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鈴木慶一(ムーンライダーズ)×寺嶋由芙対談~「長くやるためには経験に頼らないほうがいい」

宗像明将音楽評論家
鈴木慶一と寺嶋由芙(撮影:梅本高志)

 2018年3月2日に映画「アウトレイジ 最終章」の音楽で「第41回日本アカデミー賞」の最優秀音楽賞を受賞した鈴木慶一。日本現存最古のロック・バンドであるムーンライダーズのリーダーでもある彼は、2018年4月25日にリリースされる寺嶋由芙のセカンド・アルバム「きみが散る」で「結婚願望が止まらない」の作曲を手がけている。今回の楽曲提供は、2016年11月5日深夜に放映された「japanぐる~ヴ」(BS朝日)で、MCの寺嶋由芙とゲストの鈴木慶一が共演したことから実現したものだ。

 鈴木慶一は、高橋幸宏とのTHE BEATNIKSのニュー・アルバム「EXITENTIALIST A XIE XIE」を2018年5月9日にリリースし、5月11日にはEX THEATER ROPPONGIでワンマンライヴを開催するなど、その活動は衰えというものを知らない。

 今年でミュージシャン生活48周年を迎える鈴木慶一と、ソロ活動5周年を迎える寺嶋由芙。約10倍のキャリアの鈴木慶一に寺嶋由芙が聞いた、長く活動するコツとは……?

THE BEATNIKS。左から鈴木慶一、高橋幸宏(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)
THE BEATNIKS。左から鈴木慶一、高橋幸宏(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)
寺嶋由芙(提供:ディアステージ)
寺嶋由芙(提供:ディアステージ)

出会いは「MOTHER」とともに

――2016年11月5日深夜に放映された「japanぐる~ヴ」で初めて会ったときのお互いの印象を教えてください。

寺嶋由芙  あの日は番組がリニューアルして、鈴木さんも来てくださるし、私はものすごく緊張していました。

鈴木慶一  実にちゃんとうまくしゃべれる人だなって思いましたね。うまくしゃべれるというのは、具体的に言うと司会進行としてちゃんと流せる。

寺嶋由芙  いやいや、ありがとうございます。

鈴木慶一  あの日は一緒にゲームをやったんだよね。

寺嶋由芙  一緒に「MOTHER」(1989年に発売されたファミリーコンピュータ用ゲーム。音楽を鈴木慶一と田中宏和が担当)をやらせていただいて。当時の機械を用意してもらって、古き良きファミコンを一緒にやらせてもらいました。

――その時は「Eight Melodies」(『MOTHER』で使用される楽曲)が流れるところまでいったんですか?

鈴木慶一  行かない。だって10分ぐらいしかやってないもんね(笑)。始まりのところを一緒にやった。

「結婚願望が止まらない」は妖しいほうへ持っていこうと思った

――寺嶋由芙さんのサウンド・プロデューサーの加茂啓太郎さんが担当しているアーティストでは、田中茉裕さんの2014年の「I'm Here」を鈴木慶一さんがプロデュースしていました。今回の寺嶋由芙さんへの楽曲提供では、加茂啓太郎さんからどういうオーダーがありましたか?

鈴木慶一  何もないんじゃないの? 詞先だったしね。歌詞を見て「あの時そういえば『曲を書いてください』って言われたな」と思い出した。「いいよ」と言ってから1半年ぐらいで実現するのは早いほうだと思いますよ。

寺嶋由芙  ありがとうございます。あのときは私も「とにかく言ってみよう」という感じで、叶うわけないと思って言った部分もあったので、今回すごく嬉しかったです。

鈴木慶一  私も嬉しかったですよ、こんなに早く実現するとは思わなかったので。昔から知ってる加茂さんから依頼が来て、「あ、プロデューサーなのか」と思って。

――いしわたり淳治さんが書いた「結婚願望が止まらない」の歌詞を読んでいかがでしたか?

鈴木慶一  すげータイトルだなとまずは思うわな(笑)。他を見てもすげータイトルだよね、「終点、ワ・タ・シ。」とか「知らない誰かに抱かれてもいい」とか。ここまで言い切っちゃうのかと思いましたよ。

――ムーンライダーズや鈴木慶一さんのソロではないタイプの曲名ですよね。

鈴木慶一  ないね。もうちょっと曖昧だから。

寺嶋由芙  具体的すぎますよね(笑)。

鈴木慶一  でも、「結婚願望が止まらない」というタイトルが歌詞に織りこまれてるわけじゃん。これをどうしたらいいかなと考えて、まず「結婚願望が止まらない」っていう歌詞のメロディーを作ろうと思った。

寺嶋由芙  まずそこが最初ですか?

