世界に広がる土地買収【前編】―中国企業による農地買収を「乗りこなす」備え

シドニーのオペラハウスと春節の獅子舞(2018.2.18)(写真:ロイター/アフロ)

  • 中国による土地買収は世界に広がっているが、最近は特に農地買収が盛ん
  • これに対して各国で規制が強化されている
  • 日本での農地買収に関しては、その体系的なデータすらなく、現状把握が必要
  • ただし、中国企業の農地買収を警戒するだけでは生産的でない
  • 必要なことは、中国企業の力を用いながら日本の利益を増進する「活かす規制」

 2月22日、フランスのマクロン大統領は中国企業を念頭に、外国企業による農地の売買を規制する方針を発表。フランスでは2016年にアンドル県の1700ヘクタールの農地を、2017年には中部の穀物地帯アリエ県で900ヘクタールの農地を、それぞれ中国企業が買収していました。同様の方針は各国でみられ、日本でも北海道などで外国人の農地取得を規制する動きがみられます。

 日本では他国より外国人の土地所有が容易です。そのため、中国企業の進出を背景に、その規制強化を訴える意見が噴出することは、不思議ではありません。ただし、何の規制もなく外国企業が日本の土地を購入できる状況は改善するべきとしても、それは中国企業による農地買収をただ警戒することと同じではありません

中国の土地買収の状況

 まず、中国による土地買収の大枠をみていきます。

 中国の企業・個人による海外の土地の買収の目的は、会社や工場の設立から、個人の住居、転売目的の投資など多岐に渡ります。このうち(実際に居住するかどうかにかかわらず)宅地に関しては、海外不動産を扱う中国最大の斡旋サイト居外(Juwai)への問い合わせ件数順で、2017年段階では米国のものが最も多く、それにオーストラリア、タイ、カナダ、英国、ニュージーランド、ドイツ、日本、ベトナム、マレーシアが続きました。モルガンスタンレーの調査によると、2016年段階で売買が成立したロンドン中心部の商業地のうち、25パーセントは中国人が買収していました。

 ただし、同じ調査によると、中国から海外の住宅地、商業地への投資は2016年の106億ドルをピークに、2017年には17億ドルにまで激減。この背景には、中国当局が資本の流出に制限を加え始めたことがあるとみられます。

 中国政府は企業による海外での不動産投資に「禁止」、「抑制」、「推奨」の三つのカテゴリーを導入。このうち「禁止」にはカジノや軍事関連、「抑制」にはホテルや住宅開発、そして「推奨」には農業やインフラ整備が含まれます。

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 つまり、中国政府はマネーゲームともなる海外不動産の買収を制限しながらも、「実際の生産活動をともなう」土地の買収に関しては、むしろ熱心になっているといえます。実際、図で示すように、中国の海外投資に占める農業の割合は増加する傾向をみせています。そこには、いわゆる「食糧安全保障」や、米国など先進国の大企業が握る食糧の国際市場に割って入る目的があるとみられます。

オーストラリアの規制

 

 農地買収の対象にはアフリカや中南米の開発途上国だけでなく、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国なども含まれます。その結果、例えばオーストラリアでは2017年段階で1440万ヘクタールの農地を中国資本が所有しているといわれ、これは同国における耕作可能地の2.5パーセントにあたり、外国資本による土地保有の約25パーセントを占めます。

 中国では自然豊かなイメージからオーストラリア産食品の人気が高く、同国産ワインの40パーセントを輸入しています。中国企業がオーストラリアの農場でこれらを生産することは、企業にとってMade in Australia というブランドを手に入れられる一方、中国にとって食糧を安定的に調達するルートを確保することにつながります。

 しかし、中国企業による農地買収があまりに急速なことは、「投資目的の宅地買収が活発化すれば、住宅価格を押し上げることになりかねない」、「自国の食糧供給を脅かしかねない」といった懸念を生み、外国人の土地所有に対する規制の強化につながっています

 オーストラリアの場合、2017年に外国人の宅地購入(その87パーセントは中国人)にかかる税金が、最大で購入価格の8パーセントに引き上げられ、それに続いて2018年2月にはエネルギーとともに農業関連の土地購入に関する規制が強化され、農地を転売する場合にはオーストラリア人に優先的に販売されることなどが定められました。

 これまで中国企業による土地買収が目立っていたオーストラリアで規制が強化されたことは、投資対象を拡散させたとみられます。それにつれて、冒頭で紹介したフランスなど、ヨーロッパ諸国のなかにも規制を強化する動きが広がっています。

