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オンライン授業は「嫌われもの」?多数の大学生は現状の大学生活についてどう思っているのか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

「大学生の不満は限界」

「オンラインならこの大学を選んだ意味がない」

「思い描いていた学生生活とあまりにもかけ離れていて、大学生でいる意味がわからない」

コロナ禍で通常通りの学生生活を送れない現状を嘆く「大学生」の声が、連日のようにマスコミによって取り上げられ、政府もその声に押され大学に対面授業の実施を要求する。

そんな光景がここ半年ほどずっと続いているが、一方で、そうした声にどこまで「代表性」があるのか。大多数の学生が本当に「対面授業」を望んでいるのか。そうした全体像を示した報道は少ない。

そこで、現状の大学生の意識を可視化・分析するため、立命館大学教育開発推進機構講師の蒲生諒太さんは立命館大学の学生約1000名を対象に「コロナ禍における立命館大学学部生意識調査」を実施

アンケートの収集は Google フォームによって行われました。期間は2020年11月28日から12月5日の7日間です。

Google フォームのアドレスを秋学期担当科目のLMS(ラーニングマネジメントシステム)=WEBのクラス掲示板に掲載、さらに受講生及び私が担当した授業の過年度受講生にメールでアンケートへの依頼を行いました。

しかし、これだと私が担当したキャンパス、学部しか調査ができないので、各キャンパスの教養・外国語科目を担当する先生方や各学部担当の先生方にメールでお願いして、その先生方のLMSでも通知をしてもらいました。さらに Twitter でも告知を行いました。

アンケート回答時には学生証番号の頭6桁を書いてもらうことにしました。この6桁には所属する学部や学科、入学年の情報が入っており、個人は特定できないものの、学外者が簡単に回答できない及び、いたずら等の異常な回答を除外する機能があります。

立命館1000人アンケート

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

オンライン授業の好みは半々

メディアや一部SNSではオンライン授業の評判がとても悪いように叩かれがちであるが、実際のところどうなっているのか。

「対面授業とWeb授業どちらが好きですか」という質問に対しては、学生の回答が五分五分に分かれ、学生の間でも好みが大きく異なることがわかる。

また、対面授業よりも「集中しにくい」と答えた学生は全体の約48%で、WEB授業の方が「集中しやすい」という学生、さらに対面授業と「変わらない」と両方合わせて約52%と、教育効果に関しても同様に分かれる結果となった。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

また、「WEB授業のあり方」としては、課題についての解説や、自分の提出物へのフィードバックを求める声が大きい。ただこれは、2年生以上の学生はわかると思うが、対面授業の時からあまり行われておらず、オンライン・対面問わず、これまでの学生が共通して持っている要望だと思われる。その意味では、今後より授業の満足度を上げるために、そうしたコミュニケーションが可能な体制づくり(TA=ティーチング・アシスタントの増員など)が求められる。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

対面増加より現状維持あるいは自粛を求める声の方が大きい

次に、「現状の感染状況でワクチンが開発されていない場合」、2021年度の授業についてどのような運用を希望しますか、という質問に対しては、「全面対面」・対面授業を「増やす」ことを希望する学生は約33%、対面は秋学期と「同じくらい」の学生はそれより少し多く約37%、「全面WEB授業」・対面を秋学期より「減らす」という回答は3割程度となっている。

つまり、おおよそ学生の意見は3分割に分かれており、少なくともメディアの論調や政府の対応ほど、「学生の大半が対面増を願っている」状況ではなさそうだ。むしろ、全面WEB授業が23.5%もいることに驚く。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

立命館大学はいわゆる関関同立の中でもかなり抑制した学校開放を行っています。対面授業それほど多くないのです。

関関同立の中には事実上、全面的な対面授業を行っている大学もあります。

このことを念頭にアンケートを読みときますと、(中略)おおらかに誤差を考えると学生世論は3分割されているとも取れます。

学生の声は分かれている」くらいが正確かなと思います。

メディアも文科省も対面授業を増やすように言っています。それは「学生の声」なるものを背景にしていますが、少なくとも今回のアンケートで汲み取れた学生世論の「対面増」の声は立命館大学では3割で、現状維持+WEBへの転換を求める声の方が大きいのです。

サンプルの歪みがあるということを考えても、さすがにこの票差・割合差をひっくり返すのは難しく、「学生の大半が対面増を願っている」という認識は現実とは違っていると思われます。

控え目に言っても、対面授業を増やすためのモチベーションとなるようなデータは今回のアンケート調査では得られなかったわけです。

引用元:立命館1000人アンケート

キャンパスライフを求める一定層

「対面授業」を求める理由としては、「友達に会える(作れる)」がもっとも多く、「大学生の最大の意義」としても、「友達や恋人と青春を謳歌できる」というキャンパスライフを求める声が一定数いることがわかった。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