鈴木慶一  そう。

――作るにあたってイメージはどうやって膨らますものなんですか?

鈴木慶一  歌詞があるとかなり違うね。THE BEATNIKSも含めて、曲を先に作るからね。曲を作って、アレンジをして、それにちょうどいい歌詞をはめていくんだよ。だからまず景色や映像を作って、そこにセリフを入れていくようなものなんだ。だから先に歌詞があると、セリフはあるから映像を作らないといけないんだよ。歌詞も「結婚したい」って気持ちがどんどん強くなってくるじゃない? だからその時間の流れみたいなものがあるよね。

寺嶋由芙  結婚式の帰り道と、お家に帰ってきてからの流れがありますね。

鈴木慶一  「結婚願望が止まらない」という歌詞の2行ぐらいをまず考えたんだよ。それで頭に戻る。その頭の4行もサビっぽく作ったと思います。

寺嶋由芙  いただいた時にどこがサビかな……と言ったら変ですけど、どんどん変わっていくメロディーになっていたので、すごく可愛くて。

鈴木慶一  サビから始まって、サビが2か所ある感じだね。本当にすいません、複雑で。

寺嶋由芙  いや、それが嬉しかったです。

鈴木慶一  頭をサビにしてしまおうと思ったけど、もう一回サビが出てくる。構成で言うと「ABCD」みたいになる。Dメロの「孤独という名の毒リンゴ持って」のところはちょっと妖しくしようかなと思った。

――そこがアラブ風になってるじゃないですか。ムーンライダーズが中近東に接近した1977年の「イスタンブール・マンボ」のアウト・トラックだと言われても信じるなと思いました。

鈴木慶一  ここはそうしちゃおうかなと。歌詞の影響ですよ。

寺嶋由芙  「魔女」とか?

鈴木慶一  歌詞が妖しいから、妖しいほうへ持っていこうと思ったね。結果的にABCDみたいな構成になっちゃったし、Dメロは一回しか出ないから、その後どうサビに戻るかっていうのが大変でね。盛り込みすぎたかな。

寺嶋由芙  覚えるのは一番時間がかかったかもしれないです。展開がどんどん変わるし、音階がすごく細かく変わっていく曲だったので、一回勘違いして覚えちゃうとそのまま間違って歌っちゃうから、今回は譜面もいただいて、ガイドメロもしっかりいただきました。

鈴木慶一  とりあえず1番だけ送って、それを歌ってもらったのを聴いて、2番の音符の譜割りがちょっと不自然かなって思ったんだよね。だから譜面を書いて。

寺嶋由芙  ありがたかったです。1番のデモを元に2番も勝手に譜割りを当ててみて、フルで歌ったものをお戻しして確認していただいて。

鈴木慶一  そこでちょっと2番はまた直してね。字数が微妙に違うので。

――(『結婚願望が止まらない』の楽譜を見ながら)これは何のために作成したものなんですか?

寺嶋由芙  仮で歌ったフルサイズのものを、どうやって訂正したらいいかを教えていただくために楽譜を送っていただいて、これを見ながら本当のメロディーで録れたという感じです。

――ちなみに鈴木慶一さんの最初のデモって自分で歌っているのですか?

鈴木慶一  男性への曲なら自分で歌うけど、女性の曲の場合は上野洋子さん。多くの場合は歌わないね。メロディーを入れておいてそれで譜面を渡して、ニュアンスを付けちゃわないようにする。

寺嶋由芙  確かにわりと淡々と歌っているデモをいただきました。

――上野洋子さんが歌っているのは豪華なデモですね。メロディーがアラブっぽくなるところは歌うのが大変だったのではないでしょうか?

寺嶋由芙  難しかったです。でも、雰囲気がそこでガラッと変わるのが楽しいし、ライヴで歌うのも楽しいです。振り付けをミキティー本物先生(二丁目の魁カミングアウト)にやっていただいたんですけど、ミキティーも「この曲いいわね、泣いちゃう。メロディーが最高よ」って言いながら振りを付けてくれたので、かなりみんなに刺さっている曲だと思います。

鈴木慶一  あの部分は音を延ばさなきゃいけないんですよ。コブシみたいなものだから。

寺嶋由芙  コブシができてるかは謎なんですけど、そういうイメージはデモの時から思っていたので、なるべく近づけるといいなと思いつつ歌いました。

寺嶋由芙「きみが散る」通常盤(提供:テイチクエンタテインメント)
寺嶋由芙「きみが散る」通常盤(提供:テイチクエンタテインメント)

大まじめに歌うことで生まれるキッチュ感

――「結婚願望が止まらない」のアレンジは、ムーンライダーズの2013年の「モダーン・ミュージック スペシャル・エディション」で「Disco Boy」のリミックスを担当したrionosさんです。鈴木慶一さんの感想はいかがでしたか?

