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国民1人あたり一律10万円給付、若手が動かして実現なるか

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

頓挫したかと思われた「国民1人あたり一律10万円給付」が、実現に向けて動き始めた。

4月15日、公明党の山口代表が所得制限を設けずに国民1人当たり現金10万円を給付するよう、安倍首相に要請。

首相は『(20年度)補正予算を速やかに成立させた上で、方向性を持ってよく検討したい』と山口代表に応答した(菅義偉官房長官)そうだが、15日午後に行われた自民・公明両党の幹事長と政務調査会長らによる会談では、公明党が、収入が減少した世帯への30万円の現金給付をとりやめ、10万円の現金給付に組み替えて早期に実現させるよう、要求。

これに対して、自民党は補正予算案を速やかに成立させた上で検討すべきだとして、組み替えに否定的な考えを示したそうだが、協議が続いている。

4月7日に閣議決定された20年度補正予算案は来週に国会に提出される予定となっている。

これまで筆者もずっと「国民一人あたり10万円給付」を実施すべきだと主張しており、早期実現を求めるが、3月から本格的な自粛が始まり、既に2ヶ月が経とうとしていること、今後もまだ大きな影響が続くことを考えると、生活困窮者にはさらなる支援が早期に求められるため、組み替えではなく、追加策として二次補正予算を別途作成し、同時に審議を進めていくべきではないだろうか(組み替えた場合、再度与党内で事前審査を行い、閣議決定をし直す必要があるため、来週中に予算案を国会に提出するのは難しいのではないだろうか)。

珍しく決定後に党内から反対の声

実現するかは今後の検討次第ではあるものの、今回一律現金給付の要請に至ったのは、世論の声はもちろん、党内の若手の動きも大きい。

与党の両党は基本的に、一度党内で決まったものに対しては後からとやかく言わない「文化」があるが、今回は決定後にも反対を表明する若手議員の動きが目立った。

公明党は、3月31日に政府に提言した緊急経済対策案では、一定の所得制限を設けた上で、国民一人あたりに一律10万円支給を要求していたが、若手議員で構成される公明党青年委員会は、「全国民一人当たり10万円を給付すべき」と主張。各議員も、個別に主張してきた。

その後、7日に緊急事態宣言が出され、フェーズが変わってきたのはもちろんあるものの、一貫して全国民一人当たり10万円給付を訴えてきた若手議員の存在は大きい。

自民党でも、3月からずっと「消費税ゼロ」「30兆円規模の真水投入」などを求めてきた自民党の議員連盟「日本の未来を考える勉強会」の会長を務める安藤裕衆議院議員を筆頭に、若手議員が政府の緊急経済対策案に対して反対の声を上げ続けている。

「『現金給付』はとにかく迅速に支給をしなくてはならない。そのためには一律10万円の支給をやるべきでした。コロナ問題で収入が激減したり、仕事を失ったことで今月の家賃も払えない、水道代も電気代も払えない、という国民がたくさんいることを忘れてはならない。

事態は急を要するのです。ましてや『外出自粛』をお願いしている以上、政府が『国民の生活はしっかり保障する』という明確なメッセージを出すことが重要です」

出典:安倍政権のコロナ経済対策、なんと自民若手たちが「批判」を始めた…!(現代ビジネス)

デジタル分野でも若手議員が活躍

また今回、国会の場が「3密」状態にあるが、それを回避するため、自民党の若手有志30人弱が参加する「コロナを機に社会改革プロジェクトチーム(PT)」は、岸田政調会長に対して国会のデジタル対応を提言。

PT発起人代表の鈴木隼人衆議院議員は、「国会議員の中で感染者が広がったときに、定足数を満たせないから国会審議できないということでいいのか」と対策の必要性を訴えている。

