サンウルブズの「青山ラグビーパーク」構想に水をかけたジョセフHCのメンバー選択

レベルズ戦終了後の田中史朗。ファンから愛されることの大切さを知る1人だ(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

サンウルブズがヤバイ!

といっても、ラグビーの話ではなく、観客動員の話だ。

世界最高峰のリーグ戦であるスーパーラグビーに参入して今季で3年目。昨年18チームで行なわれていた大会が15チームへと縮小された際には、2019年に日本でラグビーW杯が開催されることが主な理由となってなんとか削減対象を免れた。

今季は「トップ5」を目指して大幅に選手を補強。チームを強化して開幕に臨むと同時に、横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏をCBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)に招聘。秩父宮ラグビー場を「ホームグラウンド」と位置づける「青山ラグビーパーク」構想を打ち出して、観客動員増に向けて施策を打った。

しかし、2月24日にオーストラリアの強豪ブランビーズを相手に行なわれた開幕戦の観客数は、前年の開幕戦(対ハリケーンズ=1万7千553人)を3千人近く下回る1万4千614人。3日に行なわれたレベルズ戦もさらに減って1万1千181人と、秩父宮開催のスーパーラグビーで過去最低を記録した。メインスタンドの記者席から見ると、開幕戦はそれなりに観客が入った印象だったが、3日は明らかにバックスタンドに空席が目立っていた。

開幕戦はピョンチャン五輪と時期が重なり、冬季五輪で過去最高のメダルを獲得した日本選手団の活躍にスポーツファンの関心が移った影響を受けたと考えられなくもないが、レベルズ戦は五輪も終わり、スポーツイベントがポッカリ空白となったタイミングだった。

サンウルブズのパフォーマンスも、開幕戦ではブランビーズに食い下がり、敗れたとはいえ3シーズン目で初めて開幕戦で7点差以内負けの勝ち点を獲得。内容的に期待が持てた。

しかも、3日は気温が上がって観戦には絶好のコンディション。おまけに、日本代表のNO8アマナキ・レレイ・マフィがレベルズNO8として出場することになっていた。

それなのに、秩父宮の入場者数はこれまでのワースト記録だった。

“筒香のいないベイスターズ”みたいだった開幕戦のサンウルブズ

サンウルブズそのものから観客減少の要因を考察すれば、考えられるのは開幕戦に先発したメンバーの「なじみ薄さ」だろう。メンバーは以下のような顔ぶれだ。

1稲垣啓太、2堀江翔太、3具智元、4サム・ワイクス、5グラント・ハッティング、6姫野和樹、7ピーター・ラピース・ラブスカフニ、8ヴィリー・ブリッツ

9流大(キャプテン)、10ロビー・ロビンソン、11ホセア・サウマキ、12中村亮土、13ラファエレ・ティモシー、14レメキ・ロマノ・ラヴァ、15ジェイソン・エメリー

16ジャバ・ブレグバゼ、17クレイグ・ミラー、18ヴァル・アサエリ愛、19ジェームズ・ムーア、20エドワード・カーク、21田中史朗、22ヘイデン・パーカー、23シオネ・テアウパ

コアなラグビーファンならそれなりに期待が持てるメンバーだが、ライトなファンには漢字表記のメンバーとカタカナ表記の何人かを除いて、耳慣れない名前が並ぶ。

知人の“15年W杯でラグビーの面白さに目覚めたラグビーファン”は、開幕戦をテレビ観戦したそうだが、後日私にこう感想を述べた。

「用があってテレビから目を離したときに音声だけを聞いていたけど、アナウンサーが連呼する名前を聞いても、どちらが攻めているのかわからなかった」

「それは一個人の例に過ぎない!」と反論されそうだが、本当にそうなのか。

開幕戦のメンバーを知ったとき私が考えたのは、「これでは、池田CBOが球団社長時代にファンサービスを仕掛けた開幕戦に、筒香嘉智が出ないようなものではないか!」ということだった。

