「W杯ベスト8」を目指すジャパンに、快勝した南アが見せつけた「差」とは何か?

ボールを奪い合う松島幸太朗とマカゾレ・マピンピ。魅力的なマッチアップだった。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

前半にプラン通りの3トライを奪った南アの「実行力」

 W杯開幕を飾るロシア戦まであと2週間というタイミングで、ジャパンが南アフリカに7―41と完敗した。

 この試合で果たして、目標とする「W杯ベスト8」に向けた収穫はあったのか?

 「あった」と答えるのは難しい。

 トライ数はジャパンが1つで、南アは6。

 ジャパンのトライは、0―27と大きくリードされた後半20分に、相手がミスしたボールを奪い、そこから短くつないで松島幸太朗が独走したもの。それこそジェイミー・ジョセフHCが言い続けてきた「アンストラクチャーな状況」からのトライだったが、決して意図的な仕掛けで崩したものではなかった。

 対照的に南アは、前半にプラン通りのトライを3つ奪っている。

 ゲームプランの実行力という点で、両者の差があった。

 南アが前半7分に挙げた先制トライは、ジャパンのゴール前に攻め込んだスクラムからバックスが仕掛けたものだ。

 SOハンドレ・ポラードの長く鋭いパスにCTBルカニョ・アムが遠い位置からトップスピードで斜めに走り込み、FWの近場でラック。そこから早くボールを出して、もう一度同じような角度でFBウィリー・ルルーが走り込む。

 アムもルルーも身長186センチ。体重は90キロ台だ。つまり、大型のスピードランナーを2回続けて遠くから近場に走り込ませてクサビを打ち込み、ジャパンをフィールド中央に釘付けにしてから、外側にWTBチェスリン・コルベを走らせた。

 まさに練習通りのトライだった。

 22分に挙げた2つめのトライは、田村優が風下の自陣から上げたハイパントを、ルルーが風に戻されるボールの軌道を計算したようにトップスピードで走り込み、松島幸太朗に競り勝ってボールを確保。そのまま外側にサポートしたWTBマカゾレ・マピンピが、ゴールラインまで駆け抜けた。ハイボールキャッチに絶対の自信を持つ南アが、自分たちの強みを発揮したトライだった。

 このトライが生まれる前から、南アは、自分たちが蹴り上げたハイパントだけではなく、ジャパンが蹴ったハイパントに対しても、両WTBがものすごいスピードで走り込んでボールを確保していた。このスピードと正確な目測は、今年に入ってジャパンが戦ったフィジー、トンガ、アメリカにはなかったもの。いわば、世界トップクラスのキックチェイスだ。

 言い換えれば、これが「W杯ベスト8以上」のレベルだった。

ジャパンが学ぶべきFWのゲームコントロール

 ゲームのマネジメントでも、南アに一日の長があった。

 31分には、ジャパン陣内でスクラムを押し込んで反則を誘い、アドバンテージを利用して大胆に展開。ポラードが長いパスをルルーに通して、最後はマピンピがトライに仕上げた。

 起点となったスクラムで、南アFWは、時間的にも地域的にもジャパンから反則を誘う意図を持っていたように見えた。そうすれば、ペナルティキックを起点にラインアウトからモールで攻めることが可能になるし、最悪でもPGで3点を加点できる。これが、FWが考えるゲームコントロールだ。

 実際には、スクラムを押し込んだ結果、ジャパンのFWが体勢を崩してカバーディフェンスが無力化された。しかも、アドバンテージが出ている。そうした状況を読み込んで、今度は司令塔のポラードが大外への展開を選択した。リスクを冒して失敗したとしても、ペナルティがあった地点に戻ってPGを選択できるからだ。

 この地域でこの時間帯に打てる最善手は何かを、チーム全体で共有して生んだトライだった。

 対照的に、ジャパンはその直後にゲームマネジメントをしくじった。

 33分に、自陣ゴール前に攻め込まれての南アボールのラインアウト。試合前のウォーミングアップのときに、南アは先発組と控え組がガチンコでラインアウトモールの攻防を練習するほど気合いが入っていた。当然ここはモールを組んでトライを狙いにきた。

 それをジャパンが反則せずに守り切り、トライを許さずにパイルアップに持ち込んで、マイボールのスクラムに逃れた。これはこの試合の収穫だ。

 しかも、タッチキックで22メートルラインまで地域を戻したあとのラインアウトでは、南アがこの試合で初めてミスを犯して、ふたたびジャパンのスクラムとなる。

 こうしたいい流れをつかみかけたときに、自陣でNO8アマナキ・レレイ・マフィが、南アが持ち込んだラックからターンオーバーを狙ってボールを拾い上げた。ペナルティかどうか判断が分かれるような微妙なプレーだが、ニック・ベリー・レフェリーは反則にとってマフィをペナライズ。南アはPGの3点を追加して、スリーチャンスでも追いつかない22点差へとリードを広げた。

