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代走、守備固めからレギュラーの3割打者に 韓国3年目・安田権守の飛躍の理由

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
安田権守(写真:トゥサンベアーズ)

NPBでの選手経験のない日本出身選手として、15年ぶりに韓国KBOリーグ入りしたトゥサンベアーズの安田権守(やすだ・こんす、29。登録名アン・グォンス)。安田はプロ3シーズン目の今季、好成績を残している。

(関連記事:エリートだった「早稲田の腕立て王子」が遠回りして韓国でつかんだプロ野球選手の座

昨季までの2シーズンと今季初めまでは、ゲーム終盤の外野の守備固め、または代走での出場が中心だった安田。しかし今季は4月下旬に先発出場の機会を得ると1番に定着し、連日ヒットを重ねた。7月29日の時点で規定打席には32打席足りないが、打率3割1分2厘を記録している。

安田の3年目の飛躍には明確な理由があった。

年下の社会人選手の「インスタ」に指導依頼のDM

「今年は試合に出続ければ、ある程度は結果が出せると思っていました」

安田はここまでの好成績に確信をもっていた。その背景には1月から受け始めたアドバイスがあった。

「NTT西日本の日下部(光)選手に、『バットの重力を使う打ち方』を教えてもらって、それをやっていくうちに去年とは違う打球が出るようになりました」

安田は昨季終了後、プロの投手に対応するスイングを追い求める中で、インスタグラム(写真・動画共有SNS)に投稿されていた日下部の動画に目を留めた。

日下部は社会人野球でプレーする内野手。安田より2学年下の26歳だ。日下部はさらに上のレベルでのプレーを目指し鍛錬を続ける中、インスタグラムに自らの打撃練習の動画を積極的に公開。技術的な部分を文章で説明し、質問にも可能な限り答えている。

安田は右打者の日下部が、右ひざの手術後に左打席で練習に取り組む動画を見てその理論に共感。日下部にダイレクトメッセージ(DM)を送り、やり取りが始まった。

日下部はDMをもらう以前から安田のことは知っていた。

「安田さんはカナフレックス(滋賀県が拠点の社会人野球チーム)で目立った存在でした」(日下部)

安田権守(写真:トゥサンベアーズ)
安田権守(写真:トゥサンベアーズ)

アドバイスでスイングが変わった

安田と日下部は共に身長170センチ台。野球選手としては小柄な方だ。「体格のいい選手に勝つには技術がより必要」という認識で一致する2人は、シーズンを前に多い時には週に2、3度、ビデオ通話を通してスイングの確認作業を繰り返した。

「安田さんは社会人では結果を残されていましたが、プロでは球速に対応するために腕に力を入れて打ちにいっていました。しかし腕に力が入るとバットにボールが当たった瞬間にヘッドが下がり、バットを上げようとする動作が加わります。それではプロのスピード、変化には対応出来ません」

「安田さんには腕で打ちにいくのではなく体でバットを振って、バットの重力を生かして『バットにボールが勝手に当たる』イメージのスイングを身につけようという話をしました。するとスイングの軌道が良くなっていきました」(日下部)

安田は今年、バットの重さを15グラム重くし(860→875グラム)、長さを0.25インチ(約0.64センチ)長くした(33.25→33.5インチ)。またグリップも「タイカップからややタイカップ」にし、バットの重心を昨年よりも若干先端寄りに変えた。安田はこの「少し重く、少し長く」なったバットを体で振ることを意識し今季をスタートさせた。

昨季までの安田は左方向の軽打が多かったが、日下部と共に積み上げた技術向上とスイングの変化によって、今季はセンター方向や右中間、左中間への強い打球が増えている。そして結果にも繋がっていった。

安田権守(写真:トゥサンベアーズ)
安田権守(写真:トゥサンベアーズ)

「NPBでもやれる」他球団コーチが太鼓判

「去年までは試合終盤までベンチに座っていたので、出番の時には体が硬くなっていましたが、スタメンで出るようになると全然違います」(安田)

レベルアップに加え、試合に出続けることでの余裕が生まれた安田。そのことを相手チームも感じている。NPB球団でのコーチ研修の経験がある他球団の打撃コーチは、安田をこう分析する。

「去年は来た球を打っている印象だったが、今年は早いカウントではポイントを前に、2ストライク以降は後ろにポイントを置いて対応しています。選球眼もいいです」

この打撃コーチは安田の特長である足の速さと肩の強さ、守備力も評価し、「NPBの球団に入ったとしても、主力ではないかもしれないが十分にやれる実力はあると思う」と語った。

また東京オリンピックの韓国代表メンバーで、攻守でリーグトップレベルの実力を誇る外野手のイ・ジョンフ(キウム、23)は安田について、「クォンス兄さん(安田のこと)は常に全力プレーで根性があります。一つ一つのプレーが丁寧です」と話した。

フェンスに激突して好捕する安田権守(写真:トゥサンベアーズ)
フェンスに激突して好捕する安田権守(写真:トゥサンベアーズ)

いつもにこやかな表情を見せる安田は、チームメイトはもちろん、他球団の選手からも「性格がいい」と評判が高い。この3年で韓国語もかなり上達した。そして今季は貪欲な姿勢が実を結び、選手層が厚いチームの中でレギュラーの座を守ろうとしている。

◇安田権守(アン・グォンス)年度別成績

年度 打率 試合 安打 本塁打 打点 盗塁

2020 .270 68 10  0   3   2

2021 .238 87 10  0   4   3

2022 .312 69 69  0   20   3

通算 .297 224 89  0   27   8

※7月29日現在

安田権守(写真:トゥサンベアーズ)
安田権守(写真:トゥサンベアーズ)

・NTT西日本 日下部光内野手のインスタグラムアカウント

日下部 光 /Hikaru Kusakabe(@kusakabehikarudesu.2)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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