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国連報告が示す「アフリカの若者がテロ組織に参加する理由」:先進国にも共通する「パイドパイパーの時代」

六辻彰二国際政治学者
モガディシオの爆破テロの現場から逃れる市民(2017.10.14)(写真:ロイター/アフロ)

テロ活動になぜ参加するか

 10月14日、ソマリアの首都モガディシオで爆破テロ事件が発生。現在までに358人の死者が確認される惨事となりました。これに象徴されるように、中東や南アジアに件数では及ばないものの、アフリカでもテロ事件が増加傾向にあります。

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 この事件の約1ヵ月前の9月、国連開発計画(UNDP)はアフリカで拡散するテロについての報告書『過激派への旅立ち』を発表しました。ここではテロ活動に参加した経験のある若者500人以上への聞き取りに基づき、その意識調査と分析が行われています。データに基づく考察は、貴重な資料といえます。

 今回の報告書の主なポイントを確認すると、テロ組織に参加した経験のある回答者のうち、71パーセントが「テロ活動に参加したきっかけ」として「政府の行動」をあげています(p5)。そこには「家族・友人が殺害・逮捕されたこと」を含みます。つまり、不誠実な政府のあり方がテロリストを生んでいるといえます。

 さらに、自発的にテロ活動に参加した者のうち、その理由として最も多かったのは「宗教的な理念」(40パーセント)で、「何か大きなものの一部になること」(16パーセント)、「宗教的な指導者への信頼」(13パーセント)、「雇用の機会」(13パーセント)を上回りました(p46)。つまり、その多くは「世の中の不正を正す」つもりでテロ活動に参加したといえます。

 ただし、その一方で、自発的に参加した者のうち、「コーランを全く読まない」と「ほとんど読まない」と答えた回答者は57パーセントにのぼりました(pp49-50)。ここから、多くの若者が実際には教義についてよく分かっていないまま、テロリストの甘言に乗って「分かっているつもり」で過激派組織に参加していたことがうかがえます。

パイドパイパーに気をつけろ

 この報告書は、テロ活動に実際に関わった人々の内面に光をあてたもので、資料として貴重です。自らもムスリムで、ナイジェリアのボコ・ハラムによって自爆テロを強制された経験もある、人権活動家K.H.ガンボ氏はドイツメディアのインタビューに応えて、「イスラームに詳しくない者ほどテロリストのイデオロギーに影響されやすい」と述べ、この報告書の知見に概ね賛同しています。

 そのうえでガンボ氏は、社会に不満を募らせる若者に以下のメッセージを送っています「パイドパイパーの罠にはまらないで」。

 パイドパイパーとは、「ハメルンの笛吹き男」の英語訳です。

 ネズミが大量に発生して困っていたハメルンの人々の前に、色鮮やかな衣装をまとった男が現れ、謝礼と引き換えにネズミ退治を約束します。しかし、男が笛を吹いてネズミを集め、川でおぼれさせると、人々は約束を破り、謝礼を支払いませんでした。すると笛吹き男は、今度は笛を吹いて街中の子どもを集め、それを引き連れて山中の洞穴のなかに消えていったといいます。

 日本でもよく知られるこのお話は、1284年にドイツ(当時の神聖ローマ帝国)のハメルンで、実際に子どもが突然姿を消した史実を基にしているといわれます。子どもが消えた理由には諸説あり、当時盛んに行われていたルーマニアなどへの植民活動に子どもを売り渡していた様子を現すものという説もあります

パイドパイパー物語とアフリカ

 版によって多少のアレンジはありますが、パイドパイパー物語のお話しとしての構造は、概ね以下の点で共通します。

  • 社会の主流派であるハメルンの一般の人々は、困った状況を改善する能力や意思に欠けている。必ずしも悪人でないかもしれないが、約束を律義に守るほど誠実でもない
  • パイドパイパーは社会から逸脱したアウトサイダーだが、人々の凡庸さが目立つ故に、一部の人々にとってはかえってそれが頼もしくも映る。その行動原理は、実力を示して利益を得ること、不誠実な人々に「思い知らせる」ことである。
  • パイドパイパーに連れ出される子どもたちは、多くの大人のように不誠実でないものの、ついて行っていいかを判断できるほどの分別に乏しく、非力でもある。彼らは無能で不誠実な人々の犠牲者であると同時に、パイドパイパーの虚栄心を満たす道具にもされている。

 このように整理すると、社会の主流派の不誠実さを背景に、社会から逸脱した者が様々な誘惑で若者を呼び集め、一定の方向に導いていく様は、確かにパイドパイパーを思い起こさせます。

