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未来のためにジョセフHCを解任しよう! 日本ラグビーは広島カープ初優勝に学べ!~前編~

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
必死のタックルで食らいつく堀江翔太。選手たちの献身は本当に生かされているのか?(写真:アフロスポーツ)

W杯開幕まであと18か月を切ったのに、なぜ一向に結果が出ないのか?

 サンウルブズがチーフスに惨敗した。

 前節のライオンズ戦で2点差の健闘に期待を抱いて秩父宮ラグビー場を訪れたファンは、またもや肩すかしを食らって帰路についた。

 松島幸太朗やウィリアム・トゥポウの負傷があって急遽メンバーが替わるアクシデントもあったが、開幕から1か月経っても一向にメンバーは固定されず、サンウルブズ本来の役割とされている「19年W杯に向けた日本代表強化」への道筋も見えないままだ。「19年ラグビーW杯日本大会」という言葉は、ずっと遠い将来のように聞こえていたが、数えればもう、対戦相手がルーマニアに決まった開幕戦まで18か月を切っている。

 W杯で同組に入るアイルランドが北半球のシックスネーションズでグランドスラム(完全優勝)を果たし、スコットランドもエディー・ジョーンズ率いる昨年の王者イングランドをホームのエディンバラで破り、これまでの強化が実りつつある。

 日本のラグビー界がこぞって期待する「W杯ベスト8」の目標を達成するためには、両チームのどちらかを倒さなければならないというのに、ヘッドコーチ(HC)のジェイミー・ジョセフは新しい外国人選手を発掘することをサンウルブズの役割としか考えていないような采配を続けている。もちろんケガ人が多いなどの事情はあるが、前回のサンウルブズの「青山ラグビーパーク」構想に水をかけたジョセフHCのメンバー選択』に書いた通り、ホームグラウンドのファンの気持ちをくみ取ろうともしていない。

コロコロ替わるメンバーで強化は進むのか?

 ラグビーの面から考えても、この人がHCに就任して以来、サンウルブズのみならず日本代表もまたコロコロとメンバーが替わり、一向にチームが熟成する気配はない。たとえば日本代表でアタックを司るバックスの10番12番13番に、ジョセフが誰を起用したか列記すれば、以下のようになる(ただし、アジアラグビーチャンピオンシップは除く)。

対アルゼンチン(16年11月5日 20―54●)

10田村優 12立川理道 13アマナキ・ロトアヘア

対ジョージア(11月12日 28―22○)

10田村 12立川 13ラファエレ・ティモシー

対ウェールズ(11月19日 30―33●)

10田村 12立川 13ラファエレ

対フィジー(11月26日 25―38●)

10田村 12立川 13ラファエレ

対ルーマニア(17年6月10日 33―21○)

10小倉順平 12デレック・カーペンター 13ラファエレ

対アイルランド第1テスト(6月17日 22―50●)

10田村 12カーペンター 13ウィリアム・トゥポウ

対アイルランド第2テスト(6月24日 13―35●)

10小倉 12田村 13松島幸太朗

対世界選抜(10月28日 27―47●)

10田村 12中村亮土 13シオネ・テアウパ

対オーストラリア(11月4日 30―63●)

10松田力也 12立川 13ラファエレ

対トンガ(11月19日 39―6○)

10田村 12立川 13ラファエレ

対フランス(11月26日 23―23△)

10田村 12立川 13ラファエレ

 この間11試合を戦って戦績は3勝7敗1引き分けだ。

 強豪ウェールズを相手に、アウェーで3点差に食い下がった試合もあったが、それを含めてジョセフが10番田村、12番立川、13番ラファエレという組み合わせをファースト・チョイスにしていることはなんとなく伝わってくる。しかし、日本国内で行なわれたアルゼンチン戦、ルーマニア戦、アイルランド戦、世界選抜戦、オーストラリア戦は、すべて3人の組み合わせが違っている。

 ホームのファンの前でベストメンバーを組んで持てる限りの力を出すという戦い方より、戦いやすいホームの試合は新しいメンバーをテストする場、と位置づけているような采配だ。当然結果が伴うはずもなく、この間の3勝1引き分けも、ウェールズ相手の善戦も、すべてアウェーでの試合だった。

 15年W杯での活躍でラグビーが一躍脚光を浴びたアドバンテージが結局生かされないまま、未だに19年に向けたラグビーのプロモーションがラグビー界の大きな課題となっているにもかかわらず、肝心の代表HCがファンの期待に背き続けている。

