囲碁界の大転換期になるか 井山裕太四冠試練の年末

インタビューにこたえる井山裕太四冠=2019年8月、筆者撮影

20歳(当時最年少)で名人を獲得してから10年。七大タイトル独占を2度も達成した囲碁界の絶対王者・井山裕太四冠がふたつのタイトル戦でカド番(あと1敗で失冠)に追い込まれている。挑戦者は20歳の芝野虎丸名人(王座戦)と21歳の許家元八段(天元戦)のふたり。ここで井山裕太一強時代が終わり群雄割拠の時代に突入するのか。井山一強時代が続くのか。運命の年末を迎えている。

七大タイトル、挑戦手合の年間スケジュール

年明けに棋聖戦が開幕し、3、4月が十段戦。5月から本因坊戦が始まり、7、8月が碁聖戦。8月末から名人戦と、ここまではほとんど重なることがないのだが、名人戦の終盤、10月末から天元戦と王座戦がダブルで始まる。

天元戦、王座戦の両方に出場するとスケジュールがきつくなるのは必至だ。

また、名人戦七番勝負が6、7局までもつれると、天元戦、王座戦とのトリプルで戦うことになり、疲労度はさらに増す。

この状況を長年、井山四冠は戦い続けてきているのだ。

2014年、前人未到の六冠を達成し、井山四冠は七冠を目指していた。

ところが、12月末に天元戦、王座戦をたった数日の間に立て続けに失い、四冠まで後退してしまったのだ。井山四冠にとって、悪夢の数日だったことだろう。

しかし25歳だった井山四冠は翌年から復調する。タイトルを次々奪還し、2016年4月に、最後に残ったタイトル「十段」を獲得し七冠保持の大記録を達成したのだった。

井山四冠は不調ではない

2018年に碁聖を許家元八段に、名人を張栩九段に奪われ、五冠に後退していたところ、2019年春には村川大介九段に十段も獲られ、さらに、奪われた碁聖、名人でも挑戦者にもなれず現在、井山裕太は四冠となっている。

今年は名人戦挑戦手合に出場していないので、スケジュール的にはまだましなのだが、以前とは大きく違うことがある。

30歳を迎えた井山裕太四冠にとって、10歳ほど年下の挑戦者とダブルで戦っていることだ。

10月にあった「女流棋士フォトブック大感謝祭」で、たまたま見に立ち寄った芝野名人、許家元八段が壇上に上がって挨拶する嬉しいハプニングがあった。

「虎丸先生に頑張ってもらい、協力して頑張りたい」と許家元八段がいうと、芝野名人も「許家元先生と協力して、井山先生に疲れてもらって……」と茶目っ気たっぷりにスピーチし、会場の笑いを誘った。

そのセリフが、現在、現実のものになりそうになっているのだ。

碁聖戦も名人戦も挑戦者になれず、不調がささやかれていた井山四冠。名人戦挑戦手合の最中はインターネットで中国や韓国の世界ランカーと次々対戦し、連勝するなど調子を上げている。

さらに、挑戦手合の合間の11月26日に韓国に飛び、国別対抗勝ち抜き戦で日本の大将で出場。7人抜きをしていた中国の楊鼎新九段を完勝で破った

調子は決して悪くない

芝野名人との王座戦も、AIの判定でも両者互角が終盤まで続く接戦が続いている。

運命の王座戦第4局は11月29日。井山四冠が勝てば12月12日の最終局にもつれる。

また、天元戦第4局は12月9日、第5局は12月18日に予定されている。

年末、囲碁界の勢力図がどうなっているだろうか。

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「NHK囲碁講座」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等に出演。棋士の世界や囲碁の魅力を発信し続けている。著書に「井山裕太の碁 強くなる考え方」(池田書店)、「それも一局 弟子たちが語る『木谷道場』のおしえ」(水曜社)、「囲碁の人ってどんなヒト?」(マイナビ出版)。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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