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「ふるさと納税」重大欠陥を改めよ 地方衰退と格差拡大を助長する異様な政策

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ふるさと納税の大きな弊害とは

 菅義偉・前官房長官が自民党総裁選に立候補し新首相に選出される過程において、多くのメディアでは「ふるさと納税」が彼の地方活性化の実績として報道されました。

 しかしそれらの報道は、あまりに近視眼的な評価であり、表面的な部分しか見ていないといわざるをえません。というのもこの制度の実態は、地方自治体が真に効果的な政策を実現するためのモチベーションを引き下げるばかりか、富裕層へ所得を再分配する機能が強いという弊害を生んでいるからです。

なぜ地方の生産性を大幅に引き下げる結果になるのか

 ふるさと納税の重大な欠陥のひとつは、地方自治体の職員が地元の活性化に向けて努力しようという動機を弱めてしまうということです。それは、地方自治体がふるさと納税で税収を増やしても地方交付税は減らされない一方で、自治体の努力によって税収を増やしたら地方交付税が減らされてしまうという仕組みに起因しています。

 たとえば、ふるさと納税で税収を10億円増やしたとしたら、返礼品代の上限3割にあたる3億円を差し引いても、7億円が純増分として残る計算になります。ところが、企業誘致などに成功して税収が10億円増えたとすれば、地方交付税が7.5億円も減らされ、実質的な税収は2.5億円の増加に縮小してしまうのです。

 その帰結として、ふるさと納税は税収を手っ取り早く増やす手段となりつつあり、長い目で見たら、地方自治体の職員の創意工夫を妨げ、政策立案能力を衰えさせることにつながっていきます。要するに、地方自治体の生産性を大幅に引き下げる事態になりかねないというわけです。

なぜ富裕層に恩恵が集中する仕組みなのか

 ふるさと納税のデメリットは、何も地方自治体のモチベーションを引き下げるだけではありません。深刻なもうひとつの欠陥は、富裕層に経済的恩恵が偏る側面が大きいということです。みなさんもご存知のように、ふるさと納税は応援したい自治体に寄付すると住民税や所得税が減る仕組みですが、これを大まかに表現すると、年間2000円を支払えば返礼品がもらえるというイメージになります。

 この制度が当初から不条理だったところは、地方自治体に寄付した額に応じて、もともと支払うべきだった住民税や所得税が大幅に減額されていたという点です。過剰な返礼品を用意する自治体に寄付した場合、実質的に税負担がほぼゼロになるという事例に枚挙にいとまがなかったのです。

 ふるさと納税を所管する総務省もさすがに行き過ぎた返礼品はまずいと思ったのか、2019年6月から自治体に対して返礼品を寄付額の3割以下に抑えるよう、強制できる制度に改めています。これによって、自治体間の過度な返礼品競争にある程度歯止めがかかったといえるようです。

格差を助長する異様な政策は改めよ

 しかしそれでも、ふるさと納税による税制の優遇はやりすぎです。実質的には返礼品の分だけ得をしている計算になり、寄付をしているにもかかわらず得をするという奇妙な状況を生み出している仕組みに変わりはないからです。これでは、日本に寄付文化がまっとうに根付くはずがありません。

 富裕層のなかには、数千万円を寄付して食費がほとんどかからなくなったという事例も散見されますが、子どもの貧困対策として全国で子ども食堂が急増している状況を鑑みても、ふるさと納税は格差社会を助長する異様な政策であるといえます。富裕層への所得の再分配機能が強い仕組みは、政府が良識を持って改めるべきではないでしょうか。

 そもそも、すべてが国の税金頼みの政策には持続可能性がないことは明白です。地方の活力を引き出すことができないうえに、庶民の生活感から乖離した税制を内包する制度を、税金の垂れ流しで温存する理由などどこにもないのです。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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