 マフィの果敢なチャレンジは責められるべきものではない。

 けれども、地域は自陣の10メートルラインと22メートルラインの中間辺りだ。

 リスクを冒した結果が裏目に出れば、たちまち3失点に結びつく。

 それを考えながら、相手ボールを奪いに行くのか、それとも我慢して次のディフェンスに備えるのか判断するのが、FWにできるゲームコントロールだ。たとえばスコアが25―0とジャパンがリードしているのであれば、このチャレンジは全然悪くない。でも、0―19の状況で、自陣でチャレンジする必要があったのかどうか――こうした細かい判断を統一することが、ベスト8への距離を縮める大切な一歩となる。

 ベストメンバーを組んでジャパン相手に本気で挑んできた世界有数の強豪との貴重な試合の機会だからこそ、こうした細かい判断の正誤をチームで総括することが重要なのだ。

「仕留め」に課題を残したジャパン

 ジャパンのアタックはどうだったのか。

 こちらは、開始早々に福岡堅樹が右足を痛めてアタアタ・モエアキオラと交代したことが大きく響いた。

 福岡は、右WTBを務める松島とともに、フィニッシャーであると同時に大事なチャンスメーカーだ。この2人が、バックスラインの両翼という定位置を離れて常にラインの背後から相手防御の隙を窺うことで、相手はジャパンの誰をマークすればいいのか迷う。その迷いや、ディフェンスに出る際の少しの遅れが、ジャパンのアタックバリエーションを飛躍的に増やした。

 7月27日に釜石で行なわれたフィジー戦以降、ジャパンが気持ち良く白星を重ねられたのも、この2人に負うところが多い。

 けれども、両翼が1人欠けると、南ア防御に与える脅威が薄れた。

 交代で入ったモエアキオラは、身体のサイズとスピードは申し分ないが、福岡や松島が担ってきた自在なアタッカーとしての役割には、まだ不慣れ。しかも、心の準備をする間もなく、いきなり出番が回ってきた。これでは力を発揮するのは難しい。

 南アのバックスが、大外にボールを運ばれるリスクを覚悟してジャパンのパスコースに圧力をかけるように勢いよく狙いを定めて飛び出してきたために、ジャパンのバックスは、テンポ良くパスを回すことができず、外側までボールが回らない。何とかモエアキオラまでボールを回しても、そのときには南アのバックスがモエアキオラを取り囲んでいるような状態だった。

 それでも、前半16分過ぎと、後半10分辺りに、試合の行方を左右するようなトライチャンスは作り出した。

 前半のチャンスは、何とか大外までボールを回して、リーチ・マイケルがブレイク。ラックで南アの反則を誘うと、茂野海人が素早く仕掛けて攻撃を継続。一度はボールを奪われたが、トンプソン・ルークがポラードのキックをチャージしてつかんだものだ。

 けれども、フェイズを重ねたラックで南アにジャッカルされて、反則を取られた。

 後半のチャンスも結末は同様だった。

 こちらは、5メートルスクラムのチャンスに、スクラムを押し込まれたことを逆手にとって茂野がサイドアタック。そこから14フェイズ密集戦を重ねて南アを攻め立てたが、最後に南アのキャプテン、FLシヤ・コリシにジャッカルされてチャンスが潰えた。

 これが、実質的な勝負の分かれ目だった。

 直後のラインアウトでも反則を犯したジャパンは自陣に攻め込まれ、13分にマピンピに3つめのトライを奪われた。

 これでスコアは27点差。

 そのあとに松島のトライが生まれたわけだが、終盤にジャパンが積極的にボールを回し、フィットネスが落ちて圧力が弱まった南ア防御を何度も大きく突破してチャンスを作ったものの、いずれも得点には結びつけられなかった。しかも、4年前にエディー・ジョーンズが固く禁じた飛ばしパスをインターセプトされてトライを追加されるなど、アタックは結果を残せなかった。

 福岡のリタイアがあったとはいえ、世界トップクラスを相手にしたときの「仕留め」に課題を残したのだ。

救いは「負けた試合から得るものはたくさんある」というリーチの言葉

 それでも、最初の問いに戻れば、収穫が「あった」とまでは言い切れないが、「なかった」わけでもない。

 前述のモール防御はその1つだし、鍛え込んだフィジカルがW杯ベスト8レベルに近づいたようにも見えた。

 しかし、対等に戦うことと、相手に勝つことの間には、越えるのが難しい壁が横たわっている。

 それが、試合を左右するような局面で2回続けて犯したペナルティであり、ゴール前まで攻め込みながらトライを奪えなかった詰めの甘さだった。

 けれども――キャプテンのリーチは試合直後にこう言った。

「望んだ結果ではないが、負けた試合から得るものはたくさんある」

 そう。

 ここから学ばなければ、W杯ベスト8には届かない。

 それが明確になったのが、この南ア戦だった。