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大学ラグビー 強さ測る仮説とは? 大学選手権総括&独自表彰【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
雪中に喜ぶ江良(写真中央)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 もう、思い出に浸らなくていい。

 明治大学ラグビー部を率いる神鳥裕之は、監督室に飾る新聞記事を変えた。それは、昨季にあたる2022年度のシーズンが終わってからのことだった。

 もともと額に入れていたのは、22季ぶり13度目の大学日本一に輝いたシーズンの紙面だった。加盟する関東大学対抗戦Aで帝京大学に久々に勝ち、喜ぶ様子を伝えていた。

 しかし自身3季目で創部100周年にあたる2023年度には、「もう、だいぶその(勝っていた)記憶も塗り替えられている」と神鳥。帝京大学に敗れた一昨季の選手権決勝、その帝京大学が2連覇に喜ぶ様子を報じるカラーページを、目に映るところに置いた。

 見出しの文言に触れて話した。

「(普段から)よく、目にしますよ。『スクラムで終始圧倒』とあるのを見ると、明治が一番大事にしていることですから、取り戻さないといけないな…とか。『連覇』というのに触れると、いつまでも勝たせたくないなぁと思います。負けた瞬間の気持ちが、色あせないように」

 執念を結実させるのは、来季へ持ち越しとなった。

 2024年1月13日、東京は国立競技場。大学選手権の決勝を15―34で落とした。

 対抗戦Aの対戦時に11―43と屈した帝京大学へ乾坤一擲のアタックを披露も、及ばなかった。落雷による約55分の中断を挟んだ激闘を経て、言葉を絞った。

「監督としても責任を感じています。彼らを勝たせてあげられなかったことには申し訳ない気持ちです」

なぜ帝京大学は強いのか

 勝者はV3達成だ。

 手元の滑るコンディションのもと、戦い方を微修正していた。中盤からはキックを多用し、敵陣にいる間にペナルティーゴールをもぎ取り着実に加点した。ラスト3分で、こだわりのモールで計4本目のトライを奪った。 地力を示した。強かった。

 背景には、猛練習がある。全国の俊英が大学の「医療技術学部 スポーツ医療学科」の綿密な支援のもと、ひたすらに走る。鍛える。好キックで試合運びを好転させたウイングの小村真也は、顔をほころばせて言った。

「(印象的なのは)フィットネスの練習。帝京大学はどこよりも走り、タックルしている自信があります。レスリングもしています。来年(来季)になるのが、(すでに)怖いくらいです」

 才能と努力と経験値の積が勝敗を分けるとする。

 その仮説が成り立つのであれば、帝京大学が今季まで3連覇するのは不思議ではなかった。

 2017年度までの9連覇時に選手間の風通しのよさを築き、ハードワークを常識とし、かつ、各学年の有力株を集め、主軸候補には適切なゲームタイムを与えているからだ。

 主将でフッカーの江良颯、副将でフランカーの奥井章仁は、大阪桐蔭高校2年時に全国優勝と高校日本代表入りを果たしており、帝京大学では1年目から主力を張っていた。

 ロックの本橋拓馬、フランカーの青木恵斗の3年生2人も高校ジャパン組。この学年では万能バックスでニュージーランド帰りの小村真也と並び、下級生の頃から主力としてキャリアを積んでいる。

 王者が好循環を生むなか、普段からそれに追いつかんとする対抗戦勢は選手権でも優勢。今回、創部100周年で戦力が潤沢と見られた明治大学と頂上決戦をおこなうのも、もともと多くの関係者が予想するところだった。

西の奮闘

 かたや以前、対抗馬だった関東大学リーグ戦勢は参加した3チームすべてがそれぞれの初戦で姿を消した。

 逆に存在感を高めたのが、関西大学Aリーグの面々だ。

 そもそも昨年度までに2シーズン続けて、京都産業大学が4強入りしていた。大雑把に言えば、先ほどの仮説で言うところの努力の値を引き上げたことで帝京大学、早稲田大学に肉薄していた。

 京都産業大学のカルチャーと言えば、元監督の大西健が繰り返してきたフレーズが浮かぶ。

「いつ何時でもチャンピオンシップを狙う」

「我々はひたむきにやらないと並みのチームになるんだ」

 京都産業大学の奮闘が同一リーグ内でのフィジカリティの基準を引き上げたり、各校に有力なタレントが入ったりすることに繋がり、いまに至るわけだ。

 今大会では、2020年度王者でこちらも鍛錬の砦と言える天理大学が対抗戦の慶應義塾大学を41―12、リーグ戦1位の東海大学を34―14と順に破った。

 準決勝では、帝京大学に2点差に迫ってハーフタイムを迎えた。12―22での終戦を受け、小松節夫監督は言った。

「ここへ来て、もう一度、日本一が見えてきた。努力を重ね、いいチームを作って、ここに戻ってきたいです」

 関西にムーブメントを巻き起こした京都産業大学は、今回も準々決勝で対抗戦の早稲田大学を65―28と一蹴。個々の推進力が光った。

 明治大学とのセミファイナルへ、2年生ナンバーエイトのシオネ・ポルテレは息巻いていた。日本語での決意表明。

「我々、京都産業大学は、これまで10回のベスト4。よく準決勝に行っていますが、(今回は)決勝戦に行きたいです。誰でも明治大学のことは強いという。ただ、僕は、リスペクトをしたうえで、それは名前だけだ(と捉えたい)と思います。絶対に戦う。関東での試合(舞台は国立)なので、明治大学のファンが多い。でも、僕は試合前に緊張しないし、相手の応援が多い時にそこを倒すのが一番、楽しいと感じます」

 もっとも当日は、帝京大学からもスコアを奪う明治大学の多彩な攻めに翻弄された。30―52。好タックルで大学シーンを盛り上げてきたフランカーの三木皓正主将が、最後に後輩たちへのエールを求められた。シビアな口調で応じた。

「(必要なのは)とてつもない努力だと思います。僕はそれを4年間やり続けて、足りていなかったので」

異例の決勝

 決勝の舞台は、スタジアムの設計から屋根に覆われた記者席にも雪が舞い込んでいた。報道陣は慌ててテーブルのパソコンを片付ける。ただ、それで文句を言ってはいけなかった。

 ジャージィ姿のまま表彰式に臨んだファイナリストたちのほうが、よほど寒そうだったからだ。

2023年度大学選手権独自表彰

MVP

江良颯(帝京大学・4年)…スクラム、キャリー、レフリーとの対話と、持ち場を全う。

MIP

廣瀬雄也(明治大学・4年)…対抗戦の帝京大学戦前に故障も、懸命のリハビリで準決勝から復帰。

新人賞

海老澤琥珀(明治大学・1年)…ヴィヴィッドな走りでスタンドを沸かせた。

ベスト15

1,津村大志(帝京大学・4年)

2,江良颯(帝京大学・4年)

3,ヴェア・タモエフォラウ(京都産業大学・4年)

4,ソロモネ・フナキ(京都産業大学・3年)

5,尹礼温(帝京大学・4年)

6,青木恵斗(帝京大学・3年)

7,三木皓正(京都産業大学・4年)

8,パトリック・ヴァカタ(天理大学・3年)

9,李錦寿(帝京大学・3年)

10,伊藤耕太郎(明治大学・4年)

11,海老澤琥珀(明治大学・1年)

12,マナセ・ハビリ(天理大学・4年)

13,秋濱悠太(明治大学・3年)

14,高本とむ(帝京大学・4年)

15,小村真也(帝京大学・3年)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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