JAXAに在職しながら出馬。「立候補休職制度」は議員のなり手不足解消に一石投じるか
国民民主党が「超目玉候補」として、夏の参院選東京選挙区に擁立することを発表した国立研究開発法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)職員、水野素子氏。
一般的には、会社を辞めて立候補するケースが多いが、水野氏は在職しながら、JAXAの「立候補休職制度」を利用し、休職して出馬するという。
近年、地方選挙では候補者が足りない「なり手不足」が深刻化し、無投票選挙が増え続けているが、この「立候補休職制度」が広まれば、政治家のなり手不足解消に繋がるかもしれない。
深刻な議員「なり手不足」
無投票当選者が過去最多となった2019年統一地方選。
2019年3月29日に告示された41の道府県議会議員選挙では、合わせて945の選挙区のうち、全体の39%にあたる371の選挙区で定員を超える立候補者が存在せず、計612人が無投票で当選となった。
これは、前回・2015年の時よりも、111人増え、総務省に記録が残っている1951年以降、最も多い数字となった。また、定員全体に占める割合も、前回より5ポイント高い27%と最も高くなった。
「なり手不足」の原因は様々な点が指摘されているが、大きく2つの原因が考えられる。
一つは、「政治家の魅力のなさ(やりがいを感じない)」だ。
これはそもそも、政治家の具体的な仕事内容や役割自体が国民に理解されていないのが大きい。
マスコミに大きく取り上げられるのは、スキャンダルなど、ある種特殊な(多くがネガティブな)事例ばかりであり、政策立案に向けて日々地道に活動している姿が報道されることは多くない。
教育の場においても、大枠の選挙制度や行政の仕組み、投票の方法については教えられるが、具体的な政治活動や選挙活動、出馬する方法について教えられることはほとんどない。
また実際に政策決定プロセスなど、透明性も低く、学べる場面は少ない。
結果的に、日本においては、「政府」や「政治家」への信用度が世界の中で最も低い国の一つとなっている。
出典:「日本国民の政治家への信頼度はなぜ世界最低レベルなのか」(ダイヤモンドオンライン・本川裕)
そして、もう一つが「職業としてのリスクの高さ(その割に待遇も悪い)」だ。
こちらも同様に、政治家が褒められることは稀であり、目立つのはスキャンダルや失言など、多くがネガティブな事例ばかりである。最悪、一つの失言で議員辞職になり、急に無職になるリスクも抱えている(失言の是非はここでは問わないが、ここまで言質の重い職業は政治家と芸能人ぐらいであろう)。
もちろん、選挙に落ちればすぐに無職になる。
その一方で、多くの政治家がほとんど休みなく、日々活動しており、体力的にもかなり厳しい職業の一つだ。
しかし、特に町村議員は待遇が悪く、2015年の統一地方選では、議員報酬が月額16万3000円未満の議会の37%が無投票になっており、報酬が低くなるほど無投票になりやすい傾向にある(参考記事:無投票になった町村議会の平均報酬月19万5495円、NHK)。
さらに、日本では、仕事を辞めて立候補するケースが多く、出馬のリスクも大きい。
一部の企業では、今回のJAXAのように、「立候補休職制度」が整備されており、仮に落選してしまった場合でも会社に戻れるようになっている。
「(本気の姿勢を見せるために)退路を断って出馬すべきだ」という意見もあるだろうが、それでは戻りやすい弁護士などの特定の職業、地盤が整っている二世、資産家ばかりが立候補することになってしまい、政治家の多様化は進まないであろう。
また同様に、一部の企業では、在職中は無給の休職が認められる企業も存在する。例えば、NTTドコモでは、三期まで無給の休職が認められる「議員休職制度」が存在し、実際に東京都江東区議を務める鈴木綾子氏は現在もNTTドコモに在職中だ。
こうした仕組みを、海外では制度によって保障しており、政治家になるハードルが低くなっている。
例えばドイツやイタリアでは、法律によって、選挙準備のための休暇請求権、職務行使の自由、 補償請求権、国有交通機関の無料利用権が認められている。
さらに、ヨーロッパでは多くの国が地方議会は低報酬&兼業を基本としているため、兼業しやすい法律も定められている。
フランスでは下記のように定められている。
・地方議員であるサラリーマンに対し、雇用主は、本会議又は委員会等への出席を許可しなければならない(その時間分の給与は無給にできる)。
・人口3,500人以上の地方議会議員であるサラリーマンに対し、雇用主は、議会への出席等の準備に必要な時間を3か月毎に一定範囲で与えなければならない(その時間分の給与は無給)。
・議会活動に関し報酬を受け取らない地方議会議員は、議会活動によって余儀なくされた減収に対し、一定の補填措置を受けることができる。
過去には民主党が「立候補休暇に関する法律案」を提出
日本においても、同様の制度は、以前から検討されており、2001年・2002年には民主党が「立候補休暇に関する法律案」を国会に提出している(審議未了により廃案)。
今後、議員のなり手不足を解消するためには、社会全体でどう政治家を育てるか考えなければならず、サラリーマンが出馬しやすい環境作りは欠かせない。
そして、政治家を経験したことのある有権者が増えれば、現場への理解が増え、確実に民主主義の質は上がるであろう。
そのためにも、出馬のリスクを下げ、落選・辞職した後のキャリア形成をどうするか、企業の受け入れ体制も変わっていかなければならないのではないだろうか。