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オミクロン株は経済にとってプラスになる

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

来年の経済が今年より不透明感が薄まるわけとは

 毎年この時期になると、いろいろな媒体から「来年の世界と日本の経済はどうなるのか教えてほしい」と取材を受けることが多いのですが、昨年は馬鹿正直にも「わからない」と答えていました。

 何故かというと、当時は新型コロナの感染状況がどうなっていくのか読めない情勢のなかで、経済の見通しを語るのはとても無責任だと感じたからです。第1に「感染拡大の波は第何波まで来るのか」、第2に「ウィルスの突然変異がどの程度起こるのか」、第3に「ワクチンの効果はどの程度長続きするのか」、これら3点の疑問について私たちはわからないことだらけだったのです。

 実際に今年は世界中で、いくつもの感染拡大の波が襲来し、アルファ株やデルタ株などの変異株が流行しました。その流れのなかで日本の都市部などでは、1年の半分以上が緊急事態宣言下にあり、少なく見積もっても10兆円単位の経済損失が生じました。当時、多くのシンクタンクは感染が収まるという前提で今年の見通しを立てていたので、やはりコロナが広がる状況下での経済予測は極めて難しかったといえるでしょう。

 しかし、今年の現時点と昨年の今頃で明らかに異なるのは、第1と第2の点については相変わらずわからないものの、第3についてはデータ(ワクチンの効果は6カ月程度)があるということです。そのうえ、ワクチンの接種率が高ければ高いほど、重症化率・死亡率が大幅に低下するということも判明しています。

 ですから、世界各国でブースター接種(3回目の接種)が進む見込みであることから判断して、来年の経済は今年ほどの不透明感はないだろうと考えています。重症化率・死亡率を低位に抑えることによって、経済活動を徐々にコロナ前に近づけていくことは十分に可能であるというわけです。

オミクロン株が経済にとってプラスに働くわけとは

 そうはいっても、南アフリカで発見されたオミクロン株が経済に悪影響を与えるのではないか、という懸念が世界中で広がっています。大手メディアのいたずらに不安を煽るような報道がそういった懸念に拍車をかけているようです。

 しかし私は、オミクロン株が経済にとってむしろプラスに働くのではないかと推測しています。というのも、各国の専門家のあいだでオミクロン株の研究・分析が進んでいるなかで、未だわからないことが多く油断はできないものの、少なくとも2つの特性がわかってきたからです。

 1つめの特性は、感染力が強いということです。南アフリカの国立伝染病研究所によれば、再感染のリスクがデルタ株やベータ株の3倍になるといいます。当初から懸念されてきた感染力の強さは、それ自体が脅威として捉えられるのは致し方ないのかもしれません。実際に世界中で感染が急拡大しており、メディアが恐怖を煽るには格好の材料となってしまっているのです。

 これに対して2つめの特性は、毒性が弱いということです。ワクチン接種率が低い南アフリカ現地からの報道によれば、重症者はほとんどいないといいますし、欧州疾病予防管理センターによれば、12月3日時点のEU域内の感染者数109人すべてが軽症か無症状だということです。これはかなり明るい材料のはずですが、現時点では何故か大手メディアではそういった報道は少ないようです。

 少し冷静に考えればわかることですが、たとえ感染力が強かったとしても、重症化率が極めて低いとなれば、経済再開のための緩和策と共存が可能となります。米欧や韓国では拙速な緩和策の拡大によってデルタ株を中心に感染が再拡大する事態となっているものの、オミクロン株への置き換わりが進むとすれば、人々のあいだに安心感が広がり、オミクロン株はインフルエンザや風邪と同等の扱いになっていくかもしれません。

景気回復のカギを握るのは、ブースター接種の進捗率だ

 そういった意味では、不幸中の幸いというか、オミクロン株の感染拡大は決して恐れることではありません。ウィズ・コロナのもとに経済・社会を回していくためには、ウィルスの感染力が強ければ強いほど、なおかつ、ウィルスによる重症化率が低ければ低いほど、理想に近い状況にあると思うのです。

 オミクロン株の出現は、近い将来、世界での消費を回復させると同時に、物流不足などに起因する供給制約も解消に向かわせるポテンシャルを秘めています。とりわけ日本では、強制貯蓄(コロナ禍で消費されずに貯蓄に回ったお金)が20兆円を超えています。コロナへの過度な恐れがなくなれば、先進国のなかでも最も消費が回復してくるのではないでしょうか。

 しかしだからといって、ワクチン接種をやめていいというわけではありません。これまでの専門家による研究では、ワクチンの効果は2回目接種から6カ月後には弱まることが判明しています。その証左としてワクチン接種が早かった米欧では、ワクチン接種者でもデルタ株などに感染し、重症化したり死亡したりするケースが増えているのです。オミクロン株の重症化率が低いとはいえ、他の変異株にも備えるためにはブースター接種は不可欠です。

 日本では多くの高齢者が今年の6月~7月に2回目の接種をしたので、6カ月後は12月~来年1月の時期になります。ワクチンの効果が弱まった高齢者が重症化したり死亡したりするリスクを回避するためには、早急なブースター接種の開始が求められます。そのような見地から、岸田首相の「3回目接種は8カ月を待たずに、できる限り前倒しする」という方針は正しいと思います。

 いずれにしても、世界経済が本格的な回復をするためには、ブースター接種の進捗率がカギを握っているのかもしれません。「ブースター接種」と「オミクロン株」の組み合わせが、人々の日常に安心感をもたらし、経済の正常化を推し進めるのではないでしょうか。来年はコロナ禍の世界に光明が差すのではないか、そう期待しているところです。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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