成果乏しい日本の主権者教育。抜本的拡充の転機になるか、文科省・主権者教育推進会議の最終報告案が提出

(写真:アフロ)

がんじがらめの現状の主権者教育

2015年の18歳選挙権の実現以降、主権者教育が広く行われるようになった一方(※)、2019年参院選における10代の投票率は約33%へと落ち込み、現状の主権者教育の成果は乏しいものとなっている。

※文部科学省が令和元年度に高等学校等を対象に行った「主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査」では、調査実施年度に第3学年に在籍する生徒に対して主権者教育を実施したと回答した割合が全体の95.6%を占めた。

日本学術会議が2020年8月に公表した報告書(「主権者教育の理論と実践」)では、「主権者教育は投票参加に直接影響を及ぼしてはいなかった」とした上で、「政治的有効性感覚や新聞接触が有意に影響していることから、主権者教育が、政治的有効性感覚の向上や政治的情報の手段としての新聞接触に結びつくような形で実践されれば、適切な政治参加・投票参加に結びつくことが示唆される」と指摘している。

そして、そのためには、「政治や選挙に関する単なる知識を超え、具体的な政治的事象を踏まえながら、自ら考え判断できる教育を提供することが求められる」とし、「政治的中立性について過敏になりすぎず、学校において実践的な内容の主権者教育を行うべき」と、結論づけている。

現状はやる気のある先生でも、政治的中立性を気にして具体的な政治的事象を扱いにくい状況になっている。

2021年1月19日に経済同友会が主催した未来選択会議 第1回オープン・フォーラム「未来選択につながる民主主義〜若者の政治・社会への関心を高めるために」で一緒に登壇した、玉川学園高等部・中等部教諭の硤合宗隆先生は、「学校でできることには制約も多い」とした上で、政治的中立性に関する考え方を見直す、「ドイツの『ボイテルスバッハ・コンセンサス』の日本版が必要ではないか」と指摘していた。

出典:NHK「ドイツの政治教育と中立性」(視点・論点)
出典:NHK「ドイツの政治教育と中立性」(視点・論点)

「中間報告」からは大幅に改善した最終報告案

そうした中、文部科学省では2018年8月に「主権者教育推進会議」を設置し、さらなる主権者教育拡充に向けた議論が行われてきたが、2021年2月19日の第18回で最終報告案が提出された。

11月に公表された中間報告は、以前別の記事で書いたように、現状分析が甘く、物足りないものとなっていた。

関連記事:文科省・主権者教育推進会議の「中間報告」に欠けている視点(室橋祐貴)

ただ今回発表された最終報告案は、一歩踏み込んだ内容となっており、1月28日に文科省に日本若者協議会で提言した「主権者教育の手法に『学校運営への生徒参加』を含める」点も盛り込まれているのは、評価できる点である。

特に重要な部分をいくつか抜粋したい。

このような(政治的教養に関する教育の充実)取組を重視する動きは、本主権者教育推進会議にて訪問調査した英国におけるシティズンシップ教育をめぐる取組や、ドイツにおける中立原則(ボイテルスバッハ・コンセンサス)の下での政治教育の取組や、ヒアリングにおけるOECDのLearning Framework 2030におけるStudent Agency(「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」とされている)の育成を重視する方向性とも軌を一にするものである。

例えば、ドイツでは、上述の中立性の原則の下、「連邦政治教育センター」において政治教育の副教材の開発や、開発した教材について超党派の議員で構成される委員会等による監督を受けることなどの取組を通して政治的中立性を担保する取組を行っている。我が国においても、これまでの取組も踏まえつつ、こうした諸外国の取組を参考に主権者教育の充実につなげることも重要である。

同様に、主権者教育で扱う社会的な課題や政治的な課題に唯一絶対の正解があるわけではない。したがって、主権者教育を推進する上では、正解が一つに定まらない論争的な課題に対して、児童生徒が自分の意見を持ちつつ、異なる意見や対立する意見を整理して議論を交わしたり、他者の意見と折り合いを付けたりする中で、納得解を見いだしながら合意形成を図っていく過程が重要となる。このように主権者教育の目指すところは、新学習指導要領が見据えた2030年の未来社会を生きる子供たちに必要な資質・能力の育成とも重なるといえよう。

その際、主権者教育の充実の観点からは、政治的中立性の確保の観点も含めた有益 適切な教材を開発することも重要である。主権者教育推進会議の議論では、諸外国の取組としてドイツの「連邦政治教育センター」における取組が紹介された。具体的には同センターにおいて、政治に関する情報・分析とその普及、政治教育のための教材の編集・発行、政治教育活動、各地の政治的教育機関(NPO等)の支援を行っていることなどが紹介された。 現実の政治的な事象を扱った有益適切な教材の活用を外部団体との連携により推進することは極めて重要であり、我が国においても、第三者的な立場にあるNPOやシンクタンク等の外部団体において、例えば、政党の選挙公約等の政策を比較可能な形でまとめて学校での主権者教育の実施に資する取組を行うなど、学校に対してデータに基づく客観的な政策評価や社会的課題に関する情報の提供を進めている取組もある。こうした外部団体の取組は、学校の授業において、現実の具体的な政治的事象を取り扱うに当たり、配慮のなされた教材を提供する上で有効であると考えられる。このような観点から、学校、教育委員会における外部機関との連携による適切な教材活用の取組を支援することが求められる。