鈴木慶一  お任せして良かったなと思うよ。自分で作って自分でアレンジもやるとイメージが固まっちゃうので、自由にやってもらえたらと思って、本当にピアノだけで渡してるもんね。彼女がアレンジするので、コード進行がわかるようにMIDIを渡して、装飾的なものはもうお任せ。

――もし鈴木慶一さんがアレンジしてたらどんな感じになりましたか?

鈴木慶一  どんなだろうな? アラビックなところはもっとアラビックになっていたかもしれない。基本的にこれは昭和的アイドルソングだよね。80年代狙いなんですよ。

――1980年代だと30年前、寺嶋由芙さんは生まれていないですね。まさに渡辺美奈代さんを鈴木慶一さんがプロデュースしていた時代ですね。

鈴木慶一  なんかその雰囲気が出ちゃったね。それってはるか30年前なので、21世紀にどうやって受け止められるのかなっていうのもあるよね。昭和のバブルの時期でしょ?

寺嶋由芙  古き良き感じは大事にしたいなと思って。歌詞自体も古き良き価値観で、いしわたりさんが狙ったものだと思うんです。「25歳を過ぎたらお嫁に行かなきゃ」と言われてた頃の古き良き感じが歌詞から出ていて、それを曲でさらに強めていただいて、すごく古き良き感が強まっているなと思います。

鈴木慶一  古き良き時代の結婚に対する考え方の歌詞だよね。

寺嶋由芙  私も歌うにあたって、その世界観をやりきるのが大事かなって思って。曲も可愛いし、今歌うとちょっとギャグみたいな歌詞じゃないですか? それでちょっとおちゃらけ系に私が歌ってたら、「もうちょっと切実に」と加茂さんに言われました。大まじめにやるということが大事なんだなと思いました。

鈴木慶一  それがキッチュ感になるんだよね。キッチュなんて死語のようなものですが。

――ということは、今回の寺嶋由芙さんのヴォーカルは正解なんですね。

寺嶋由芙  良かったです。

――完成した音源を聴いて、rionosさんのサウンドがイントロからしてムーンライダーズっぽいなと思いました。

鈴木慶一  そうだよね。できあがって「やり終わった感」がすごくありますよ。これはいい組み合わせだったね、ナイスチョイスです。スネアの感じでそう思うんだ。

――加茂啓太郎さんは「イスタンブール・マンボ」をリファレンスとしてrionosさんに渡したそうですが、1977年だから41年前なんですよね。

鈴木慶一  泣けてくるぐらい昔だね。41年前だって。ゆっふぃーは生まれてるどころか……。

寺嶋由芙  私もrioちゃん(rionos)も生まれてないです(笑)。

寺嶋由芙「きみが散る」初回限定盤(提供:テイチクエンタテインメント)
寺嶋由芙「きみが散る」初回限定盤(提供:テイチクエンタテインメント)

「結婚願望が止まらない」が内包する約半世紀の音楽史

――鈴木慶一さんとアイドルというと、渡辺美奈代さんの1988年の「ちょっとFallin' Love」や「抱いてあげる」、「いいじゃない」、1989年の「愛がなくちゃ、ネッ!」や「Winterスプリング、Summerフォール」 のプロデュースを思い出します。アルバムなら1988年の「My Boy」や1989年の「恋してると、いいね」もありました。

鈴木慶一  30年前どうやって作っていたかと言うと、その後「渚十吾」という名前になるディレクターの黒田(日出良)さんとふたりで好き勝手やってたな。黒田さんと私でギターを持って、どっちも止まんないんだよ。「ギターサウンドが止まらない」(笑)。一日中ずっと鼻歌でデタラメな言葉で歌って、それをカセットで録っておいて、後で「今の良かったからちょっと聴いてみよう」とか「これと2時間前にやったやつをつなげて……」とか大量に作ったね。100曲ぐらいをつないで2曲ぐらいにするわけだ。「このアレンジはヴァン・ダイク・パークス」とか、実はロック・ヒストリーが断片としていっぱい入っているんだよね。で、基本的にはフィル・スペクターな感じだよね。

――鈴木慶一さんも渡辺美奈代さんの楽曲を作っているときはフィル・スペクター気分でしたか?

