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なぜ中国の若者はコスプレ衣装を着て、お花見の写真を撮りたがるのか? セーラー服、漢服、ロリータ風……

中島恵ジャーナリスト
漢服を着て写真に写る若い女性(中国のサイト「大女王的旅行」より筆者引用)

 東京や福岡、長崎など、今年は例年よりも早く桜が満開となりましたが、中国でも同様です。前回の記事(以下)でも書きましたが、中国では、数年前からお花見が大ブームとなっています。

「日本の桜と中国の桜、どっちがきれい?」しばし沈黙した後、中国人から返ってきた答えは……

 武漢大学など、有名なお花見スポットの一部は事前予約制だったり、有料のところもあるようですが、基本的には日本と同じく無料でお花見ができる公園が多く、ここ数日、日本のニュースでも「中国国内のお花見」について報道されています。そのうちの一つの記事(以下)の中に、日本の高校の制服らしき服装をした女性2人が、桜の枝をバックにスマホを持って立っている写真を見つけました。

中国江蘇省で花見ウィーク 日中友好の桜にくぎ付け

 中国の高校(中学も同様)の制服は、日本では体育の時間に着るようなジャージが多く、日本の高校と同じようなスタイルの制服(学生服)というのは、ほとんどありません。ですので、この写真の女性は、一見して日本の女子高生風の「コスプレ」をしている中国人である、ということがわかります。

 女子高生の服装をJKファッションといいますが、この言葉は中国の若者の間でもそのまま通用し、中国のサイトで「JK」または「JK制服」と検索すると、多数のニュースや写真がヒットします。中国の通販サイトを見ると、日本のどこかの高校の制服とそっくりなデザインの服を販売しており、誰でも簡単に購入することができます。

さまざまなコスプレをしてお花見に行く

 中国のお花見のニュースやSNSの写真などを見てみると、この日本の女子高生の制服風の衣装を始め、漢服(明代などの衣装を現代風にアレンジした民族衣装)、アニメキャラクターの衣装、ロリータ風ファッションなどに身を包んでいる女性が多いことに気がつきます。

 もちろん、大多数の中国人は、日本人と同じように、普通の服装でお花見に出かけているのですが、10代~20代のZ世代と呼ばれる若者たちを中心に、ここ数年、コスプレ衣装を着てお花見をし、そこでポーズを決めて写真や動画を撮る、ということが流行っているのです。

 なぜ、彼らはわざわざコスプレをしてお花見に行くのでしょうか?

 中国に住む20代の若者に話を聞いてみたところ、そもそもコスプレをするようになったのは10年以上前からとのこと。きっかけは、やはり日本のアニメやゲーム、マンガなどの影響で、コスプレをして中国国内のアニメイベントや同人イベント、コンサートなどに行くようになったことが始まりだそうです。

 その後、上海などでは、日本風の夏祭りなどが開かれるようになり、そうしたときには、日本人を真似て、日本の浴衣を着たりするなど、次第に「イベントがあるときに、コスプレをして出かける」という若者が増えていきました。

 中国でお花見が流行り始めたのは、中国人が日本に「爆買い」にやってきて以降なので、まだここ数年のことですが、「お花見はこの時期限定の特別なイベントなので、普通の服装で行ってもおもしろくない。大好きなコスプレをして、記念に写真や動画を撮って、SNSに投稿したい」ということで、お花見のときにもコスプレをするようになりました。

日本の女子高生が着ている制服は憧れ

 コスプレ衣装の種類は、前述したようにさまざまなものがありますが、その中でも、なぜ日本の女子高生の制服風の衣装を着るのかと聞くと、「中国では若者だけでなく、多くの人が『女子高生の制服といえば日本』とすぐに連想します。ドラマやアニメの中で、日本の学生が制服を着ている姿をよく見て、知っているからです。中国の卒業シーズン(6月)と違い、日本の卒業シーズンといえば春、3月ですよね? 3月は桜が咲く季節なので、私たちも憧れの日本の女子高生の制服みたいなかわいい衣装を着て、桜の前に立ってみたいな、と思うんです」と話していました。

日本の女子高生の制服風の衣装を着て写真を撮る女性も多い(中国のサイト「破産三坑」より筆者引用)
日本の女子高生の制服風の衣装を着て写真を撮る女性も多い(中国のサイト「破産三坑」より筆者引用)

 また、近年、非常に流行しているコスプレが、前述した漢服です。漢服は、明朝までの漢民族が来ていた衣装のことで、清朝以降は廃れていたのですが、2000年代になって「漢服復興運動」が起こり、国内で伝統的な衣装を見直す動きがありました。その当時はあまり普及しなかったのですが、ここ数年、Z世代の若者を中心に「国潮」ブームが起こり、漢服も復活しました。

「国潮」ブームとは、中国の伝統的な要素を取り入れたトレンドのことです。中国的な模様やドラゴンのモチーフなど、チャイナテイストのファッションが若者たちの間で「カッコいい」と評判になり、衣服だけでなく、靴や化粧品、雑貨などにも取り入れられています。背景には経済的に台頭した自国の文化に対する自信、SNSの普及、時代劇ドラマの影響、自己顕示欲、などがあるといわれています。

 中国の観光地に行くと、漢服を着て川のほとりや古い街並みを歩き、日傘をさしたり、片手に扇子を持ったりして写真撮影をする若者たちを多く見かけるのですが、彼らにとって、お花見も、コスプレをして撮影するのに値する絶好のイベントのひとつになっている、といえます。

参考記事:

今年は誰も見られない「武漢の桜」

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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