 世界銀行の統計によると、サハラ砂漠より南のアフリカでは、2015年段階でも一人当たりGDPが1,592ドルにとどまり、先進国の20分の1以下の水準にあります(World Development Indicators)。一方、資源などを目当てに多くの投資が相次ぐことで物価は高騰し続け、そのペースは所得の向上を上回ります。さらに、多くの国では汚職が蔓延しており、一握りの富裕層による利益の独占も慢性化しています。

 その「困った状況を改善しきれない不誠実で凡庸な政府や有力者」に対して、社会から逸脱した者が、より弱い立場の若者の関心を集め、その未熟さを利用して「社会の主流派に思い知らせるための道具」として用いるという構図は、パイドパイパーの物語のそれにほぼ符合するといえるでしょう。

パイドパイパーの罪とは

 ただし、注意すべきは、パイドパイパーだけが「悪」と限らないことです。お話しの場合、パイドパイパーが子どもを連れ去ったきっかけは、ハメルンの人々の「不誠実さ」にありました。

 同様に、現代のアフリカでパイドパイパーに若者をリクルートしてテロ活動を展開させるのは、汚職にまみれ、実効性のある政策を行えない政府と、それに連なる既得権益層の「不誠実さ」にあるといえます。

 さらに、お話しのなかでパイドパイパーについて行った子どもたちには確かに何の罪もないかもしれません。

 しかし、現実の世界の場合、いかに「分別が乏しいままに」「分かったつもりで」テロ組織の笛に合わせていただけとはいえ、若者たち自身も社会に対する破壊行為を行ってきたこと自体は否定できません。そこには、政府や社会の主流派の不誠実さと、パイドパイパーの虚栄心の犠牲者である若者が、同時に加害者にもなるという構図があるのです。

 こうしてみたとき、人々を惑わせる笛を打ち壊すだけでは、パイドパイパーの害悪をなくせないといえます。その場合、政府や社会の主流派に透明性と説明責任を負わせるとともに、ついて行く人々が「分かったつもり」で決定的な行動を起こさずに済む教育や社会システムを作ることも欠かせません。つまり、自分たちの足元を見直すことなしに、社会から逸脱した者に全責任を負わせても、社会そのものの歪みは矯正できないといえるでしょう。

パイドパイパーの時代

 英紙ガーディアンはこの報告書を紹介した記事の中で、「アフリカ各国の政府の行動が人々を過激派に向かわせる」と伝えながら、その状況がヨーロッパを含む他の地域と異なる点があると念を押しています。その違いとしては「オンラインの勧誘ではなく人間同士の結びつきでリクルートされること」があげられていますが、これは手法の違いであり、「政府への不満」という動機づけの違いではありません

 多くの国の人々にとって、(あらゆる意味で遅れた土地とみなされやすい)アフリカではともかく、自国では政府をはじめとする社会の主流派への不満がパイドパイパーを呼ぶというシナリオを認めたくないのかもしれません。しかし、程度の差はあれ、現代の世界を見渡すと、イスラーム過激派だけでなく「分かったつもり」でついて行く人々を引き連れたパイドパイパーと呼べる人々を多く見出せます

 米国のドナルド・トランプ大統領や英国のEU離脱を主導したボリス・ジョンソン外相らは、その典型です。さらに、スコットランドやカタルーニャの分離独立を唱道する勢力も、これとほぼ同様といえます。ショーアップされた政治が目立つ日本も、その例外ではないでしょう。

 そして、イスラーム過激派であるかそれ以外であるかに関わらず、パイドパイパーの登場によって表面化する問題の構造に関しても、アフリカとそれ以外の土地に大きな差はないといえます。

 お話しのなかでパイドパイパーは、子どもたちと一緒に姿を消しました。残された人々は、彼らにも少なからず責任があるとはいえ、その後始末に苦慮したはずです。

 つまり、パイドパイパーの最大の問題は、周囲を振り回した後の責任を負わず、結局そのツケを人々が負わなければならないことです。それはついて行く人に関しても同様です。お話しのなかでパイドパイパーについて行った子どもたちと異なり、特に現代の先進国でパイドパイパーについて行く人々は、たとえ「分かったつもり」に過ぎなかったとしても、自らの行動に責任を負うべき成人がほとんどです。

 情報化によって不公正が可視化されやすくなり、それに対する不満や義憤が生まれやすい時代は、パイドパイパーにとって格好の舞台といえます。アフリカのテロに参加する若者からは、国民主権を謳う以上、パイドパイパー登場の責任を痛感すべきは政治家だけでなく有権者も同様であることが改めて想起されるのです。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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