鈴木慶一  「ちょっとFallin' Love」って完全にフィル・スペクターなんだけど、それだけでは語りきれないいろんなものも入っている。黒田さんと私は2歳ぐらい歳が違うんだけど、たぶん同じような音楽を聴いていた。それは何かって言うと、60年代のラジオでかかるヒットチャートで、その頃ってデタラメなんだよ。たとえばアメリカでヒットした曲もあるし、イギリスでヒットした曲もあるし、しかもヨーロッパの映画音楽が入ってたりとか、なんでもあり。「ウスクダラ」みたいな、"One-hit wonder"(一発屋)の怪しげなものがいっぱいあったんですよ 。英米じゃ囲いきれないような変なものが。日本のヒットチャートも60年代は特殊だったので、いろんな音楽が聴けましたね。

――「ウスクダラ」ってもともとは誰の楽曲なんでしたっけ?

鈴木慶一  あれはトルコ民謡でしょ。アーサー・キットっていう黒人の女性シンガーが歌ってヒットした。1950年代。

――トルコ民謡や、1960年代のヒットチャートの要素が、約半世紀の時を越えて寺嶋由芙さんの「結婚願望が止まらない」に入っているわけですね。

寺嶋由芙  半世紀の重みを今感じています(笑)。

――「ウスクダラ」はムーンライダーズも「イスタンブール・マンボ」でカヴァーしていますね。アーサー・キットのヴァージョンは1953年です。

鈴木慶一  1953年って、俺が生まれたばっかだよ(笑)。

――65年前だから、四捨五入すると100年近くの音楽史が「結婚願望が止まらない」に入っているということですね。

寺嶋由芙  責任重大な感じに(笑)。

鈴木慶一  音楽というのは面白いもので、変なものがみんなの記憶に残る。それは私の記憶に残っているだけかもしれないけど、ヒストリーみたいなものを確認するとより面白いかもね。「そんな前のものが一瞬入っているのか」って。

寺嶋由芙  ルーツをたどるとすごく壮大なことになりますね。

鈴木慶一  でも、それは背負わなくていいですよ。作る側の楽しみとしてそういうのが隠れているわけで、歌う時にそれを全部知って歌うなんて大変だから。歳を取って40年後ぐらいに「あの歌を歌ってたな」っていうのを検索するじゃない? するとそういう情報がいっぱい出てくるかもしれない。40年後だったら「『ウスクダラ』は105年前の曲か」とかね(笑)。

鈴木慶一が見た秋葉原ディアステージ

――鈴木慶一さんからは今のアイドル・シーンはどう見えているでしょうか?

鈴木慶一  簡単に言うと、80年代はアイドル・シーンというのは一層だったと思うんだよ。それはテレビに出て歌うとかね。現状は非常にややこしくなっていると思う。そこが面白くて、あちこちに点在していると思うんだ。だから多様化しまくっているよね。何年前だろうな、よく秋葉原に行ってたの。「秋葉原研究しよう」と言ってナイトクルージングをしてね。まず秋葉原ディアステージに行ってパフォーマンスを見る。サエキけんぞう(パール兄弟)に連れられて、5軒ぐらい行ったね。最後は深夜までやってるもふくちゃん(福嶋麻衣子。秋葉原ディアステージの創設者)のやっているクラブ。

――MOGRAですね。

鈴木慶一  秋葉原ディアステージはけっこうショックを受けた。出てきて歌った女の子が、次の瞬間には3階にいるからね。最後閉店の時にまた1曲歌うわけだ。

――アカペラで歌う「ラストソング」ですね。不思議なもので、秋葉原ディアステージの運営元のディアステージのマネージメント部門に寺嶋由芙さんは所属しているんですよ。

寺嶋由芙  やりたいとは思いつつ、まだ一回もお店には出てないんですけど。

鈴木慶一  不思議なもんだね。いろいろ動いているとつながりができるもんですね。

――私は鈴木慶一さんが秋葉原ディアステージに行っていたことに驚きました。

鈴木慶一  驚いたのは、あそこにいるおとなしそうな人たちが突然踊りだすこと。オタクのスイッチが入るわけだ。それもイメージと違ってたね、みんな汗だくで。

寺嶋由芙  もはやスポーツですよね(笑)。

鈴木慶一  私のControversial Sparkっていうバンドは、毎年正月にライヴを新代田FEVERでやるんだけど、アイドル枠を作ったんだよね。一番人の山ができたのがゆるめるモ!。私は必ず舞台の袖で見ているんだけど、あの子たちは柵の上まで乗るじゃない? 横で心配しながら見ていたんだけど、フロアにだんだん人のタワーができて「うわーすげーこれ」とか思って驚いたな。

――いわゆるリフトですね。人がどんどん積みあがっていって、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」みたいになる。

鈴木慶一  まさにそれを思ったんだよ。これは下は地獄なのかと(笑)。あれはどうやって作るの?

