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新曲披露、そして新作へ――平均年齢69歳、日本現存最古のロックバンド・ムーンライダーズ ライヴレポ

宗像明将音楽評論家
ムーンライダーズ(提供:ムーンライダーズ)

現在のムーンライダーズを物語る新曲披露

2021年12月26日に恵比寿ザ・ガーデンホールで開催された「moonriders live THE COLD MOON」で、ムーンライダーズは新曲を披露した。「クリスマスの後で」と題されたその新曲は、ポップで溌溂としていながらメランコリーを含んでおり、現在のムーンライダーズを物語るかのようだった。

前日である2021年12月25日のライヴでは、2022年3月12日に約11年ぶりのニュー・アルバムをリリースすること、その翌日に日比谷野外大音楽堂でワンマンライヴ「moonriders LIVE 2022」を開催することを発表したが、「クリスマスの後で」がニュー・アルバムに収録されるかどうかは未定だという。とりあえず新曲をやる、という前のめり感が嬉しい。

座席に置かれた2022年のニュー・アルバム発売、日比谷野外音楽堂ライヴ開催のフライヤー(筆者撮影)
座席に置かれた2022年のニュー・アルバム発売、日比谷野外音楽堂ライヴ開催のフライヤー(筆者撮影)

ドラマー・かしぶち哲郎死去からの8年

2011年12月31日をもって、一度は無期限活動休止に入ったムーンライダーズ。ドラムのかしぶち哲郎が2013年12月17日に死去した後、2014年12月17、18日に復活ライヴが開催された。その後は再び活動が止まるが、2016年の間は「活動休止の休止」となり、さらにコロナ禍の2020年に活動を再開。2021年12月25日に「一生涯バンドを続ける」と鈴木慶一が宣言することになった。

私は、かしぶち哲郎の死去後のムーンライダーズの東京公演のほぼすべて見ている。ただ、音楽に関する文筆を仕事にしながらも、どうしてもライヴレポートを書くことができずにいた。

宗像 ジャーナリズムの立場で言えば、復活したら、今度は心を入れ替えます。すべての同時代の音楽と比べて。

松本 そうですね。

宗像 それはムーンライダーズという先入観を捨てる。駆け出しの20代のバンドと同列に並べてから批評する。

対談 ムーンライダーズ活動休止に際して〜宗像明将氏と - impact disc

無期限活動休止を目前にした2011年に、私はこんな大口を叩いておきながら、かしぶち哲郎の死後、新曲を発表することがなくなったムーンライダーズのライヴをどう評価していいのか言葉を失い、その評価から遁走してきた。

2018年の私の取材に対して、ギタリストの白井良明は、ムーンライダーズについてこう語っていた。

無理に新曲を作る必要もないし、無理に難しいツアーをする必要もないと思ってますね。どこまでやれるかわからないけれど、ムーンライダーズっていうバンドはゆるやかな時期に入ってきていると思うんですね。人生もそうですけど、最初は元気で、だんだん力が落ちてきて、最後は水になるみたいな。

ムーンライダーズのギタリスト・白井良明インタビュー~芸歴45周年は新しい自分の夜明け

一方で、2018年3月31日に新代田FEVERで開催されたムーンライダーズのファンクラブの解散イベント「MOONRIDERS FAMILY TRUST Farewell Party」での演奏は、既存曲の懐メロ的な消費をまだまだ拒んでいた。ムーンライダーズのリーダである鈴木慶一は、2018年の私の取材の中でも、こう明言していた。

熟してますね』とか『円熟してますね』とか言われることも拒否してた。成熟はあるけどね。

鈴木慶一(ムーンライダーズ)×寺嶋由芙対談~「長くやるためには経験に頼らないほうがいい」

そして2021年、前述のようにムーンライダーズは新曲を発表した。「クリスマスの後で」は、2021年6月12日にEX THEATER ROPPONGIで開催された「moonriders 45th anniversary ”THE SUPER MOON”」で披露された「岸辺のダンス」に続いて、2曲目となる2021年の新曲。2014年の『かしぶち哲郎 トリビュート・アルバム~ハバロフスクを訪ねて』に収録されていた、かしぶち哲郎の未発表曲「Lily」以来、約7年ぶりとなる新曲群だ。

ムーンライダーズというバンドの時計が確実に動きだしている。それに突き動かされて、私はこのライヴレポートを書いている。

コロナ禍以降でもっとも「バンド」としての手ごたえを感じた夜

2021年12月26日の「moonriders live THE COLD MOON」は、ムーンライダーズが舞台袖で演奏しながら注意事項を歌いあげ、それにメンバー同士で茶々を入れる「影アナバンド」の演奏から始まった。