1. 法案審議・政策議論の遅れを回避するためのWeb会議導入や公務のデジタル対応の推進

自民党においてはこれまで、役員会や代議士会などを中止するなど感染拡大防止に取り組んでいる。また、4月2日から12日までの間は党本部における部会も原則取りやめとなっている。これらの措置が必要な一方、「長期戦」との見方もあり、必要な審議や政策議論の遅れ、ひいては国民生活への影響が懸念される。そこで、部会等の会議をオンライン上で開催できるようなルール整備や現状のインターネット環境の見直し、資機材の整備等を求める。

上記で示した既存の部会に代わるWeb会議などの導入のためにも、一議員一端末制導入の検討を求める。これによって会議や党本部からの各種資料配布のペーパーレス化や省力化、選挙時における各種資料の一斉共有など、そのメリットは多岐にわたる。また、質問通告をメールで送ることを推奨することで霞が関全体の働き方改革を自民党が率先して取り組むことにも繋がる。

2. 公務等による本会議欠席の際の議決権の担保

厚労副大臣ならびに政務官がダイヤモンドプリンセスに乗船し、現場にて指揮をとっていたことにより、下船から2週間にわたり隔離措置が講じられた。その期間に衆議院においては本予算の審議ならびに採決が行われたが、無論、本会議での議決権行使が叶わなかった。予算の議決という極めて重要な職責を全うすべく、今後、公職につく議員の公務等による本会議欠席の際の議決権が担保されるよう、衆議院ならびに参議院規則の改正に向けた議論をすすめるべきである。

3. 女性議員の妊娠・出産時における議決権の担保

上の論点と同じく、国会議員の本分たる国民の代表としての責任、使命を果たす上では妊娠・出産という特定の期間の議決権を担保すべきと考える。これは、議会制民主主義の大きな前進にもつながる。速やかに実行に移すためにも予算や技術開発に大きな負担が考えられる「遠隔投票」ではなく、署名をともなった書面など、できるだけ速やかな実施にむけ出来ることから最大限の努力を求める。

4. 『ハイブリッド国会』の速やかな実現

国会審議の場において、いわゆる「3密」の回避ができていないことが各方面から指摘をされている。議員の感染は国会審議の停滞にも直結する問題であり、出来得る限りの対策を講じるべきである。

そこで、議場や委員会室等への入室に限らず院内TVやネット中継の視聴、Web会議への参加も「出席」とみなすとともに、いわゆる「3密」回避の実効性を担保するためにも、一定数以上の議員を予めそれらの出席方法に割り当てることを求める。なお、採決についても通信の安全性・安定性を確保した上でオンラインでの投票を実現すべきであるが、速やかな実施の観点から、当面は議場、委員室等に参集して行うこととする。

出典:『コロナを機に社会改革PT』 ポストコロナ社会の国会・政党改革に向けた緊急提言

他にも、自民党青年局長の小林史明衆議院議員が、デジタル規制改革の緊急提言をまとめ、安倍首相に提言。

押印(はんこ)原則の見直しなどを求めている。

(1)オンライン教育

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止の観点から、あらゆる教育機関におけるオンライン教育を実施するために必要となる制度整備、環境整備のための支援を措置すべき。

(2)対面原則・書面原則などの徹底的見直し

対面原則・書面原則・押印原則など、感染症の感染拡大の防止のために協力しようとする国民・企業の活動(テレワーク等)を妨げかねない、法令関係の政省令や要請事項の徹底的な点検・見直しを実施するとともに、経済界と連携して商習慣の見直しにも取り組むべき。

(例:保育所入所の申請時に、住民が自治体に提出する「就労証明書」において、勤務先の社印を

押印しなければならず、証明書の作成・提出をインターネットで完結させることができない。)

この際、マイナンバーカードは、対面などを行わず、インターネット上で、高精度の本人確認を可能とするデジタル技術であることから、その利用場面を一層拡大し、国民の取得を促進すべき

出典:新型コロナ対応を機に進めるべきデジタル規制改革 緊急提言

永田町は日本で最も年功序列が根強く残っている場所だと思うが、こうしたデジタルへの対応、これまでとは大きく異なる、現役世代のライフスタイルの急激な変化などを考えると、今後はこうした変化に敏感な若手議員が中心となって政界をリードしていくべきではないだろうか。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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