――自然発生的にできるんです。

寺嶋由芙  演者側からはそれがいつもすごく謎で、オタクたちが事前に綿密な打ち合わせをしているのかと思うんですけど、そうじゃないみたいで。ライヴが始まってすごく楽しくなっちゃうと自然とあれが組みあがるみたいなんです。どういう能力なのかわからない(笑)。

――音楽でいうとフリー・セッションみたいなもので、その場にいる人間の阿吽の呼吸でできあがります。

寺嶋由芙  すごいコミュニケーション能力だなと思います(笑)。

鈴木慶一  それは面白い。てっきり毎回「この人がこの位置」って決まっているのかと思った。でも、人の上に人が乗ってるわけだよね。それは自然にできちゃうわけ?

――はい、自然にできます。

鈴木慶一  すげーな(笑)。

寺嶋由芙  みんなサーカスとかやったほうがいいですよ(笑)。

2018年3月31日と2018年4月1日の赤い薔薇

――2018年3月31日にムーンライダーズのファンクラブの解散イベント(『MOONRIDERS FAMILY TRUST Farewell Party』)があって、再び無期限活動休止に入りましたが、翌4月1日には寺嶋由芙さんのワンマンライヴ(『寺嶋由芙のレッツぐる~ヴが止まらない』)があって「結婚願望が止まらない」を歌っていたんですよ。その瞬間、前日のムーンライダーズを思い出してグッときたんです。こうしてある意味で継承されていくんだな、と。

寺嶋由芙  4月1日は「japanぐる~ヴ」がサポートで入ってくれていたワンマンライヴだったので、アンコールの一番最後に「結婚願望が止まらない」を歌わせていただきました。ゆるキャラが10体来るライブだったんですけど、一緒に10体踊ってくれて、ゆるキャラと一緒に「結婚願望が止まらない」って言ってる狂気の絵面でしたね(笑)。楽しかったです。

鈴木慶一  (当日の写真を見ながら)薔薇を持ってたんだっけ?

――「薔薇」はムーンライダーズにとって重要なモチーフですね。1982年の「マニア・マニエラ」でも、最初の「Kのトランク」と最後の「スカーレットの誓い」の歌詞に登場します。3月31日のライヴのアンコールは「スカーレットの誓い」でした。

寺嶋由芙  赤い薔薇をゆるキャラに一本ずつ持ってもらって、プロポーズしに来る演出にしたいなと思ったんです。その赤い薔薇を持っていたことで、ムーンライダーズのファンの方が「慶一さんの曲だからですか?」と言ってくれたりして。偶然だったんですけど、そうやって喜んでくれる人もいたんです。

鈴木慶一  計画してやってなくてもつながる時があるんだね。

寺嶋由芙  それはすごいなと思いました。

鈴木慶一  そういうリンクっていうのは、インターネット的でもあるね。検索して「ここでこうつながってるのか」っていうのが後でわかったりする。偶然につながっていってしまうのは集合的無意識みたいな感じがしないでもない。

――カール・グスタフ・ユング的ですね。

まじめに音楽をやっているだけ

――鈴木慶一さんというと私にとってはムーンライダーズなのですが、特に2003年の「座頭市」以降は映画音楽家のイメージも強いと思います。「アウトレイジ 最終章」では日本アカデミー賞の最優秀音楽賞も獲られました。でも、ある人には「MOTHER」のゲーム音楽の人、ある人にはCMソングの人かもしれないですよね。寺嶋由芙さんもアイドルだし、タレントだし、ゆるキャラMCだったりするんです。いろんな立ち位置にいる点は似ているかもしれないと思うんです。

鈴木慶一  日本中のゆるキャラが頭の中に入ってるの?

寺嶋由芙  どんどん増えるのでまだ全部ではないと思うんですけど、47都道府県にだいたい友達がいるようになってきました。

鈴木慶一  ということはゆるキャラが今全国各地にいっぱいいるわけだね。そこの頂点にいるのがゆっふぃー?

