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呆れるしかない最大野党の参院選公約

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
参院選挙の公約として「ボトムアップ経済ビジョン」を掲げる枝野代表(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

立憲民主党の「ボトムアップ経済ビジョン」とは

 最大野党である立憲民主党は20日、7月の参議院選挙の公約として経済政策の基本方針「ボトムアップ経済ビジョン」を発表しました。同党の枝野幸男代表は「まず上げるべきは、物価ではなく賃金だ」と述べたうえで、「5年以内に最低賃金を1300円にする」ことを目指すとしています。

 国民全体の賃金のボトムを引き上げることによって、GDPの6割を占める個人消費が拡大し、内需拡大を通じた経済成長が実現できるということです。具体的には、保育士や介護士の給与の大幅な引き上げや、非正規雇用の無期直接雇用への切り替えなどを掲げています。また、消費税率は当面8%に据え置いたまま、所得税・法人税の累進課税強化などで財源を確保するという考えも示しています。

「ボトムアップ経済ビジョン」の最大の問題点とは

 立憲民主党の公約には賛同できる点もありますが、やはり最大の問題点は「5年以内に最低賃金を1300円にする」というところです。立憲民主党と政府の方針の大きな違いは、「5年以内に全国一律で1300円」と「3年程度で全国平均で1000円」ですが、前回の記事『最低賃金5%引き上げで、懸念される日本の将来』(6月17日)では、政府が目論む「5%程度の引き上げ」は地方を中心に中小零細企業の雇用が脅かされるため考え直したほうがいいと申し上げました。

 目下のところ、日本は年々人口減少が加速しているにもかかわらず、低い生産性の代表とされている小売業・飲食業などの店舗は増え続けています。そのような生産性に下押し圧力が働いている状況のもとで、最低賃金(全国平均874円)を2019年から5%ずつ引き上げ2021年に「1000円」を突破するようなことになれば、アルバイト・パートで経営が成り立っている中小零細企業の大半が慢性的な赤字に陥るだろうと警鐘を鳴らしたというわけです。

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 立憲民主党の方針が政府よりさらに輪をかけてひどいのは、5年以内に最低賃金を1300円に引き上げるためには、その引き上げ率が尋常ではなくなるということです。たとえば、最低賃金が全国平均に最も近い兵庫県(871円・全国8位)では、1年ごとに8%超を引き上げていく計算になりますし、47都道府県で中央(24位)に位置する石川県(806円)では、10%超の引き上げが必要になります。最低賃金が最も低い鹿児島県(761円)の場合、1年で11%超の引き上げが必要になるのです。

韓国で何が起こったか、直視したほうがいい

 立憲民主党の幹部の方々は、お隣の韓国で今何が起こっているのか、直視したほうがいいでしょう。韓国では文在寅(ムン・ジェイン)政権が所得主導の経済成長を掲げ、最低賃金を1万ウォンに引き上げるという公約の実現に向けて暴走しています。最低賃金を2017年に16.4%(7530ウォン)引き上げたのに続き、2018年にも10.9%(8350ウォン)引き上げた結果として何が起こっているのかというと、失業率が悪化の一途をたどり、直近の2019年4月の失業率は4.4%と19年ぶりに過去最悪の水準を記録しているのです。

 最低賃金の引き上げ率が2012年~2016年の5年間の平均7.4%を大幅に上回っていたため、中小零細企業のなかでも小売店や飲食店などが従業員を減らさざるをえない状況に追い込まれています。とりわけ若年層(15歳~29歳)の雇用の減少が著しく、若年層の失業率は11.5%と2桁の大台が定着しつつあります。さらに注目すべき傾向は、正規雇用が比較的安定している一方で、非正規雇用は大幅な削減が進んでいるということです。経済的に弱い人々にしわ寄せが偏るという結末になっているわけです。

 私は政府の念頭にある「5%引き上げ」ですら懸念を示しているところですので、立憲民主党の公約では地方を中心に経済は3年で壊滅的な打撃を受けることになるのではないでしょうか。その時に失業に陥るのは、低賃金だからこそ仕事がある人々、専門的なスキルを持たない人々です。結局のところ、最低賃金の無謀な引き上げは経済的に弱い人々をますます苦しい立場に追いやってしまうのです。そういった意味では、韓国の大失敗を見て見ぬふりをするわけにはいかないでしょう。

政治家の方々には、もっと経済を勉強してほしい

 政治家の方々には、「もっと経済を勉強しなさい」と声を大にして言いたいところです。日本の生産性を引き上げなければならないという意見に、私も異存はありません。そのためには、政官界と産業界が一致協力して英知を結集し、成長戦略を様々な分野で実行していくことが求められています。しかし、今の日本を見ていてつくづく不安なところは、日本でいちばん生産性が低いのは政治家ではないかと随所で感じさせられるということです。

 国会議員に求められる最低限の素養は、一般の人々よりも教養や知識、地頭力を持っているということです。そして、そのうえに求められるのが、国民のために一生懸命になって働くという姿勢です。国民の立場からすれば、最低限の素養がない議員に国の仕組みづくりなど任せられるはずがないですし、怠惰な議員に報酬を支払い続けるのは税金の無駄遣いにほかならないからです。

 私が一人の国民として議員の方々にお願いしたいのは、「もっと勉強をしてほしい」「もっと仕事に真摯に取り組んでほしい」ということです。もちろん、日々研鑽を積んでいる議員がいることも承知しておりますが、全体としてはあまりにレベルが低すぎると言わざるをえないのです。この際ですから、政治家の質を向上するために、選挙に立候補するための試験制度を導入したらいかがでしょう。それができないようであれば、国からの独立性を保った政治家の評価機関をつくるしかないのではないでしょうか。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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