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コンサドーレはなぜ東南アジアに目を向けるのか? 三上GMが語る北海道の未来

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
北海道コンサドーレ札幌の三上大勝ゼネラルマネージャー(スタッフ撮影)

北海道コンサドーレ札幌の三上大勝ゼネラルマネージャー(GM)へのインタビュー連載企画。前回は選手個々人の評価について聞いたが、最終回となる今回は札幌が右肩上がりで成長している要因やアジア戦略の展望、将来のビジョンについて話を伺った(取材日:2018年12月25日)。

チャナティップ獲得の背景

アシシ:ここ数年、コンサドーレの売上は常に右肩上がりです。野々村芳和氏が社長に就任した2013年と比較すると、2018年の予算は3倍近い規模です。理由は複数あると思いますが、成長の要因についてGMの見解をお聞かせください。

三上:野々村を社長に迎えたことで今まで長年継続してきたことが、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプのところまで一気にいけているという認識はあります。では何を継続してきたかというと、よく社員やスタッフ、選手に話しているんですが、「自分たちの会社は、コンサドーレというJリーグクラブを運営している会社ではない。我々の事業は北海道を豊かに、元気にする仕事なんだ。そのツールがたまたまスポーツであり、サッカーなんだ」と伝えています。

アシシ:まさに経営理念の話ですね。企業ビジョンを現場の選手にも伝えていると。

三上:そう。具体的な話をすると、クラブを強くするためだけなら東南アジアの選手をとらずに、平均的な競技レベルが断然上の日本人選手をとればいい。ベトナムのレ・コン・ビンやタイのチャナティップを獲得した時は、Jクラブの関係者から馬鹿にされたこともありました。でも、我々には北海道を豊かにしたいというビジョンがあります。当然戦力にもなるチャナティップを獲得することで、東南アジアと関係を構築したい北海道の企業や団体の橋渡し的存在にコンサドーレがなれるわけです。サッカーってこんな使い方ができるんだとか、スポーツにはこんな力があるんだとか、そういった感想をよく聞きます。今までリーチできていなかった人たちにまで、コンサドーレがリーチできている実感はあります。

アシシ:そのビジョンの具現化を続けてきた中で、野々村氏の社長就任をきっかけにして、一気に花が開いたと。

三上:発信力のある野々村が社長に就任したことで、それが具現化しやすくなり、輪が広がっていったという認識はあります。たとえば、パートナー企業に対して様々な貢献ができるようになってきたことで、「見返りがあるから大丈夫だよ」と協賛金の増額をしていただける企業さんがどんどん増えてきました。こういった状況が、売上増加の要因に繋がっていると思います。

アシシ:そういうことなんですね。コンサドーレはサッカー以外に2017年にバドミントン、2018年にはカーリングのチームを発足しました。これらの動きも「北海道を豊かにしたい」というビジョンに基づいたものですか?

三上:その通りです。どうしたら北海道を豊かに、元気にできるかと考えてきた中で、サッカーだけではやはりリーチできない人もいます。そこで、北海道の総合型スポーツクラブとして他のスポーツにも取り組んでいくことで、サッカークラブの運営で培ったノウハウを地域に還元することもできています。

岩崎悠人が移籍先に札幌を選んだ理由

アシシ:話は変わりますが、三上さんはGMとして、選手が退団する時のサポートを強化しているという記事を先日読みました。具体的な話を聞かせてください。

三上:私が20年前に札幌に来た時、残念ながらコンサドーレはJリーガーにとって墓場だと言われていました。札幌に来ると、すごくいい街でサポーターも素晴らしいけれど、移籍する時は正直、誰も面倒を見てくれない。現役の時はいいけれどもクラブを去る時が大変、という評判でした。この評判を変えないといけないと自分はずっと思っていて、個人的にはイグジットマネージメントという言い方をしているんですが、自分が強化部門の責任者になったタイミングからその分野の改革に着手しました。

アシシ:具体的にどんな改革をしたんですか?