――寺嶋由芙さんはこの間まで、みうらじゅんさんや安斎肇さんと「ゆるキャラQ」(東海テレビ)というゆるキャラ番組を一緒にやっていたんですよ。

鈴木慶一  へぇ!

寺嶋由芙  「ゆるキャラ」という言葉を作ったのがみうらさんなので、名付け親と一緒に仕事をさせていただきました。

――鈴木慶一さんも寺嶋由芙さんもいろいろな種類の仕事をしていますが、鈴木慶一さんは結果的にこうなった感じなのでしょうか?

鈴木慶一  いろんなことをまじめにやっているうちにだね。

寺嶋由芙  まじめ、大事だな!

鈴木慶一  映画音楽も、まじめに音楽をやっているうちにお話が来たりね。今ムーンライダーズが休止中だから「ムーンライダーズの鈴木慶一」からちょっと離れてると思うんだ。一応肩書きはいまだに「ムーンライダーズ」と書くことも多い。ただ、バンドが何もしてないということによって、ちょっと重荷が降りた感じはするね。重荷が嫌なわけじゃないんだけど、バンドでは取りまとめ役で、リーダーとも違うんだよね。「私の言うことを聞きなさい」って言うわけじゃないし、民主的にやってくのは大変で、「こんな感じにしようか」と言う提案者なんだよ。それがすごく重荷でもある。バンドが休止してることによって、スペースがいっぱいできた感じになって現在に至っているね。

――「japanぐる~ヴ」で鈴木慶一さんと会った後に寺嶋由芙さんがいたく感動していたんですよ。やっぱり長くやっている人は違うし、驕らないと言っていて。

寺嶋由芙  さっきもお話しした通り、「鈴木慶一さんはすごい人」っていうイメージだけがあったからすごく緊張していて「大丈夫なんだろうか、撮影するお店も狭いし」みたいな感じでした。でも、とっても優しくしていただきましたし、すごくためになるお話もたくさん聞かせていただいたので、鈴木さんのようにやっていきたいなって私も思いました。

鈴木慶一  そういうキャラクターなんですよ、ゆるキャラなんですよ。賞をもらうっていうのも偶然だし、総合力によってもらえているわけで、自分の力だけじゃないですよ。

――ご本人としては「偶然」という感覚なのですか?

鈴木慶一  そう。「もらえるんだったらいただきますよ」という感じだよね。びっくりしたのは「第50回日本レコード大賞」で「ヘイト船長とラヴ航海士」(2008年の鈴木慶一のソロ・アルバム)が優秀アルバム賞を受賞したときで、ある協会の会長さんに「毎日聴いてます」って言われて「毎日これ聴いてたら気が狂いますよ」と思ったね(笑)。

「安定してる」と言われたらそれは悪口

――鈴木慶一さんみたいに、いろんなことをやりながら長く続けるコツはなんでしょうか?

鈴木慶一  いきなり妙な結論だけど、「結果的に長く続けられた」と思えれば一番いいんじゃない? あと、まじめに。「頑張る」って言葉は私は好きじゃなくて、「踏ん張る」は好きなんです。「踏ん張る」はなんかギリギリ感があるじゃん。踏ん張ってまじめにやればいいんじゃないかと思いますよ。違うジャンルに行ったとしても、それも「結果そこにいる」と思えばいいんですよ。あと、経験に頼らないほうがいい。「こういう経験をしたから今度もこうであろう」と思わないほうがいいと思うね。経験に頼るのは困った時だけでいい。すげー落ち込んだ時に過去にやった音楽を聴いてみて、「そこそこいいことやったかもしれないな」って思えたら一歩踏み出せますよ。常に「初めてだ」っていう気持ちでいればいいんじゃないですか。なんつって、説教くさくなっちゃったんですが(笑)。

寺嶋由芙  本当にその通りだなと思うので、新鮮な気持ちで日々やっていきたいなと思います。今、たぶん私は新鮮さが足りないんですよ。ずっとひとりでやっているぶん、自分の手札が自分でわかっちゃってるから、「こういう時はこういうことをやろう」と自分でも安定しちゃってるし、その安定感を求められがちだったりもするから、そこを打破していきたいなって思うんです。

鈴木慶一  安定感を求められるのはそれでいいと思う。それ以外は不安定なものでもいいんじゃないですかね。

寺嶋由芙  そういうふうにやりたいし、新しいものを見せていきたいなって思います。

鈴木慶一  「安定してるよね」って言われたらそれは悪口だと思ったほうがいい。相手は褒めてるのかもしれないけど、言われたほうとしては「これはダメ出しだ」と思わないとね。

―― ムーンライダーズは「安定してるよね」と言われたことはありますか?

