囲碁界の一番熱い日 井山裕太四冠の名人挑戦消える 名人戦挑戦者決定リーグ最終一斉対局

名人戦挑戦手合に臨む井山裕太四冠=2016年10月熱海市にて/筆者撮影

挑戦権争いに残った3人の横顔

囲碁名人戦の挑戦者を決める「名人戦挑戦者決定リーグ」(朝日新聞社主催)の最終一斉対局が8月1日に打たれた。

リーグに在籍するのは9人。張栩名人への挑戦権を目指して、総当たり戦リーグを昨年12月から9ヵ月戦ってきた。

最終戦に臨む時点で、挑戦者になる可能性があるのは、リーグ序列順に井山裕太四冠(30)、芝野虎丸七段(19)、河野臨九段(38)の3人。

井山四冠は昨年、名人のタイトルを失っており、奪還を目標にしていたが、今期リーグは出だしで1勝2敗と出遅れた。そのあと勝ち星を重ね、前ラウンドで河野九段に勝って最終戦に望みをつなげた。7月20日には25歳の一般女性との再婚を発表し、公私ともに充実している。

芝野七段は「ポスト井山」のひとり。国際戦で世界ナンバーワンの柯潔九段(中国)に勝って優勝するなど、次世代を担う若手だ。

19歳で名人を獲れば、史上初の十代名人となる。ちなみにこれまでの最年少記録は、井山四冠が名人を獲得した20歳。

芝野七段は人気も急上昇で、昨年、トークショーも開催された。

河野九段は本因坊戦の挑戦者にもなるなど今年、好調をキープしている。今期リーグも首位を走っていた。棋聖戦や名人戦の挑戦者になったことはあるが、三大タイトルにはまだ手が届いていない。詰碁作家としても有名。研究熱心な棋士だ。

熱く長い1日がスタート

持ち時間は各5時間。井山四冠は大阪の日本棋院関西総本部で、芝野七段と河野九段は東京の日本棋院本院にて午前10時に開始された。

5時間ほどが経過した時点の戦況は、井山四冠が有利、芝野七段と河野九段は苦戦と見られていた。

芝野七段の相手は、リーグ戦初参加の鈴木伸二七段(28)。芝野七段は鈴木七段に過去3戦3敗とまだ1勝もできず、苦手にしている。ちなみに、鈴木七段は、張栩名人に1勝0敗、井山四冠にも3勝1敗と勝ち越しており、井山四冠本人も「苦手」という大物キラーだ。

僅差ながら鈴木七段有利という状況。

午後6時半すぎ、芝野七段が勝負手を放つ。難しい判断を迫られた鈴木七段の読みにうっかりがあり、逆転。午後8時56分に芝野七段が勝ち名乗りをあげ、最低でもプレーオフ進出の権利をつかんだ。

そのころ、大阪では盤上いたるところで戦い続けていた井山四冠の旗色が悪くなっていた。検討陣からも「やりすぎか」との声があがる。ふつう、優勢のほうは紛れないようにするのがセオリーといわれているのだが、井山四冠は違う。「形勢がよくても行けると思えば最強で戦う」というのが信条。手堅く打っていくと差が縮まっていってしまうのが怖い。最強に戦うことこそが勝利に近づくというのだ。しかしそれが裏目に出たのかも知れない。

午後9時41分、井山四冠が投了。張栩名人とのリターンマッチはなくなった。

最後に残った河野九段。

井山四冠の敗戦はもちろん、芝野七段の勝利も、盤上に集中する河野九段は全く知らない。

井山四冠が投了したころ、河野九段は大逆転の糸口をつかんでいた。300手を越す大熱戦を制し、午後10時45分に勝利する。

終局後すぐから午前1時くらいまで局後の検討を続けたため、河野九段が自身のプレーオフ進出を知ったのは、日付けが変わってからだった。

これで、挑戦権の行方は芝野七段と河野九段のプレーオフによって決まることになった。

大注目の一戦は8月8日に打たれる。

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。著書に『井山裕太の碁 AI時代の新しい定石』(池田書店)『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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