三上:たとえば、12月に開催されるトライアウトへの参加費は基本個人持ちなんですが、コンサドーレではクラブが負担するように変えました。他にも契約満了の選手がチームを探す際にも、条件に合った移籍先が見つかるように、できる限りのサポートをするようにしてきました。おかげでつい最近聞いた話ですが、岩崎(悠人)が数多くのオファーの中からコンサドーレを選んでくれた要因のひとつに、京都でチームメートだった増川(隆洋)の存在があったと聞いています。

※編集部注:岩崎悠人選手が京都から札幌に完全移籍することが12月23日に正式発表されました。

アシシ:なんと。その話はまだメディアに出てないですね。

三上:岩崎自身がコンサドーレに移籍することを決断した理由についてはきっと、ミシャのもとでプレーしたいとか、札幌の可能性だとか、サポーターの熱さだとか、様々な要素があるとは思いますが、増川が「札幌は絶対にいいから」と、相当プッシュしてくれたらしいです。

アシシ:そんなエピソードがあったんですね。増川選手が札幌を契約満了となったのは2017年シーズン終了後ですが、その後の京都への移籍をコンサドーレがサポートしたんですか?

三上:当然しました。彼だけでなく、今まで出ていった選手全員に対してサポートを続けています。選手の希望通りにいかないことも多々ありますが、今回の増川の話を聞いて、そういったサポートを継続してきたことは、間違いじゃなかったんだなと。今度、増川にはお礼の電話をしようと思っています。

JFAの技術委員会強化部会委員の仕事内容

アシシ:ところで、10月に三上さんがJFAの技術委員会強化部会委員に選任、というニュースが出ました。

三上:実は前からその職には就いていたんですよ。

アシシ:そうなんですか。それは初耳です。

三上:正確にいうと、JFAが原さんと霜田さんの体制だった時にも同じようなことをやらせてもらっていました。関塚さんや(山本)昌邦さんが技術委員会の中心になる期間が始まって、最初の頃は関わっていなかったのですが、途中から声がかかって、また同じ仕事に関わらせてもらっています。

アシシ:具体的な業務はどういうことをされているんですか?

三上:日本代表はトップのA代表の下に、オリンピックなどの世界大会に繋がる各アンダー世代があります。各カテゴリーのサッカースタイルや考え方であったり、そのスタイルに合わせた指導者の議論であったり、それこそA代表ならワールドカップの反省であったり、要は今後の日本サッカー界がどう進むべきかという議論をするのが、この技術委員会強化部会という認識です。

アシシ:つまりそのミーティングに呼ばれて、見解を述べるというのが三上さんの役割ですか?

三上:そうですね。

アシシ:では、それ以外の何か定常的な業務はあるんですか?

三上:細かい話をすると、北海道や東北のエリアで今こんなことがおきていて、日本の指導者を育成するために足りないポイントはこういうところにあって、などという提案も含めて仕事をさせてもらっています。

三上大勝GMが描くコンサドーレの未来

アシシ:最後にコンサドーレの今後について話を聞かせてください。数年後に成し遂げたい目標とかありますか?

三上:まずはアジアの舞台で随時戦えるようなクラブにしていきたいと思っています。単なるサッカークラブではなく、それ以上の存在価値を創っていくことで、北海道民が笑顔になったり、健康になったりする、そういうクラブを目指していきたいです。

アシシ:3年以内にACLに出たいと三上さんが発言されている記事を先日読みました。

三上:それは8年前くらいに、8年後にACLに出るという目標を打ち立てて、それが残り3年なんですよ。今でいうと、3年以内にACLに出たいですね。

アシシ: 野々村社長曰く、2019年はラグビーワールドカップで、2020年は東京五輪で札幌ドームが使えない時期があって、札幌ドームがフルで使えるのは2021年まで待たないといけないと。でも札幌ドームをフルで使える2021年に一気に飛躍できるよう、この先2年間は赤字覚悟で攻めの経営をしたいと社長は言っていました。

三上:それは経営面での話ですね。決算上は赤字に見えるかもしれないけれども、十分にそれは将来、回収可能な投資だと認識しています。私自身もコンサドーレの取締役という立場でやらせてもらっていて、社長のその意向には同意しています。

アシシ:ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)の超攻撃的サッカースタイルと同様、フロントの攻めの姿勢も期待しています。今日はありがとうございました。

三上:ありがとうございました。

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・連載企画第1回→都倉賢のC大阪移籍の「舞台裏」をコンサドーレの三上大勝GMに聞いてみた

・連載企画第2回→コンサドーレの三上大勝GMが語るチャナティップと駒井善成の率直な評価

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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