中国の春節休暇が終わって1週間ほど経ちましたが、今、中国のネット上では、各省のお年玉の金額について議論が巻き起こっています。日本でも他人の子どものお年玉について、気になる人は多いと思いますが、広大な中国では、地域格差が非常に激しいのです。最も金額が安い省と最も金額が高い市では、お年玉の額に240倍もの差がある、といえば、驚く人が多いのではないでしょうか?

なぜお年玉が「19万円」なのか?

 数日前、中国の各ニュースサイトに、以下の「全国のお年玉地図」とともに分析記事が載り、話題になりました。

(中国のニュースサイト銭江晩報より筆者引用)

 この地図を見ると、ピンク色が濃い部分はお年玉の金額が比較的高い省、ピンク色が薄い部分は金額が比較的低い省になっており、最も高いのは福建省(濃いエンジ色)で、1人に対し1回にあげるお年玉が3500元(約5万6000円)、最も安いのは広東省(福建省の南に隣接する白色)で、同じく50元(約800円)でした。

 福建省と広東省の間には70倍もの格差があったのですが、とくに福建省の莆田(プーティエン)という市では、なんと1万2000元(約19万2000円)と高額であることがわかりました。

 そのことについて、中国のSNS上にはさまざまな意見が飛び交っており、ある莆田市出身者(年齢不明)はこう語っています。

「私は小学校に入るころから、毎年、親からお年玉を3000元(現在のレートで約4万8000円)もらっていましたので、ずっと、これが普通なんだと思ってきました。大学時代はもっともらっていましたので、小学校から大学までのお年玉を合計すると5万元(約80万円)以上になりますね。もう使ってしまったけれど、今から思えば、あの頃が人生でいちばん裕福だったかも(笑)。何しろ、今のお給料は5000元(約8万円)しかないから」

 ほかにも同じ福建省の別の都市の出身者からの投稿を見つけました。その人も「福建省では3000~4000元くらいのお年玉をもらうのは、ごく普通だと思うが、1万2000元なんていう金額は、私自身は聞いたことがない。これは本当かな?」と書いています。

 SNS上の短いコメントなので、詳しい背景説明や説得力のある解説は見つかりませんでしたが、1万2000元はもちろん、3000元(約4万8000円)といえば、2019年の上海市の大卒初任給(約7000元=約11万2000円)の半分近い金額です。日本の感覚でいえば、大卒の平均初任給の半分ですから、10万円くらいに相当する、と思えば理解しやすいでしょう。

 それだけの金額をお年玉としてあげるのは、いくら経済成長している中国とはいえ不可解な気がしますし、しかも、平均1万2000元(約19万円)という金額は多すぎると思いますが、ひとつ、思い当たるのは、莆田市が置かれた特殊な土地柄です。

福建省の「華僑のふるさと」

 莆田(プーティエン)市は別名「僑郷」(チャオシャン、華僑の故郷)と呼ばれている都市で、同じく「僑郷」といわれる福清市と並び、かなり豊かな地域だということです。日本では、これらの都市名を知っている人はほとんどいないと思いますが、中国では比較的知られているところです。

 莆田市の人口は約330万人。福建省の省都、福州市と泉州市の間にある都市で、中国では、とくに大きい町とはいえませんが、この町から東南アジアなどに大勢の人が移住しており、福建省の中では裕福な都市です。そうした海外移住者から、故郷に住む家族に、たくさんの送金があることは、十分考えられることでしょう。

 お年玉は必ずしも大人から子どもにあげるだけでなく、大人が自分の両親にあげる場合もありますので、海外に出てお金を儲け、豊かになった人が老いた両親や家族にプレゼントしているという可能性も否めません。もしそうであれば、1年に1回のお年玉の金額として、納得がいきます。

 ちなみに、筆者は2018年のyahooニュース個人(以下)にも、中国人のお年玉について書いています。

「もうすぐ春節 中国人の子どもが受け取るお年玉の金額はいくら?」

 この記事の中で、都市部の人が小学生くらいの子どもにあげるお年玉は約200~500元(当時のレートで約3400円~約8500円)と書きました。子どもにあげるお年玉に限定すると、現在でもこのくらいで、あまり変わっていませんが、今年は中国もコロナ禍で、移動自粛があったので、オンラインでのお年玉が増えたと思います。

 そのほか、主要な省や大都市のお年玉について見てみると、金額が高い順に以下の通りでした。

 浙江省3100元(約5万円)

 北京市2900元(約4万6400円)

 上海市1600元(約2万5600円)

 江蘇省1000元(約1万6000円)

 一方、金額が低いのは以下の省です。

 広東省50元(約800円)

 貴州省300元(約4800円)

 青海省300元(約4800円)

 広西チワン族自治区300元(約4800円)など

 全体的に見て、東側の沿海部が高め、内陸部は低めという傾向があると思いますが、際立って低いのは広東省です。中国のニュースサイトやSNS上でも「なぜ広東省のお年玉はそんなに安いのか?」と議論されていました。

広東省では、お年玉は大勢に配るもの

 広東省のお年玉については、筆者自身も経験があります。筆者は以前、広東省と隣接する香港に住んでいた経験がありますが、広東省や香港などでは、春節のお年玉のことを「利是」(リーシー、この地方の広東語ではライシー)と呼び、お年玉は子どもや親戚に配るだけでなく、多くの人々に配るという独特の風習があります。

 近所の子どもやマンションの警備員、管理人、お手伝いさん、会社の(結婚していない)同僚、近所の人、目上であっても、まだ結婚していない友だち、知人、デリバリーの配達員など、かなり広範囲に配るのです。

 筆者は香港に住んでいたとき、通りすがりの見ず知らずの人からも、お年玉をもらったことがありますが、とにかく、大勢の人に配るもので、中国語では「心意」(ささやかな気持ち)といえるものです。こうした風習は中国の他の省では、ほとんど聞いたことがありません。

 SNS上でも広東省の人からのコメントがありましたが、広東省では春節に少なくとも20個、多い場合は40~80個ものお年玉をもらったり、あげたりするのが当たり前、とされています。

 上記の「お年玉地図」では、広東省は50元(約800円)とありますが、このような事情があるので、もっと少ない金額の10元(約160円)、20元(約320円)のお年玉もあります。広東省の人は、春節の前になると、10元、20元、50元、100元など、相手によっていくつかの金額に分けた紅包(ホンバオ、赤いお年玉の袋)をたくさん用意しておき、それを春節期間中に、あちこちに配るのです。

 そうした風習を知らないでこの地図を見ると、「広東省は中国の中でもGDPが高いのに、なぜそんなにケチなの?」と誤解してしまうかもしれませんが、そういう事情があるのです。

 ところで、この「お年玉地図」を見た中国の読者の間では、日本同様、「子どものお年玉は親が管理するべきか? 子ども自身に管理を任せるべきか?」などの議論も巻き起こっていました。

 中国は広大なので、お年玉の風習ひとつとっても地域差が大きく、中国人自身も、実は自分の出身省以外のことはよく知らないことが多いのですが、お年玉の管理について議論しているところなどは、日本人と同じだな、と感じます。