるもので、日本の「共通テスト」に似ている。

ただし、中国の場合、大学はほぼ国立大学のみで、全国の受験生が同一日(2~3日間。地域によっては4日間)に一斉に試験に臨む一発勝負。それによって志望校の合否が決定する。

受験科目は国語、数学、英語のほか、選択科目がある。試験問題も統一の問題を使用する省もあれば、そうでない省や直轄市がある。上海市は独自に試験問題を作成するため、1ヵ月延期となっても問題がない。

各大学の合格者は省や直轄市によって人数が決められているが、中国メディアの報道によると、その点でも今回の延期措置の影響はない、としている。

しかし、いずれにしても、一発勝負の試験であることから、受験生たちのプレッシャーは大きい。教育熱心な家庭では、幼稚園のときから「高考」受験のために子どもに英語を学ばせたりするし、昨年、政府から「学習塾禁止令」が出るまでは、ほとんど毎日のように塾に通って勉強する子どもも多かった。

地方によっては、高校の近くに母子ともに受験のために引っ越しをして、子どもの通学の負担を減らそうとする保護者までいる。

それくらい大学入試にかける意気込みが大きいお国柄だけに、6月の「高考」が7月に延期となっただけでも大きなトピックだ。長引く上海のロックダウンの終わりはまだ見えず、若者たちの精神面に与える影響も懸念されている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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