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帝京大学、対抗戦連覇でなぜ謝罪?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
会見する相馬監督、江良主将(左から・筆者撮影)

 日本ラグビーでもっとも古い慶應義塾大学が、「イングランドになる」のを意識した。徹底したハイパント攻勢、鋭い出足のタックルの連続…。なかば玉砕覚悟で局地戦を仕掛けるのに対し、大学選手権2連覇中の帝京大学がやや戸惑った。

 結局はフィジカリティとスキルに長ける帝京大学が54―10で勝利も、会見した相馬朋和監督と江良颯主将は浮かない表情だった。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

相馬

「本当にいろんな部分で準備してまいりましたが、慶応さんの気持ちのこもったタックルで受けに回る場面があったと思います。江良主将を中心にゲームの中で修正し勝つことができました。選手権にむかってひとつひとつ積み上げながら、日本一に向かって頑張ってまいりたいです。ありがとうございました」

江良

「最終戦。今まで積み上げてきたものをしっかりだそう。そう望んだですが、慶応さんのタフさ、ひたむきさを学んだ。課題が見つかった試合でした。まだまだ成長する局面がたくさんあるので、選手権に向けてチーム一丸となって日本一に向けて頑張っていきたいです。ありがとうございました」

——11月19日、明治大学とのビッグマッチを43―11で制しました。以後の準備状況をどう振り返りますか。

相馬

「対抗戦の明治戦のあとに、ジュニア選手権の決勝(対明治大学)があり、そこではCチームの練習試合も組んでいただきました。ジュニア選手権のリーグ戦期間中には明治さんに敗れていまして、対抗戦の試合の前にはチーム一丸となってもう一度自分たちを見つめ直し、いい結果を得ることができました。ここから(試合までの1週間という意味では)中1日分、短いなかでも試合となりまして、私自身も試合を見ながら、準備不足の点があったと振り返る次第です。ここからは、試合中に『学生に申し訳ないことをしたな』という思いを持たないで済むような準備をしないといけない。そう、強く思っています」

江良

「明治さん、早稲田さんという強豪校の伝統あるチームに準備してきたものと慶應さんに準備してきたものは同じくらいにできたという実感はあったんですけど、僕たちの甘い部分が出た試合だったので、本当に負けられない、1点差でも勝たなければならない試合。ひとつひとつの局面を圧倒できるような準備をし、日本一に向けて頑張らなくてはいけないと、この試合を通して感じました」

——試合中の修正について。

江良

「慶應さんのディフェンスにすごく圧力があるなぁ…。自分たちが圧力を受けて、形を出せていないなぁと感じていた。その圧力のウィークポイントというのを探して、そこに対してスタンドオフの井上陽公、小村真也というバックスのコントロールする選手とコミュニケーションを取り、修正していこうとした。ただ、それが実行できたかと言えば、できていないので。練習のなかでもそこを高めていきたい。

最初のところは(トライを)獲り急いでしまっている部分が見つかった。フィニッシュ(までの集中力と精度について)は練習でも言い続けていたんですけど、試合になると目の前にゴールラインがあって、いつもと違う感覚でやっているのかなというのが練習のなかで見つかった。本当に試合と練習を同じような環境、考え方でできれば焦りはなくなると思いますし、そこを練習から求めていきたいです。

 スコアを獲りたいというより、プレーの質、内容を求めるところが自分のなかである。そこの質が高ければ高いほど相手に圧力がかかると思いますし、僕たちのラグビーが本当にできると思う。『気づけばスコアが開く』という感じでやっている。質を求めたいなと。

(パスが繋がらない場面は)誰かが来てくれるであろう、と、時にぱっと放ってしまっている。僕たちは円陣でも『リンク』という声掛けをしていて、繋がりを大切にしている。繋がりを全員が感じられたら、もっといいチームになるのかなと思います」

 ひとつ、忘れかけられていた事案がある。

 帝京大学はこの日、加盟する関東大学対抗戦Aで優勝を制したのだ。7戦全勝で3年連続12度目の優勝。そのことが話題に上がったのは、会見で質問が出てからだった。

 相馬監督は、謝罪した。

——とはいえ、きょうの勝利で対抗戦優勝を決めました。

相馬

「大変失礼しました。最初に私が対抗戦優勝についてのコメントをしなかったせいで、こんな風になったと思うのですが…。対抗戦優勝に関してはチーム一同、嬉しく思っていますし、対抗戦優勝の価値は我々にとって高いものです。ただ、勝った瞬間から気持ちが先に飛んでしまいまして、そういうコメントができず、私自身、少し反省していますが…。対抗戦、ジュニア選手権を戦うなか、チームは何段階も成長してきたと感じます。それを継続し、1戦、1戦、戦いたいと思っています」

——江良主将は、優勝を受けて部員に何と伝えたか。

江良

「試合が終わってから円陣のなかで、『まず対抗戦優勝を誇りに思う』と。あとは、全員に問いかけたんですけど、『これで満足してる奴はおるか?』と。いないとは思うんですけど、本当に僕たちが成長するところはまだまだあるとわかっていると思う。日本一へ気、引き締めて、頑張っていこうと話しました。

僕は、全員が同じ絵を見ることが大事だと思っていて。どのようなプレーをするにしても同じ絵を見ていたら、誰かがミスをしても誰かがカバーできるし、誰かが抜けたら誰かがサポートする。細かいディテールを持ってこだわり続けることは練習からたくさん学べると思う。少ない日数。全員が同じ絵を見られるようにやっていきたいです」

 対抗戦優勝は栄誉であると同時に、通過点でもあった。

 ちなみにこの日は、江良が防御を引き寄せながらのパスでトライを演出。その動きについて質問が飛ぶと、本人はここでも「繋がり」について話した。

「僕たちのシェイプ(攻撃陣形)のなかで、常に練習から自分がどう仕掛けたらディフェンスがどう崩れるかを考えながらプレーしている。そのなかで、そこに対して、同じ絵を見てくれている選手が走ってくれるので、そこに対してパスを放ったというような、繋がりを持てたアタックだと思います。常に、スペースがあると思っているので、そのスペースをどう生み出すかというのと、そこにどういうようなアタックをするかを、常に考えています」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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