鈴木慶一  ないね。だから良かった。「熟してますね」とか「円熟してますね」とか言われることも拒否してた。成熟はあるけどね。

THE BEATNIKS「EXITENTIALIST A XIE XIE」CDジャケット(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)
THE BEATNIKS「EXITENTIALIST A XIE XIE」CDジャケット(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)

悩みは次の作品を作る原動力

――鈴木慶一さんは、ここ数年だけでも、はちみつぱい、ムーンライダーズ、THE BEATNIKS、No Lie-sense、Controversial Spark、さらにソロで活動しています。そのエネルギーの源を寺嶋由芙さんに教えていただければと。

鈴木慶一  面白いから。面白くなかったらやらないでしょ。なんで面白いかっていうと全部音楽じゃん? 音楽が面白いからやっているんでしょうね。だからまじめに作る。たとえば「MOTHER」の時も本当にまじめに作って、後々「『MOTHER』の人ですよね」って言われるだけで私は嬉しいもん。「『MOTHER』だけじゃないんだよ」って言う気はない。その人にとっては「MOTHER」の人だし、それでいいんですよ。

――寺嶋由芙さんは「ゆるキャラの人ですよね」って言われてもOKでしょうか?

寺嶋由芙  それを言ってくれる人を増やすことが大事かなと思います。ひとりの人に全部の活動を把握してもらうんじゃなくて。

鈴木慶一  ゆっふぃーはいろんなことを自分ひとりで考えてる?

寺嶋由芙  そうなりがちなのをちょっと変えていきたいなと思います。

鈴木慶一  集団も大事。要するにダメ出しする人とかも重要ですよ。自分ひとりじゃできないこともいっぱいあるし。

――4月1日のワンマンライヴのセットリストは寺嶋由芙さんひとりで決めたのでしょうか?

寺嶋由芙  基本的には。それでマネージャーに確認してもらいます。

――ゆるキャラがいっぱい出てくるから、セットリストのゆるキャラに関する部分は寺嶋由芙さんにしか作れないんですよね。

寺嶋由芙  そこがいつも難しいですね。「この子に何をさせたらいいのか」とか。

鈴木慶一  ゆるキャラがどんなことができるのかわかっているのね。

寺嶋由芙  わかっていることもあれば、ご本人にうかがうこともあります。

鈴木慶一  それはもう自分でやるしかないですよ。

寺嶋由芙  そうですよね。ゆるキャラプロデュースは自分で頑張りたいけど、寺嶋由芙のプロデュースを誰かに……あ、じゃあ逆にゆるキャラにやってもらえばいいのか! 「私、何すればいい?」って。Win-Win(笑)。

――自分の活動について難しいと言う寺嶋由芙さんは、鈴木慶一さんから見るとどう映りますか?

鈴木慶一  若いうちは誰しも悩むんじゃないですか? それが普通と言っちゃ変だけど、そんなもんでしょ。

――そうすると寺嶋由芙さんの場合は、ここまでの話まとめると悩みながらやりたいことをまじめにやるのが一番いいんですかね?

鈴木慶一  まじめにやれば悩みは当然浮上してくるんじゃない? いい加減にやるとそれがないんですよ。

――鈴木慶一さんは若い頃、悩みはどうやって乗り越えていたんですか?

鈴木慶一  それは次の作品を作る原動力にもなるので消えないんだよ。たぶん一生消えないね。満足しないということを容認することが、悩みを乗り越えることなんじゃないですか。たとえばライヴをやって「あー良かった、100%OKだよ」って思えないこともあるでしょ? それが一番なんですよ。満足しないことを容認するということは、次があるということ。不完全なことが続けば、いいものもできるし続くんです。完成したら終わり。完成ほど恐いものはないですよ。

――鈴木慶一さんの中では、いろんなものが完成してないのでしょうか?

鈴木慶一  何も完成してないよ。何も完成してないからやってるんだよ。

寺嶋由芙  そういう感覚を次につなげるしかないなっていうのは私も思います。

鈴木慶一  次やって、また失敗するんだよ。100%失敗しろとは言えないけど、それもたまにはいいかもしれないね。3月31日のライヴで「くれない埠頭」をやったじゃん? マイクをお客さんに向けて歌ってもらったら、だんだんしんみりしてきたのよ。そしたら武川(雅寛。ムーンライダーズ)がフレーズをシャッフルにしたのね。そしたらお客さんも明るく歌いだして、「あいつすげーな」と思ったね。あれがライヴの醍醐味だね。

――急にヴァイオリンがトラッド風になったんですよね。ただ、寺嶋由芙さんはソロだし、アイドルは基本的にオケを使うので、縛りがあるんですよね。

鈴木慶一  でも、しゃべる時とかいろいろ見ながら変更したりするでしょ?