 おまけに、W杯に向けて日本代表メンバーを中心に招集して強化を兼ねる予定だったサンウルブズでは、さらに頻繁にメンバーを替えて混乱と戸惑いを増幅している。

 今年のスーパーラグビー最初の5試合の10番、12番、13番は以下の通りだ。

対ブランビーズ(18年2月24日 25―32●)

10ロビー・ロビンソン 12中村亮土 13ラファエレ

対レベルズ(3月3日 17―37●)

10ヘイデン・パーカー 12中村 13ラファエレ

対シャークス(3月10日 22―50●)

10立川 12マイケル・リトル 13テアウパ

対ライオンズ(3月17日 38―40●)

10立川 12リトル 13トゥポウ

対チーフス(3月24日 10―61●)

10田村 12リトル 13ラファエレ

 田村が負傷で出遅れたり、ラファエレが脳しんとうの影響で欠場したりと、メンバーを固定できない理由もあるが、今後のスケジュールを見ながら半ばローテーションのように選手に休養を与え、ごくごく普通にスーパーラグビーを戦っている。そこには、18か月後に迫ったW杯に向けてリスクを覚悟で日本代表メンバーを中心に戦うという決意も見られなければ、どういうチームを作り上げて世界に挑むかといった哲学も感じられない。むしろ、今季のサンウルブズから受ける印象は、単純に強い外国人選手を並べて強豪に対抗しようという発想だけで、日本のラグビー文化が育んだパスで抜くという発想がほとんど感じられない。

 これでは、どこまで日本代表の強化に結びつくのか疑問は膨らむばかりだ。

小さな日本人が活躍できるラグビーでなければ「夢」は生まれない!

 そんな折にインスピレーションをかき立ててくれるようなニュースが立て続けに入ってきた。

 ピョンチャン五輪のスケート女子団体パシュートの強化方針もそうだが、新鮮だったのはテニスで大坂なおみが新しいコーチのもとで快進撃を続けていることだった。

 おまけにシックスネーションズでも、日本と引き分けたときのHCを解任したフランスが、新しいコーチのもとでイングランドを破るなど、劇的に低迷を脱出した。

「なんだ、コーチが良ければ結果はすぐに出るんだ!」と目から鱗が落ちた。

 もちろん、個々の才能に恵まれたフランスと日本では事情が違うし、他競技の例が参考になるわけではない。しかし、サンウルブズの試合を見ればわかるように、現時点で日本代表候補にリストアップされている選手たちの才能レベルは、悲観するほど低くない。むしろ、上手く素材を組み合わせ、個々の力をチームに統合することでプラスアルファを生み出せば、18か月あれば何とかなるのではないか――そんな期待だって持てる。

 つまり、今の日本ラグビーは、良い素材を集めながら凡庸な料理しか作れないシェフを、専属料理人として雇い続けているようなものだ。

 だったらシェフを替えれば上手くいくのではないか。

 そして、18か月という時間は、HCを更迭してチームを建て直すのに本当にギリギリ間に合うかどうかという際どい時間だ。

 しかし、このまま今のHCに権限を与え続けても、チームが劇的に強くなる保証はない。物事が劇的に改善することもなく、でも、たまにはそこそこ成果も出て、判断がつきかねるような中途半端な状態は、結局のところ決断が先延ばしされる分だけW杯への強化を遅らせる。

 それでは19年に目標のベスト8達成はおぼつかないし、HC好みの強い外国人選手を並べるラグビーでは、小柄な体型に生まれたこの国の子どもたちに「ラグビー日本代表になりたい!」という夢を持たせることもかなわない。その先に待つのは、今以上にマイナー競技に転落していく、ラグビーの暗い未来でしかない。

 こんな“ドツボ”を脱する妙手はないものか。

 そう悩んでいたときに見たのが、NHK-BSプレミアムで27日に放送された『アナザーストーリーズ 運命の分岐点▽広島カープの奇跡~弱小球団 30年目の革命』という番組だった。

 球団創設以来ずっと下位に低迷していた広島は、なぜ75年に歓喜の初優勝にたどり着けたのか。その過程をたどった番組は、ラグビーへのヒントを満載していた。

 これを見て確信した。

 ジェイミー・ジョセフを一刻も早く解任し、日本ラグビーは新しいコーチのもとで再出発するべきだ。それが、ラグビーの明日を明るくする唯一の方策なのである。

 ――この項、明日の後編に続く――

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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