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海外におけるコロナ対策違反飲食店の罰金事情――消費者も問われる責任

六辻彰二国際政治学者
イタリア、ローマのカフェ(2020.5.18)(写真:ロイター/アフロ)
  • ロックダウンや夜間外出禁止の措置がとられている国では、違反した飲食店に罰金、免許停止などの罰則が導入されている
  • その一方で、飲食業に限らず、サービスを提供する事業者だけでなく消費者にも罰則が盛り込まれている国が多い
  • 日本政府は時短要請などに違反した飲食店などに罰則を科すことを想定しているが、だとすれば消費者もその対象にしなければ、政府のいう「実効性を高める」効果は半減する

 何事にも程度があり、ここまで至れば個人の良識を尊重したコロナ対策に限界があると言わざるを得ない。

焦点としての罰則

 首都圏を中心にコロナ感染者が急増する状況を受け、特措法改正の議論が加速している。焦点の一つが、休業や営業時間短縮の要請に応じない飲食店など事業者への罰則を盛り込むかだ

 政府は対策の実効性を重視し、補償と罰則をセットで検討しているのに対して、立憲君主党や共産党からは「私権制限」への警戒と反発も強い。

 政府は罰金の徴収(過料)や店名公表といった罰則を想定しており、懲役といった刑事罰に関しては明らかでない。一方、野党でも国民民主党などからは、条件つきだが「罰則または懲役」の案が示されている。

 日本の場合、コロナ以前に緊急事態に対応する法整備がされていなかったことがこうした泥縄式の対応になったわけだが、それでは日本より厳しいロックダウンや夜間外出禁止が実施されている国では、どのような罰則が設けられているのか。以下で、主な国をあげてみていこう。

諸外国における罰則規定

 ほとんどの国の罰則は過料が基本だが、違反を繰り返すなど悪質な場合には、懲役や営業許可の停止などが導入されている国もある。

【アメリカ】

 感染が拡大するニューヨークでは、営業規制に違反した店舗に1万ドル(約103万円)の罰金が科されるが、これに基づいて12月初旬までに1,867店が摘発され、279店の酒類販売許可が停止された。

 もっとも、同じアメリカでも州ごとに事情は異なる。カリフォルニアでは経営者への「啓発」を優先させており、過料や営業許可の停止などは行われていない。

【イギリス】

 イギリスでは6日、3度目のロックダウンが発令されたが、それ以前から南部のイングランドで飲食店の営業が18時までしか認められておらず、これに違反すれば最大1万ポンド(約140万円)の罰金が科されていた。スコットランドやウェールズなど、他の地方では罰金がもう少し安い

【ドイツ】

 ドイツでも州ごとに対応は異なる。最初のロックダウン中の4月の段階で、例えばノルトライン・ヴェストファーレン州ではバーやディスコの営業違反に5,000ユーロ(約63万円)、カフェ、レストランなどの営業違反に4,000ユーロ(約50万円)など、細かく規定されていた。また、ベルリンではレストランなどの営業違反が1,000~10,000ユーロ(約13万~130万円)の過料の対象になった。

消費者も問われる

 ただし、注意すべきは、多くの国では、飲食業に限らず、事業者とともに消費者もルール違反は罰則の対象になっていることだ。

 イギリスで1月2日、イーストロンドンの飲食店で行われていた「パーティー」が摘発された際には、事業者に1万ポンドの罰金が科された一方、参加者たちに固定罰則通知(ポイントが貯まると行政罰の対象になる)が出された。罰則の重さに違いはあるが、ここでのポイントは「事業者だけでなく消費者の責任も問う」ということだ。

 同様に、ドイツでは最初のロックダウン中のノルトライン・ヴェストファーレン州で、テイクアウトの商品を店舗から半径50メートル以内で飲食した場合、一人200ユーロ(約2万5000円)の過料が発生した他、公共の場でのバーベキューなどに一人250ユーロ(約3万2000円)が科された。また、ブランデンブルクでは規制に反するイベントの主催者に500~2500ユーロ(約6万3000円~約31万円)の過料支払いが命じられたが、参加者にも50~500ユーロの過料が発生した。

 夜間外出禁止令が出ているフランスでは年末、「新年パーティー」に参加していた1,000人以上が逮捕された。フランスの法律によると、この場合の過料は一人135ユーロ(約1万7000円)だが、15日以内に同様のことがあれば200ユーロ(約2万5000円)に上がり、30日以内に3度目があれば3,750ユーロ(約47万円)の過料と6カ月以下の懲役が待っている。

 変異種が現れた南アフリカのヨハネスブルクでは、公共の場での飲食が1,500ランド(約1万円)の過料になる。

 シンガポールでは、家族以外と公共の場で5人以上集まれば一人3,000Sドル(約23万円)の過料になる。例えば昨年8月、リゾート地ラザロー島のビーチで「パーティー」をしていた12人の若者(このうち5人はイギリス人)がこの対象になった。シンガポールの法令によると、外国人の場合は滞在許可の取り消しもあり得る。

強い規制を招くのは誰か

 日本ではなぜか飲食店やパチンコ店がやり玉にあげられやすく、特措法改正でも事業者への罰則ばかりが議論されているようにみえる。

 しかし、「対策の実効性」を強調するなら、事業者への補償は大前提としても、罰則の対象にはサービスを提供する側だけでなくサービスを楽しむ側、あるいは公共の場でのマスク未着用に罰金が科されている多くの国のように、一人ひとりの日常生活も含めることが必要だろう

 緊急事態宣言が出された前後、「欧米のような厳しいロックダウンをしなくても、日本人は自らを律するので、要請だけでも大丈夫」といった意見があちこちで聞かれた。実際、多くの人はいろいろ我慢して、自発的にコロナ対策に協力している。

 とはいえ、箱根駅伝でも話題になったように、もはや「日本人は…」と一括りにはできない。個人的な話で恐縮だが、年末にかつての卒業生らとオンライン忘年会をした時、上司などから飲み会に誘われて困る、あるいは誘われないまでも上司などが日常的に飲み会を続けているらしい、といった話しがあちこちから出てきた。

 幸いというか筆者の卒業生はそういったことに加担しておらず、その点おおいに誇らしく思ったが、一方で「強制されていないから好きにする」という者の行動が結局は強い規制を招く、しかも多くの場合、当人たちがそれを理解しないことには辟易せざるを得なかった。

 あえて言えば、生活がかかっているわけでもないのに「ほころび」を大きくする者が感染しても自業自得かもしれない。しかし、医療現場への負担を含めて、その影響は真面目に協力している人にまで及ぶ。良識に頼る対策は、限界と言わざるを得ないだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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