日本における土地買収

 ここで日本における土地買収についてみていきます。先述の中国の海外不動産投資サイトの情報によると、2017年度の問い合わせで日本は第8位。日本の場合、外国人の土地所有が、少なくとも法的には基本的に自由であることが、これを促しているとみられます。

 2017年7月、香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙は「香港の投資家を魅惑する日本の不動産市場」と題するコラムを掲載。そこでは、「外国人が建物を所有できても土地を所有できないタイやフィリピン、外国人の土地所有に新税が導入されたオーストラリアやカナダと異なり、日本では外国人の土地所有が法的に規制されていないこと」が強調されています。

 農地の買収に関しても、2009年の法改正で、農業を行うこと、周辺の農地利用に支障をきたさないこと、効率的に利用することなどの原則に基づき、転売や転貸を禁じるなどの規制はあるものの、国内外の個人・法人が農地を保有すること自体は自由になりました。

 ところが、外国人が所有する農地を体系的に把握することは困難です。北海道などで「水源地帯が外国人に買われた」と一時話題となった森林の買収に関しては、農林水産省が外国人所有の調査結果を発表しています。それによると、2017年段階、全国で29件、202ヘクタールの山林が外国人の所有で、そのうち25件、201ヘクタールは北海道のものでした。29件のうち、所有者の現住所が香港を含む中国のものは8件。ただし、所有者の現住所がヴァージン諸島やセーシェルなど租税回避地(タックスヘイブン)のものも7件あり、このなかにも中国企業は含まれるとみられます。

 いずれにせよ、農水省は農地に関する同様のデータを発表しておらず、その買収に関する全貌は不明です。

オーストラリアの現実主義

 農地に限らず、中国企業による土地買収に懸念があることは、不思議ではありません。宅地の場合、海外企業の投機が続けば、都市部での住宅難に拍車をかけることになります。また、水源地帯など多くの人々の生活にかかわる土地となれば、なおさらです。さらに、土地の最終処分権まで外国企業に委ねることは、安全保障の観点からも不安の大きいものです。

 農地所有の規制が強化された際、中国政府は「中国企業の投資にとって、開かれた公正な環境を求める」とオーストラリアを批判しました。しかし、中国では外国人の土地保有が基本的に不可能で、貸し出し(リース)が中心です。世界貿易機関(WTO)の「相手がしてくれたことと同じことを返す」という互恵主義の原則に照らせば、中国が外国人の土地保有に制限を加えている以上、それ以外の国だけが中国企業の土地買収に便宜を図らなければならない筋合いはないはずです。

 ただし、その一方で、少なくとも日本の農地に限ってみれば、中国企業による投資を警戒するだけでは生産的でないといえます。

 過疎化や離農の拡大を背景に政府は農業の法人化を進めていますが、地方や農村が地盤沈下しつつあるなか、国内企業だけでこれをまかなえるのか、心もとないといわざるを得ません。移民政策がなくても現実に2016年段階で外国人が人口の1.8パーセント(238万人)を占め、永住者は72万人を突破。農業においても外国人労働者が不可欠になっている現在、「すべて国内でまかなう」という発想そのものが現実逃避とさえいえます。

 規制を強化したオーストラリア政府も、雇用を生む、輸出を増やすという効果から、外国資本による農業向けの投資そのものは奨励しています。ここから導かれる教訓は、土地の所有権の問題と外国企業の農業投資を促すことを切り離して考えることです。

「活かす」規制

 念のために補足すれば、外国の土地を買収しているのは中国だけではありません。オーストラリアの場合も、英国企業は中国企業を上回る1640万ヘクタールの農地を保有しています。詳しくは【後編】で取り上げるように、中国はグローバルな土地買収の「主役」の一人ではあっても、同様の国は数多くあり、そのなかで中国企業だけ規制することはほぼ不可能です。

 限界集落が増え、無為に朽ち果てる土地が各地に広がる状況をみれば、外国企業に投資のインセンティブを提供しつつ、日本の死活的利益を脅かさない形でこれを管理する体制を築くこと(例えば免税措置と抱き合わせの土地リースなど)も一つの選択肢になり得るでしょう。言い換えるなら、日本の農地に必要なのは「ただリスクを恐れたり、好悪の感情にまかせたりした排除のための規制」ではなく、「リスクと利益を勘案した合理的な判断に基づく、利益を確保するための規制」といえます。

 その場合、大前提として全体の状況把握と、過度の投資流入を防ぐための所有ルールの検討が不可欠といえます。しかし、この点に関して農林水産省は、良くも悪くも現状追認以上のスタンスを示していません。農地買収の波が本格的に押し寄せてから右往左往するのではなく、その前に方向性を決める必要があるといえるでしょう。