しばし間があって本編へ。ステージ向かって左から、岡田徹(キーボード)、鈴木慶一(ヴォーカル、ギター)、武川雅寛(ヴァイオリン、トランペット、ヴォコーダー)、白井良明(ギター)、鈴木博文(ベース)が一列に並び、武川雅寛がセンターにいるという珍しいセッティングだった。しかも、武川雅寛の前にキーボードがあるのかと思えばヴォコーダーである。

ムーンライダーズ(提供:ムーンライダーズ)
ムーンライダーズ(提供:ムーンライダーズ)

岡田徹は、2021年6月12日の「moonriders 45th anniversary ”THE SUPER MOON”」の際には、ライヴの前日に退院して、ステージの終盤に車椅子で登場したものだ。車椅子で登場したのは2021年12月26日も同じだったが、車椅子から立ち上がり、キーボード前の椅子に座り直した姿に安心した。

そして、後列のセンターに夏秋文尚(ドラム)が位置し、その向かって左を佐藤優介(キーボード/カメラ=万年筆)、右を澤部渡(ギター、ヴォーカル/スカート)と、サポートメンバーが固めた。

ライヴは「独逸兵のように」で幕を開け、新旧の楽曲を披露していった。コロナ禍で聴く「Y.B.J.」のサイバーパンク感にはしびれた。「Cool Dynamo, Right On」のポップさとリズムのソリッドさには心躍った。「ボクハナク」の冒頭は、メンバーがアカペラで歌ったが、驚くほど安定したハーモニーだった。

そして、この日は「プラトーの日々」「スプーン一杯のクリスマス」といったかしぶち哲郎作品も演奏された。ただ、2022年のニュー・アルバムにかしぶち哲郎の楽曲が収録されないことが、鈴木慶一のMCで明かされた。正直なところ、かしぶち哲郎の遺作が収録されるのでは……という期待もあったのだが、ムーンライダーズは「今」を生きようとしている。平均年齢69歳となっても、である。

鈴木慶一(提供:ムーンライダーズ)
鈴木慶一(提供:ムーンライダーズ)

また、この日は前述の「スプーン一杯のクリスマス」「クリスマスの後も」のほか、クリスマス・ソングとして「I am a Robot Santa Claus」が本編の最後に披露された。鈴木慶一はライヴで演奏した記憶がないと言っていたが、私も見たことがない。そして、「I am a Robot Santa Claus」の冒頭を歌いだしたのが佐藤優介、というのも新鮮であった。

澤部渡も、鈴木慶一のヴォーカルにハーモニーをつけることもあれば、ひとりで歌うこともあり、ごく自然にムーンライダーズのヴォーカリストを務めていた。佐藤優介と澤部渡は、2021年6月12日のEX THEATER ROPPONGIにも参加していたが、ムーンライダーズの演奏への関わり方が深まって、より有機的になり、彼らも含めた8人でのムーンライダーズを見た感覚があった。その点で、コロナ禍以降に見たムーンライダーズで、もっとも「バンド」としての手ごたえを感じた夜だった。2020年8月25日の無観客配信ライヴ「moonriders special live カメラ=万年筆」に比べれば、実験性こそ薄かったが、近年のムーンライダーズのライヴとしてはベストとすら感じたのだ。

左から鈴木慶一、白井良明、武川雅寛(提供:ムーンライダーズ)
左から鈴木慶一、白井良明、武川雅寛(提供:ムーンライダーズ)

アンコールでは、冬を舞台にした「大寒町」、ベートーヴェンの「第九」に日本語詞を乗せた「No.9」も披露されるなど、季節感に溢れたムーンライダーズであった。それは、すでに来年3月への準備が進んでいるからのものでもあったのだろう。

鈴木慶一はMCで、レコーディングをしながらライヴをするのは20代の頃のようだと笑った。2022年には、メンバーの平均年齢が70歳になる、日本現存最古のロックバンド・ムーンライダーズ。彼らが20代のように無茶をしようとしている姿を見続けたい。

ロゴは白井良明の父親の手によるものだという(筆者撮影)
ロゴは白井良明の父親の手によるものだという(筆者撮影)

<2021年12月26日『moonriders live THE COLD MOON』セットリスト>

01.独逸兵のように

02.Come sta Tokyo?

03.駅は今、朝の中

04.プラトーの日々

05.Love me tonight

06.Y.B.J.

07.VIDEO BOY

08.いとこ同士

09.HAPPY LIFE

10.Cool Dynamo, Right On

11.スプーン一杯のクリスマス

12.恋人が眠った後に唄う歌

13.ボクハナク

14.トンピクレンッ子

15.BEATITUDE

16.I am a Robot Santa Claus

EN1.クリスマスの後も

EN2.大寒町

EN3.No.9

「moonriders live THE COLD MOON」のポスター(筆者撮影)
「moonriders live THE COLD MOON」のポスター(筆者撮影)

(※記事初出時、『クリスマスの後で』が7年ぶりの新曲と記述しましたが、それ以前に2021年には『岸辺のダンス』もあり、修正しました)

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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