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世界的なデザイナーはなぜJ1札幌と契約したのか サッカークラブが抱える収益の課題

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
コンサドーレのクリエイティブディレクターに就任した相澤陽介氏(スタッフ撮影)

パリコレで今まで何度もショーを発表しているデザイナー、相澤陽介氏が今年の2月、J1北海道コンサドーレ札幌のクリエイティブディレクターに就任した。今夏には相澤氏がデザインしたコンサドーレのアパレル商品が発売され、即完売するほどの人気ぶりだ。既にホワイトマウンテニアリングというブランドを自ら手掛けているデザイナーが、なぜJリーグの1クラブと契約を結んだのか、本人に伺った(取材日:2019年8月20日)。

野々村社長の「姿勢」に惹かれた

アシシ:相澤さんとコンサドーレがタッグを組むというニュースは、ファッション界とサッカー界の異色のコラボとして、ファッション誌やスポーツ新聞などで大きく報じられました。GQJAPANの記事を読んだのですが、野々村社長の口説き文句に胸を打たれたそうですね。

「相澤さんのデザインでグッズの売り上げが伸びて、観客動員数が増えれば、将来有望な選手が獲得できる。そうすれば、クラブがさらに強くなれるし、ACL出場も夢じゃないと言われたんです」

出典:GQJAPAN

相澤:そうですね。僕自身もサッカー観戦が大好きなので、自分が関わることでチームが強くなるという点はとても魅力的に感じました。

アシシ:野々村社長は本当に人心掌握力に長けた人ですよね。昨年からクラブが使い始めた「新しい景色を見に行こう」というフレーズも、我々サポーターの心を鷲掴みしています。先日の清水戦の8-0スコアとか実際に今まで見たことのなかった景色ですし、掲げたビジョンを実際に具現化してくれる経営者だなと。

相澤:やはり野々村社長のチャレンジングな姿勢に惹かれましたね。僕も自分でブランドを持って、会社を経営している立場なので、どんどん新しいものを取り入れていかないと会社やブランドが立ちゆかなくなるんです。いわゆるトライ&エラーを繰り返せる人かどうかが、僕が一緒に仕事をする中で非常に大事になってきます。

アシシ:たしかに野々村社長はJクラブとしては初となる広告代理店との長期大型契約を結んだり、Jリーグの中でもいち早くアジア戦略に取り組んでタイからMFチャナティップを獲得したり、毎年何かしら新しいことにチャレンジしています。

相澤:例えば、親会社から出向で来ている人がトップにいる組織だと、どちらかというと守りの経営になってしまうじゃないですか。野々村さんはその真逆で、スピード感を持って新しいことに貪欲にチャレンジし続ける人なので、一緒に仕事をする上で波長が合うだろうなと感じました。

企画から販売まで一気通貫で手掛ける

アシシ:日刊スポーツの記事で相澤さんは単にグッズのデザインだけではなくて、生産から販売まで手掛けたいと話していました。その点、詳しく聞かせてください。

相澤:今まで各クラブのベーシックなグッズは、Jリーグマーケティングが一括して企画と製造を行ってきていたんですが、今季からその規制が緩和されて、各クラブが自由に企画していいことになったんです。

アシシ:その規制緩和については、昨年末にJリーグが発行したPUB Report 2018で発表されていましたね。

相澤:その規制緩和を受けて、新しいグッズをコンサドーレが独自に作ろうと。そのディレクションを任されたわけですが、そこで仮に僕がデザインだけ担当して、コンサートのツアーグッズのようにペラペラのTシャツにプリントだけしてあるような商品が出来上がってきてしまったら、元も子もないわけです。僕がファッション界で培ったノウハウを使って、企画から販売まで全部手掛けるのが、僕の役割だと思っています。

アシシ:販売プロモーションの観点でいうと、7月に発売された第1弾のアパレルのPVは、さすがのクオリティでした。

相澤:あのビデオの撮影は、過去にハンティングワールドやバートンの仕事で一緒にやってきたスタッフに依頼して作ってもらいました。僕は当日日本にいなかったんですが、今まで一緒にやってきたクリエイター仲間に直接お願いすることで、限られた予算の中で最大限のクオリティを出せるわけです。

選手のセカンドキャリアを見据えた事業

アシシ:企画から販売まで一気通貫で手掛けるということは、既にデザイナーという枠を超えて、ひとつの事業ですよね。

相澤:そうですね。将来、コンサドーレの会社内にグッズ販売だけの事業部を作ることが僕のミッションだと思っています。

アシシ:今はそういった物販専門の部署がコンサドーレにはないわけですね。

相澤:ないです。ちょっとビジネスモデル的な話をすると、サッカークラブの収益の柱は、大きく分けて3つあります。観客動員による入場料収入、スポンサー企業による広告収入、公式グッズの物販収入の3つです。この3本の矢のうち、グッズ売上の割合が非常に低いのが、Jリーグの各クラブが抱える経営課題なわけです。

アシシ:先ほど紹介したPUB Report 2018でも、J1全クラブの平均として、物販の売上は全売り上げの8.4%という数字が出ていました。3つの柱と呼ぶには、まだまだ改善の余地がありますね。

相澤:その比率を上げていくのが僕の役割です。その結果、部署を作ることができれば、コンサドーレの選手のセカンドキャリアの受け皿になれる可能性もあります。

アシシ:三上大勝GMに以前インタビューした時に「選手のセカンドキャリアをサポートしたい」と仰っていました。相澤さんのその考え方は、クラブの方針ともマッチしますね。

相澤:どこのクラブも同じだと思いますが、今は物を作るという部署がないので、予定を組んで進めていくことが難しいんです。本来は年間の予算を億単位で取って、利益を出すためにはこういったクオリティの商品を売るべきだ、というアプローチが必要で、発想が逆なんです。その仕組みづくりに、ホワイトマウンテニアリングというブランドをゼロから立ち上げた経験を活かせると思うんですよね。

アシシ:なるほど。そこまでくると、デザイン云々の話ではなく、経営論そのものですよね。選手のセカンドキャリアを見据えた事業部の立ち上げまで考えているとは、思ってもみませんでした。

相澤:本業があるので現実的ではないですが、趣味がスノーボードということもあり、札幌に家でも買おうかなんて思ったりもしています(笑)。

アシシ:なんと。札幌サポーターはレンタルで来ている有望な選手によく「札幌に家買っちゃえ」と冗談で言うんですが、その言葉は札幌サポーターの心にメチャクチャ刺さると思います(笑)。

相澤:まだスタートして半年です。今言った構想が形になるのには時間がかかると思います。サポーターの皆さんには長い目で見守っていただければなと思います。

(第1回 了)

第2回 ユニフォームデザインだけではない J1札幌と契約した世界的デザイナーが考えるサッカークラブの未来

第3回 選手が欲しくなるものを コンサドーレが目指すサッカーとファッションの融合

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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