寺嶋由芙  そうですね。

鈴木慶一  お客さんに何かしゃべる時とかは、そこが生な感じじゃない?

寺嶋由芙  なるへそ。ナマモノ感をもうちょっと大事にしていこうと思います。

THE BEATNIKS「EXITENTIALIST A XIE XIE」アナログ盤ジャケット(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)
THE BEATNIKS「EXITENTIALIST A XIE XIE」アナログ盤ジャケット(提供:BETTER DAYS/日本コロムビア)

ライヴの日に風邪をひかないようにする秘訣

――鈴木慶一さんは、酒も飲めば煙草も吸うのに、なぜ45年前と同じキーではちみつぱいの「塀の上で」を歌えるのでしょうか? 寺嶋由芙さんに喉を維持するコツを伝授してあげてください。

鈴木慶一  苦しいよ、かなり苦しい。キーを変えた曲も実はある。3月31日のライヴでやった「スカンピン」は一音半下げないと出ない。スモーキー・ロビンソンみたいに高いんだもん(笑)。あと、風邪をひいたらだめですよ。

寺嶋由芙  すいません、今風邪をひいてます(笑)。

鈴木慶一  ムーンライダースってライヴが少ないし、その日のためにみんなが全国から見に来るわけじゃん。そこで風邪をひいたら大変なことになるので、わざわざ手前に引くの。わざと寒い格好して寝たりしてね(笑)。声は面白いもので、風邪のひき始めがすごく良かったり、治りかけが良かったりもするんだよ。でも、そんな異常なコントロールはできないでしょ? とりあえず本番で風邪をひかないように先にひいちゃう。

――寺嶋由芙さんも今風邪をひいておいて正解ですね、ワンマンライヴの合間だし。

寺嶋由芙  じゃあお酒とか飲もうかな(笑)。

鈴木慶一  それは博打みたいなものだよ(笑)。

人間の一生は意外と短い

――寺嶋由芙さんは今年の秋にソロ活動5周年を迎えるのですが、鈴木慶一さんは2015年12月20日に「鈴木慶一ミュージシャン生活45周年ライブ」を開催しました。そろそろ48周年ですね。

鈴木慶一  半端だな(笑)。長く続けようなんて思っちゃいないからね、最初から。一個終わったら「次があればな」っていうぐらいのペースなんだよね。「20年後にこうしよう」とかいうものはない。だから、その時その時をまじめにやってればなんとかなるんじゃない?

寺嶋由芙  続けたい気持ちがありつつ、でもこの5年間も目の前に来たものをとにかくやってたら5年が経ったので、その延長で行っていいのかなという気持ちもあるんです。

鈴木慶一  5年なんてあっという間じゃない?

寺嶋由芙  あっという間でした。だから次の5年が「あっという間」になっちゃうと、私は32歳になるので、ダラダラやっていてはいけないなっていう気持ちはあります。

鈴木慶一  さっきから言ってるけど、ひとつひとつまじめに対応し、まじめにやっていくことがいいんじゃないかな。

――アイドルの子は、どうしても年齢も気にすると思うんですよ。

鈴木慶一  私の考え方としては、女性アイドルであれシンガーソングライターであれ、年齢は関係ないと思いますけどね。ただアイドルということにおいては「この年齢がいいんだよな」っていう漠然とした感覚は集団で持ってるんじゃないかな。そう言われないように続けることによってそれは解消される。人間の一生は意外と短い。

――鈴木慶一さんが言うと重みがありますね。

鈴木慶一  これは岡田(徹。ムーンライダーズ)くんが言ったんだけどね。ライフ・イズ・ベリー・ショートですよ。

寺嶋由芙  充実させられるようにします。

鈴木慶一  それによって忙しくてしょうがないってことになるわけでもないと思うんだよ。

寺嶋由芙  今はわりと忙しいかな。でも、忙しくなくなるのも嫌だなって思うんです。

鈴木慶一  じゃあ、そのままで行ったほうがいいんじゃない? それで物事が回転していくのであればね。あとは肉体が丈夫でないとね。

寺嶋由芙  そうですよね。風邪をコントロールできるようになります!

鈴木慶一と寺嶋由芙(撮影:梅本高志)
鈴木慶一と寺嶋由芙(撮影:梅本高志)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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