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快進撃を続けるワークマン 成長のカギは「素人さん」の発掘にあった

中井彰人株式会社nakaja lab 代表取締役/流通アナリスト
(写真:松尾/アフロ)

【快進撃のワークマンの絶妙なポジショニング】

コロナ禍でほとんどの衣料品チェーンが青息吐息の状態にある中、ワークマンの快進撃が続いている。作業服専門チェーンだったワークマンは、今やアスレジャー(アスレチック+レジャー)商品で一般消費者にも広く知られる存在となり、まさにJカーブを絵にかいたような成長基調にある。図表でもみてとれるのだが、チェーン総売上、営業総収入、経常利益のどれをとっても伸びていて、特に2019年以降の伸びが著しい。

「画像制作:Yahoo! JAPAN」

作業服のトップシェアチェーンとして培ってきた機能性と低価格が、女性消費者にも受け入れられていることに気付いたワークマンは、アスレジャーユースの商品開発を強化しつつ、一般消費者向けの訴求を強めた業態で「ワークマン+」を開発し、その勢いに火が付いた。さらには女性消費者向けを前面に打ち出した業態「ワークマン女子」も投入して、大きな話題にもなっている。こうしたワークマンの快進撃を産み出している成長戦略の基本は「声のするほうに進化する」であり、この声のする方向に向けて「客層を拡大し」つつ、「お客様満足度の向上」を積み重ねている結果であると会社は説明している。(個人投資家向け説明会資料より)

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アスレジャーから聞こえてきた「声」について、会社ではデザイン性⇔機能性、高価格⇔低価格をクロスさせた4象限でポジショニングを示して説明している。(図表)デザイン性や機能性に優れたアスレジャー製品は基本的には高価格帯に位置している。そして、デザイン性は良くて低価格な国内外製造小売業の製品も存在しているが、機能性に優れていて低価格な商品という場所には、ぽっかりスペースが開いていた。そう判断したワークマンは、低価格ながら機能性を求められる作業服からアスレジャー商品を開発していった。

【市場のすそ野が広がるのをじっくり待つワークマン】

こうした商品は、アスレチック用品が各種スポーツのプレイヤー層だけを対象としているのだとなかなかまとまった需要になりにくい。実際、ワークマン製品を使うのはプレイヤー層というよりは、プレイヤー層が使っているのをみて使ってみる「素人さん」であろう。つまり、アスレジャー商品とは本当にスポーツ用に使うのではなく、その機能や格好良さをウエアとして身にまとうというものなので、高価格だと手が出しにくいが、安いなら試してみたい、そんな素人需要を発掘したものと解釈することが出来る。ワークマンが他社にないような成長を実現したのは、素人需要を顕在化させた(新たに創り出した)ことによると考えればいいのだろう。

こうした素人需要を顕在化させるワークマンは、アスレジャーと似た新たな需要をさらに創り出していくことが可能だと考えているようだ。2月にはキャンプ用品を本格的に投入しているのだが、さまざまなメディアでの露出も強化していたので、既に知っている方も多いかもしれない。キャンプ市場の盛り上がりに対して、既に多くの企業が市場参入を進めてきた中、参入時期が遅いのではないかという問いに対して、ワークマンの経営幹部は、周回遅れのようにみえるが、アンバサダーマーケティングで客の声を反映した商品開発を行っている当社としてはそれが必然だ、と語ったという。そのこころは、キャンプ市場がある程度、普及するのを待って、何が素人キャンパーに求められるか、キャンプ用品をそれ以外の用途に使う人がいるか、といった潜在的な需要確認をしてから参入したということだろう。素人マーケットの成立を待って、そこを深掘りしていくこの手法、まだまだ市場がありそうだ。

【成長基盤はフランチャイズ加盟店との良好な関係】

このようにワークマンは、ある意味で需要創造型企業であり、そのマーケティング力が際立っている上に、SNSや各種メディアを活用して消費者を巻き込んでいく力もある。しかし、この会社の成長の原動力は実はその販売体制にある。ワークマンの店舗のほとんどがフランチャイズ加盟店であり、この加盟店との上手な関係構築がその成長力を支えている。

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図表はワークマンの直営店と加盟店売上の推移だが、近年の成長を担っているのがフランチャイズ加盟店であることがすぐにわかるはずだ。フランチャイズと言えば、コンビニエンスストアが代表的な業態であり、近年では本部と加盟店の紛争が多発したことで、いわゆるブラックフランチャイズが問題となっている。こうしたフランチャイズにおける本部と加盟店との間で起こりがちな利害対立について、十分配慮した「ホワイトフランチャイズ」を構築しているところが、この会社の「マーケティング力」を感じる。

その加盟条件は「25歳~50歳の夫婦で人と接する仕事経験のある方」だと公表されているが、これこそ、かつてのコンビニ加盟店の条件でもあった長時間労働に対する交代での対応を求める体制なのであるが、ワークマンの場合はコンビニのように24時間営業という訳ではなく、おおむね7時~20時の朝対応が出来ればよいため、長時間労働という点でもだいぶんマシだと言えるだろう。その上、ワークマン加盟店の夫婦での収入は多くの店で1000万円~1200万円に達するということであり、世帯収入としてもかなり魅力的な報酬を得る事が出来るという。小売店の現場運営というきつい仕事ではあるが、この水準の収入を得られる可能性が高いのなら、多少のことは我慢しようという気になるように思う。

コンビニ業界で大いに問題になったのは同社間競争(カニバリ)の問題であるが、ワークマンはこの点にも大いに気を使っている。店舗増加に伴って、近隣商圏内に同じチェーンの店が開店すると、本部の利益は増えるが、既存加盟店の売上、利益が減少し、加盟店の大きな不満の原因となるということである。ワークマンは基本的にこの商圏重複を避けるべく店舗配置を考え、また、客層の拡大を図っていることからもカニバらない業態を投入するということで、加盟店との関係維持に努めているようだ。

【データと歴史に学び、ロジカルに経営判断】

ワークマンのマーケティングやフランチャイズ構築に共通してみえてくるのは、市場、消費者、加盟店などステークホルダーからの「声」に細心の注意を払い、その「声」を精緻に分析し、戦略に反映していくという経営の姿勢であろう。また、判断にあたって関連する歴史的経緯についても十分に情報収集している様子がよくわかる。斬新な戦略と巧みなアピールでユニークな存在にみえるワークマンだが、その本質はデータと歴史から冷静に学び、実直に戦略に反映させるロジカルでオーソドックスな経営判断にあるとみた。ワークマンの破竹の進撃は、決してブームや、一過性のものではなさそうだ。

株式会社nakaja lab 代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部で 小売・流通アナリストに10年以上従事。2016年同行を退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、慶應藤沢イノベーションビレッジでベンチャー支援活動を開始。並行して、流通関連での執筆活動を継続し、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、コメント提供、講演活動などを実施中。2016年よりITmediaビジネスオンライン「小売流通アナリストの視点」、2021年よりビジネス+IT「流通戦国時代を読み解く」 を連載中2020年よりYahoo!公式コメンテーター。2021年8月「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)を発刊。

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