開幕戦に備えた練習を見たときには、リーチ・マイケルも、立川理道も、山田章仁も出場メンバーの相手役としてグラウンドで走っていた。もちろん、彼らのコンディションがベストではないからメンバーに入らなかったわけだし、田村優、真壁伸弥、福岡堅樹といった選手たちはピッチの外でリハビリメニューに取り組んでいた。だから、仕方がない――という見方もできる。

しかし、サンウルブズが池田CBOの就任会見を開いたのは昨年11月。それも、日本代表のフランス遠征中だった。

サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパンエスアールは、それ以前からブランディングに着手していたはずだし、18年度には日本代表ヘッドコーチ(HC)でもあるジェイミー・ジョセフがサンウルブズのHCを兼任することも決まっていた。

である以上、ホーム秩父宮で開催される開幕戦に日本代表メンバーを可能な限り出場させることは、彼らのプロモーションの「最初の一歩」となるべきだった。

HC自ら代表の「顔」と言える選手たちと個別に面談し、2月24日の開幕戦にコンディションをベストに整えるよう要請することだって可能だったはずだ。そうすれば開幕戦に集客を見込めるだけではなく、19年W杯に向けた強化の加速をファンに印象づけることもできた。

それでも負傷者やコンディションを崩す選手が続出して結果的に同じようなメンバーに落ち着く可能性は否定しないが、そのプロセスが報じられて「可視化」されていれば、ファンの反応は大きく違っただろう。

それに、このレベルの選手たちは、プロモーションのために「開幕戦にベストのコンディションで臨むように」と要請されれば、できる限り間に合わせただろう。彼ら自身が19年W杯に向けたプロモーションの重要性を深く理解しているからだ。

けれども、結果は「仏作って魂入れず」。

どんなに素敵な「ラグビーパーク」が用意されても、ライトなファンに「え、××は出ないの?」と言われれば、それは有料試合として成功を得がたい。

開幕戦、第2戦と続いた観客減は、そこに原因があったのである。

ジョセフHCは、メンバーを発表する際、記者たちに向かって「これまで不動のレギュラーと思われていた選手が出場しないのはサプライズかもしれないが」と切り出した。だが、こんなところでサプライズをやること自体、ジャパンエスアールの戦略とHCの思惑が一致していないことを露呈している。

ラグビーよりもピョンチャンのスケートがファンの心を打った?

そこに、ピョンチャン五輪での日本人選手たちの活躍だ。

特に、スピードスケート女子500メートルで金メダルを取った小平奈緒が、銀メダルに終わって涙に暮れるイ・サンファ(李相花)に寄り添い肩を抱いた場面は、ラグビー界がドヤ顔で語る「ノーサイドの精神」が決してラグビー特有のものではなく、他競技の優れたトップアスリートにも強く備わっていることを鮮烈にアピールした。

チームワークという点でも、同じスピードスケート女子団体パシュートで王国オランダを破って見事な金メダルを獲得した日本チームの方が、ラグビーファンにはサクセスストーリーとしてすんなり受け入れられる。オランダ人コーチ、ヨハン・デビットが年間300日に及ぶ合宿でチームを作り上げた方法論は、女子選手たちに「ドーナツ禁止」を課してウェイトコントロールを徹底するなど、選手たちに「ラーメン禁止令」を出して15年W杯で大活躍したラグビー日本代表を作り上げたエディー・ジョーンズの方法論を思い出させるからだ。

パシュートのストーリーを見聞きしたラグビーファンの多くが、「やっぱり日本人が世界で勝つというのは、こういうことだよな」と思ったのではないか。

翻ってサンウルブズを見れば、「こういうアプローチでなければ日本は勝てない」という物語性が希薄で、日本人選手に欠けている強さやサイズを工夫で補うのではなく、次から次へと外国人選手で埋めようとしているように見える。

しかし、ホーム試合で最低の観客数となったレベルズ戦でファンの興味を最後までつないだのは、途中から出場した立川理道や野口竜司のしなやかで柔らかい日本的テイスト満載のプレーだった。

こうした財産を活用せずに「ラグビーパーク」構想の成功はあり得ない。

ジャパンエスアールの首脳陣は、今こそHCと膝をつき合わせてじっくり話し合うべきだ。