史上最年少最速で「三冠」達成 芝野虎丸名人(20歳)快進撃の背景

十段を獲得した芝野虎丸名人(左)。右は村川大介九段=2020年6月26日筆者撮影

芝野虎丸名人・王座が、「十段」も奪取し、史上最年少最速で三冠となった。

井山裕太三冠(棋聖、本因坊、天元)が持つ最年少記録「23歳1カ月」を大幅に更新し、20歳7カ月、プロ入り5年9カ月での達成は快挙といっていいだろう。

しかし、今シリーズ、芝野名人はいつになく苦しんでいた。

強さを見せつけ、昨秋二冠となった

昨年秋、史上最年少の19歳で名人を獲得し、勢いそのまま、井山棋聖から王座も奪う。

芝野名人はその強さをいかんなく見せつけた。

芝野名人の快進撃は続き、今年1月には井山棋聖を決勝で破って、村川大介十段への挑戦者となる。

3月に始まった十段戦は第2局まで進み、1勝1敗。

本因坊戦の挑戦者に名乗りを上げたところで、新型コロナウイルス禍で中断。全棋士自粛生活が始まった。

芝野名人はもともとインドア派だったので、週に1、2回あった公式戦がなくなっただけで、1日中インターネットで碁を打ち、運動は「リングフィット」を1日30分ほどという、ふだんとほぼ変わらない生活を送ったという。

運の強さを見せつけて三冠に

6月になって対局再開されたときには、すでに芝野名人は変調を感じていたようだ。インターネットでの対局で、思うような碁が打ててなかったという。

そんな調子のまま、まず本因坊戦が始まり2連敗スタートとなってしまう。

並行して十段戦が再開。

第3局は村川十段が大優勢を築く。そして勝負を決めに行ったところに生じたスキを衝いて、芝野名人は逆転で勝利した。

第4局は芝野名人に見損じがあり、必敗の形勢になる。けれども村川十段が一手パスのようなミスを犯し、そこから精神的にも崩れたのだろう。芝野名人がまたもや逆転勝ちをおさめ、「十段」も手中に収めた。

調子が悪いときでも結果が出せた。

芝野名人、このシリーズは運の強さを見せつけた格好になった。

以前とは違う状況

一流棋士では珍しいミスを両者とも重ねた。ふつうではない状況はどうして起きたのだろう。

一因として考えられるのが、対局再開後、義務づけられているのが、対局中のマスク着用だ。

「条件は同じだから」と、対局者は決して口にしないが、棋士たちの間では、「マスクしての対局は苦しいから、パフォーマンスが落ちているのでは」とささやかれている。

個人差はあるだろうが、村川九段も芝野名人も、マスクはつらそうだ。

碁界の勢力図

芝野名人が三冠となり、井山三冠にタイトル数で並んだ。

こうなると、俄然、現在進行形の本因坊戦が注目となる。

芝野名人が勝って四冠となると、井山棋聖は二冠に後退する。

現在は井山本因坊が3連勝で、防衛まであと1勝としている。注目の第4局は6月30日、7月1日の両日に打たれる。

なお、井山、芝野両氏が持っていない残りの七大タイトル「碁聖」は現在、羽根直樹さんが持っていて、6月29日には、張栩九段と一力遼八段で挑戦者決定戦がある。芝野名人、井山棋聖ともに、挑戦者決定トーナメントですでに敗退している。

最初に「三冠達成」と記したが、「三冠」の「達成」はちょっとしっくりいかない感があった。芝野名人にとって、「三冠」は途中経過に違いない。

四冠に向かってさらに歩みを止めずに進んでいくだろう。

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「NHK囲碁講座」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。棋士の世界や囲碁の魅力を発信し続けている。著書に『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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