結果は学術志向と実学志向が35%前後で並び、(大方10%空いているのでこの差は確かにありそうなのですが)25%で青春志向が続きました。

4人に1人は相対的に小さいように見えますが、この結果は「決して無視できない一団」として学生集団の中に存在する人々を照らし出します。

彼ら彼女らは文字通り「青春バンザイ!」と心躍りしてキャンパスにやってきた人々です。

そして、今彼ら彼女らの心が充足できない状況にあるのです。これは決して無視できないものなのです。

引用元:立命館1000人アンケート

どういう学生が「ハイリスク会合」(「5人以上の会合」)や「レジャー」に参加したのか、「大学生の意義」という項目とクロス集計した結果としては、青春を求めて大学に来た人はコロナ禍において「5人以上の会合」も「レジャー」も実施しがちで、その一方、学問を求めて大学に来た人は実施しない傾向にあるということが明らかとなっている。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

対面授業が新型コロナ感染拡大に影響する可能性を示唆

秋学期の授業形態とクロス集計した結果では、「5人以上の会合」について、「対面実施授業がありキャンパスに行っている」と「対面実施授業があるがWEBで参加している」では10%以上の差が出ている。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

これ、実は読み取りがとても難しいのです。

まず、立命館大学の2020年度秋学期開講システムですが、対面とWEBの併用で各学部の方針に従い、その割合は違ってきます。ただ、全体的に割合は他大学と比べて低く、文科省からの各種プレッシャーの中で学期途中に対面を増やせないかと学内で議論になったこともありました。

基本的に学生は対面かWEBどちらかを選択できるようになっています。対面授業をするけど、録画や同時中継で自宅でも受講できるということです。

この状況で「対面実施授業があるがWEBで参加している」については感染リスクに、かなり意識している層だと理解できます。例えば、ご本人に基礎疾患がある、ご家族に高齢な方や基礎疾患をお持ちの方がいる、あるいは感染拡大防止のためにあえて自粛をしている……。

一方で「対面実施授業は受講していない」は学部の開講方針やカリキュラム等で自身の受講できる授業に対面実施分がないという層、本当は対面受講したいができない不本意層も含まれる可能性が想定できます。

その差はデータ内での振る舞いで見て取れます。つまり、「対面実施授業があるがWEBで参加している」層は「5人以上の会合」も「レジャー」も実施割合が低いけど、「対面実施授業は受講していない」は(特にレジャーで顕著ですが)そうでもないのです。

(中略)

さて、以上のアンケート結果ですが良くも悪くもコロナ禍における大学生の実情、つまり、ハイリスクな「5人以上の会合」の輪郭とその条件が明瞭になってきたかと思います。

大学生たちはどうも対面授業でキャンパスに来たときや、青春を大学に追い求めてやってきた層で「5人以上の会合」を開く傾向にあるようです。

それは手近に会合(食事会、飲み会、カラオケ)が開ける環境であればあるほどに生じやすく、学年での差は1-3回生という受講授業数の多い学年では特にないようです。

多くはサークルともゼミともつかない「大学内のつながり」ですが、ゼミ起因のものも一定数存在します。

彼ら彼女らは「異性がいることで気分の高揚が双方に生じやすい会合」を催している可能性が(あくまでも一つの可能性ですが)あります。

引用元:立命館1000人アンケート

メディアの報道をどう思っているか?

最後に、「WEB授業や少ない対面授業などで大学を批判する意見がメディアで『大学生の声』として報じられていますが、あなたの考えに近いものはどれですか?」という問いに対して、6割強の学生が、あれは「一部の学生の考えを大学生の声として報じている」と回答

大学批判への共感も拮抗しており、「学生の声」が多様であることがわかる(しかしメディアでは一面的な声ばかりが報じられている)。

出典:立命館1000人アンケート
出典:立命館1000人アンケート

さて、以上のアンケート結果ですが様々な点でメディアが作り出した「大学生の声」と相違するものが見受けられたと思います。

WEB授業はメディアが報じるような悪の権化の如き評判の悪いものではないようです。また、それに適応している学生も半分程度いるのです。

しかし、対面授業の方が好きな学生やWEB授業に不適応を起こす学生もそれと同じくらいいます。そのような学生の中から「大学批判」の担い手やその擁護者が生まれてくると考えることはできるでしょう。

この層は学生の大多数を占めるかというと必ずしもそうではなく、このことは学生たちも自覚しているのです。

メディアが作り出す「学生の声」に後押しされる文科省は大学に対面授業を増やすように圧力をかけています。

しかし、実際に文科省の政策と一致するような「学生の声」はこのアンケートでは立命館大学の学生の3割程度であり、大多数は現状維持か、より厳しい自粛を求めているのです。

大学が対面授業を増やしていくモチベーションとなっているのが3割程度の学生の声であるなら、これを多数決で考えるとおかしな感じがします。

しかし、実際的にその「声」が大きな政治的な流れを作り出しているのです。

引用元:立命館1000人アンケート

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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