一力遼八段(23)が悲願の初タイトル「碁聖」を獲得した。

井山裕太三冠を追う次世代の筆頭と目され、これまで5度タイトルに挑戦してきたが、ことごとく井山三冠に跳ね返されてきた。

苦しい時期に涙したこともあったという一力新碁聖。きょう、涙に暮れたのは、一力碁聖だけではなかった

一力碁聖は、会社員との二足のわらじを履く異色の棋士でもある。河北新報社の創業家である一力雅彦社長のひとり息子で、今年3月早稲田大学を卒業し、同社に4月入社し新聞記者の肩書きを持つ。

今回獲得した「碁聖」は新聞囲碁連盟主催で、河北新報は加盟紙。主催紙の記者が自社棋戦のタイトルホルダーになったのも、もちろん初めてだ。また、大学を卒業した棋士が七大タイトルを獲得したのは、坂井秀至八段(京都大学医学部卒)以来2人目。

将棋では18歳の藤井聡太棋聖、囲碁では20歳の芝野虎丸三冠(名人、王座、十段)と、年下がタイトルを獲り、「そろそろ結果を出さないと」と刺激を受けてきた。

最も原動力になったのは、同じ年の許家元八段が2年前、井山裕太三冠からストレートで碁聖を奪ったことだった。

真面目な一力碁聖は、碁にも学業にも手を抜かないので、大学時代は忙しかった。とくに挑戦手合と試験の日程が重なったときのやりくりに苦労したという。

卒業し、4月からは囲碁に集中する時間が取れたことでいい状態になり、ここまで持続できた。

思い入れのある碁聖を獲得できて、「とにかくほっとしました」と一力碁聖。

子どもの頃から通った道場の師範、洪清泉四段は「遼、頑張りましたね。長い間、心労が多かったので、ほっとしていると思います。これを機にさらに頑張るでしょう」とエールを送った。

記者会見では、5歳のときから世話になっている師匠の宋光復九段について、「小さい頃からお世話になって。いつも自分のタイトル戦では見に来て下さっていました。今回、少し恩返しすることができたかと……」。

宋九段は一力碁聖とのツーショットでの撮影中、涙がこらえきれなくなった

師匠・宋光復九段の涙にこらえきれず涙を拭く一力遼碁聖。宋光復門下としても初めてのタイトルホルダー誕生となった。=2020年8月14日、筆者撮影
師匠・宋光復九段の涙にこらえきれず涙を拭く一力遼碁聖。宋光復門下としても初めてのタイトルホルダー誕生となった。=2020年8月14日、筆者撮影

一力碁聖が井山三冠に勝てず苦しんでいたときのことが思い出されたのだろうか。

もっと早くタイトルを獲ってくれると思っていましたので、ここまで長かった。20歳までに七大タイトルを獲りますよといって親御さんから預かりましたので、つらかったです。私も思いが強すぎました。これですっと楽になりました」という宋九段は、インタビューが進むにつれ、また涙に暮れた。

一力碁聖は、小学生低学年のころくらいまで、碁に負けるとよく泣いていたという。

初タイトルを獲得したきょうは、師匠の涙を見て、こらえきれずもらい泣きとなった。

このタイトル獲得がスタートだと思うので、これから一局一局丁寧に戦って、他のタイトルもこの勢いで獲って行きたい」と抱負を語った。