その際、特に、児童生徒にとって身近な社会である学校生活の充実と向上を図ることを目指す児童会活動、生徒会活動やボランティア活動などの活動は主権者としての意識を涵養する上で大変重要であり、これらの活動の充実を図ることが求められる。

(主権者教育の)取組の内容を見ると、平成27年通知で示した「現実の政治的事象についての話し合い活動」に取り組んだ割合が3割強(34.4%)であることや、指導に当たって関係機関と「連携していない」と回答した割合が5割弱(48.2%)あることなどが明らかとなった。1(1)で述べたように、昭和44年通知以来、半世紀ぶりに見直した平成27年通知では、政治的教養に関する教育の取扱いを充実し、政治的中立性を確保しつつ、現実の具体的な政治的事象を扱うことを積極的に行うことを明確化したところである。こうした経緯を踏まえれば、これらの調査結果は、主権者教育を推進する上での重要な課題を示すものであるといえよう。

このような課題を乗り越え、各学校において、現実の具体的な政治的事象を扱った授業の展開を推進するため、国において以下の観点から取組を推進することが求められる。

ア.ともすれば政治的中立性を過度に意識するあまり教師が指導に躊躇する現状を乗り越え、学校における指導を実際に充実する観点から、各学校や教育委員会に対し、平成27年通知や「私たちが拓く日本の未来(活用のための指導資料)」に示した考え方の一層の積極的な周知や、これらを踏まえた具体的な実践事例の収集・開発、横展開が求められる。その際、小・中学校向けの取組の充実も求められる。

イ.教師は生徒に対し常に「正解」を伝えるものという、いわゆる「正解主義」を乗り越えて、「学びの主体」である児童生徒自身の力量形成に向けた授業改善を推進するため、国による副教材や教師用指導資料の開発、学校・教育委員会とNPO・シンクタンク等とが連携した取組の推進が求められる

ウ.現実の具体的な政治的事象を扱った授業の実施には、家庭や地域の理解が重要であり、主権者教育の重要性についての家庭への周知が求められる。

NPOやシンクタンク等の提供可能な教育プログラムの情報などをデータベースに登録し、学校や教育委員会等が活用できるよう支援する。

中間報告から加筆された部分を、一言でまとめると、より積極的に、具体的な政治的事象を取り扱うよう促すために、政治的中立性の考え方に関して改めて周知し、具体的な実践事例を広めていくこと、論争的な授業内容にしていくために、NPO・シンクタンク等との連携を促進していく、ということである。

「投票」以外の政治参加手段

一方、この最終報告案の課題としては、大きく3つ上げられる。

一つ目は、児童会活動、生徒会活動やボランティア活動などの活動の充実に関してである。

もちろん「児童生徒にとって身近な社会である学校生活の充実と向上を図ることを目指す児童会活動、生徒会活動やボランティア活動などの活動は主権者としての意識を涵養する上で大変重要であり、これらの活動の充実を図ることが求められる」と明記されたことは非常に重要であり、高く評価できる点である。

ただ、日本においては自治的な生徒会活動を行っている例は非常に少なく、各教員が理想的な生徒会活動や、生徒の学校運営への参加を思い描けている可能性は少ない(そもそも生徒全員が関わるべきであり、「生徒会活動」に限定されるべきでもない)。

そのため、校則見直し過程において児童・生徒の声を聞くこと、など、具体例を加えないと、なかなか真意が伝わらないのでは、と懸念される。

二つ目は、政治的中立性に関してである。

上記のように、これまでより、具体的な政治的事象を取り扱うよう促すのは高く評価できる点ではある。

ただ、これまで平成27年通知が出された後にも、教育委員会や政治家が学校現場に介入し、過度に中立性を意識しなるべく具体的な政治的事象を取り扱わないよう圧力をかけてきた経緯を踏まえると、もう少し踏み込んだ形で、『ボイテルスバッハ・コンセンサス』の日本版の作成、もしくは、平成27年通知の見直しが必要ではないだろうか。

たとえば、平成27年通知では、「指導に当たっては、教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること。」とされているが、個人的な主義主張を述べることと、個人的な主義主張を生徒に押し付けることは別であり、ここの部分が教員の萎縮を招く一因にもなっている。

そのため、「教員は個人的な主義主張を述べることは避け」の箇所を「教員は個人的な主義主張を生徒に押し付けることは避け」に見直すことなどは十分に考えられるだろう。

最後は、これまで度々指摘している、政治参加には、「投票」以外の手段もある点である。

最終報告案では、「主権者教育をめぐる課題」として、投票率の低下のみに触れられているが、「選挙」に限っても、若者の候補者が少ないことは大きな課題であり、選挙以外でも、請願や陳情、デモ活動など、政治参加には多様な手段が存在する。

実際、日本では、投票以外の政治参加も低水準となっており、若者の投票率が80%を超えるスウェーデン(瑞)が他の手法においても、高水準であることは一つの示唆になり得るのではないだろうか。

特に、近年SNSの発達により、オンライン署名活動が活発化しているように、投票以外の政治参加の手法で現実社会を変えた事例も増えてきており、初等中等教育課程においても、実践的に教えていくべきだろう。

例:小学校・中学校、高等学校での取組の充実について、「地方自治体・地方議会への請願や陳情の方法、出馬する際のルールを教えるなど」、と追加

「中間報告」に比べれば、大幅に改善されたものの、実際の教育現場が変わるよう、もう少し踏み込んだ形での「最終報告」を期待したい。

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